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第3章 高校1年生 2学期
第33話 読めない運命。
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次の日から誠が授業中以外ほぼいつも側に付き添うようになった。
普段物静かな彼だが、こうして側にいられると妙に存在感がある。
曰く、居るだけで抑止力になることも、護衛には必要な資質なのだとか。
私の周辺で起こっている異常のことは、学園にも報告済みだ。
とはいえ、学園側もどのように対応したものか苦慮しているようで、「学園でも調査してみる」との回答が得られたのみである。
学校とは一種の閉鎖空間だ。
一時期、地域に開かれた学校をという声が上がったこともあるけれど、丁度その時期に不法侵入事件が相次いだせいで、学校の閉鎖性は未だ未解決のままだ。
学生が自殺した時、遺族がいじめの疑いを持って調査を要求した場合ですら、警察の手が入ることは一部の例外を除いてほぼない。
今回の件に関しても学園側に出来ることは限られているだろう。
事態の隠蔽に走らないだけ、学園の誠実性が見られるというべきか。
まぁ、学園の有力出資者の令嬢が危機的状況に遭っている訳だから、無視する訳にもいかないという事情もあるだろう。
「今のところ大きな動きはないな」
ある日の休み時間、誠がそんなことをつぶやいた。
彼が護衛役となり、それなりに付き合いの生まれた人たちが離れていってからは、嫌がらせや危害を加えられたということはぱたりと止んでいた。
「冬馬やナキの調査でも、特に怪しい動きをしている奴はいないらしい」
「そうですか」
このまま何ごともなく事態が収束に向かえばいいのだけれど。
「いずみん、何話してるの?」
「……」
頭が痛いのはいつねさんのことだ。
彼女だけはみんなが距離を置いてからもなお、変わらず私と接してくる。
「いつねさん。迷惑です」
「こんな事態じゃなければ、1人になんてなりたくないでしょ? 本気であたしのことがうざいなら考えるけど、そうじゃないならあたしはあたしの方針で行動するよー」
こんな調子だ。
「何かあっても責任取れませんからね」
「うん。自己責任、自己責任」
◆◇◆◇◆
そんなことが何日か続き、そろそろ学園祭の準備が始まろうとしていたある日の放課後のこと。
誠、いつねさん、私の3人は食堂で座っていた。
食事をしなくとも、この食堂は広いので、学生ラウンジとしても使われているのである。
「……」
「どうしたんですか?」
普段こちらからアクションを起こすことのない私ですら、そう問いかけたくなるほど誠は難しい顔をしていた。
「いや……。こちらの話だ」
「まこ君、水くさいなー。話してみなよー」
いつねさんは相変わらずである。
私としては精々彼女に被害が及ばないように気をつけるしかない。
「そろそろ学園祭があるだろう?」
「そーだねー」
「軽音部も何かやろうということになっていたのだが、少しこじれてしまってな」
彼の話によると、バンドを組んでいた2人の女子が解散を申し出てきたのだという。
「何でそんなことになったのー?」
「……」
「言いにくいことですか?」
「まぁな」
その場はそう濁されたのだが、いつねさんがそのコミュ力と幅広い人脈を活かして調べてくれた。
「なんかねー。いずみんといつも一緒にいるようになったことで、嫉妬しちゃったみたいだねー」
誠と一緒にバンドを組んでいた子たちは、どうも誠に気があったらしい。
2人の子はお互いのどちらかなら、誠の相手として認めて自分は諦めるという心境だったらしいのだけれど、そこに私割り込んできたように感じたのだろう。
彼と私の間にそういう浮ついた話は一切ないのだが。
脅迫状の件もきちんと説明したらしいけれど、今は2人とも感情的になっているとかで、とても聞き入れてくれる状態にないとのこと。
私は誠に申し訳なくてしょうがなかった。
「申し訳ありません。私のせいで……」
「いや、彼女たちもいずれは分かってくれる」
誠はもう難しい顔をしていなかったけれど、それまで仲のよかった子たちに急に距離を置かれたら嫌だろう。
「ただ、今回はとてもいい曲が書けたから、それが心残りではあるな」
「へー。まこ君、作曲もするんだ」
「素人に毛が生えたようなものだが、音楽が好きなんだ」
好きなんだ、と口にした時、いつもは仏頂面の誠がかすかに微笑んでいた。
「和泉は知っているだろう? 1学期に歌をつけてもらった曲だ」
「あぁ、あれですか」
『チェンジ』の主題歌アレンジバージョンね。
あれ?
でもあれを演奏するのって、2年生の学園祭じゃなかったっけ?
ああ、これでお流れになるのか。
「今は柴田先生に預かって貰っている。やはり専門家の目が欲しいからな」
「柴田先生って、実はすごい人ー?」
「音大生時代にはもう天才と呼ばれていた作曲・編曲者だよ」
「へー!」
柴田先生の攻略ルートで明らかになる情報だ。
あの曲は彼の力なくしては完成しない。
あら?
でも柴田先生が手を加えるのも2年生に上がってからだったはず。
柴田先生と誠の両方の好感度が一定量あると発生するレアイベントなのだ。
「真島君」
と、噂をすればなんとやら。
柴田先生が現れた。
お忘れかも知れないが、真島君とは誠の苗字である。
「どうしたのですか、柴田先生」
名前を呼ばれた誠が立ち上がろうとするけれど、柴田先生はそのままそのままと手で合図しながら、自らも誠の隣に腰を下ろした。
「先日お預かりした曲ですが――」
「はい。どうでしょう?」
「素晴らしい曲です」
「ありがとうございます」
満面の笑みで言う柴田先生の言葉に、誠も思わず微笑んだ。
天才と呼ばれる音楽家に褒められたのだ。
そりゃあ嬉しいだろう。
「このスコアを見て、少し思ったことがあるのです。編曲をさせて頂けませんか?」
「構いません。むしろお願いします」
「それで、もう一つお願いがあるのですが……」
そこで柴田先生は少し言いよどんだ。
「編曲までして頂くのですから、何でも言って下さい」
実直な誠の言葉に背中を押されて、柴田先生はこう言った。
「ナキをこの曲に参加させてくれませんか」
やはり間違いない。
これは、『チェンジ!』の2年生時のレアイベントだ。
進行が早まっていることに、私だけが気づいた。
普段物静かな彼だが、こうして側にいられると妙に存在感がある。
曰く、居るだけで抑止力になることも、護衛には必要な資質なのだとか。
私の周辺で起こっている異常のことは、学園にも報告済みだ。
とはいえ、学園側もどのように対応したものか苦慮しているようで、「学園でも調査してみる」との回答が得られたのみである。
学校とは一種の閉鎖空間だ。
一時期、地域に開かれた学校をという声が上がったこともあるけれど、丁度その時期に不法侵入事件が相次いだせいで、学校の閉鎖性は未だ未解決のままだ。
学生が自殺した時、遺族がいじめの疑いを持って調査を要求した場合ですら、警察の手が入ることは一部の例外を除いてほぼない。
今回の件に関しても学園側に出来ることは限られているだろう。
事態の隠蔽に走らないだけ、学園の誠実性が見られるというべきか。
まぁ、学園の有力出資者の令嬢が危機的状況に遭っている訳だから、無視する訳にもいかないという事情もあるだろう。
「今のところ大きな動きはないな」
ある日の休み時間、誠がそんなことをつぶやいた。
彼が護衛役となり、それなりに付き合いの生まれた人たちが離れていってからは、嫌がらせや危害を加えられたということはぱたりと止んでいた。
「冬馬やナキの調査でも、特に怪しい動きをしている奴はいないらしい」
「そうですか」
このまま何ごともなく事態が収束に向かえばいいのだけれど。
「いずみん、何話してるの?」
「……」
頭が痛いのはいつねさんのことだ。
彼女だけはみんなが距離を置いてからもなお、変わらず私と接してくる。
「いつねさん。迷惑です」
「こんな事態じゃなければ、1人になんてなりたくないでしょ? 本気であたしのことがうざいなら考えるけど、そうじゃないならあたしはあたしの方針で行動するよー」
こんな調子だ。
「何かあっても責任取れませんからね」
「うん。自己責任、自己責任」
◆◇◆◇◆
そんなことが何日か続き、そろそろ学園祭の準備が始まろうとしていたある日の放課後のこと。
誠、いつねさん、私の3人は食堂で座っていた。
食事をしなくとも、この食堂は広いので、学生ラウンジとしても使われているのである。
「……」
「どうしたんですか?」
普段こちらからアクションを起こすことのない私ですら、そう問いかけたくなるほど誠は難しい顔をしていた。
「いや……。こちらの話だ」
「まこ君、水くさいなー。話してみなよー」
いつねさんは相変わらずである。
私としては精々彼女に被害が及ばないように気をつけるしかない。
「そろそろ学園祭があるだろう?」
「そーだねー」
「軽音部も何かやろうということになっていたのだが、少しこじれてしまってな」
彼の話によると、バンドを組んでいた2人の女子が解散を申し出てきたのだという。
「何でそんなことになったのー?」
「……」
「言いにくいことですか?」
「まぁな」
その場はそう濁されたのだが、いつねさんがそのコミュ力と幅広い人脈を活かして調べてくれた。
「なんかねー。いずみんといつも一緒にいるようになったことで、嫉妬しちゃったみたいだねー」
誠と一緒にバンドを組んでいた子たちは、どうも誠に気があったらしい。
2人の子はお互いのどちらかなら、誠の相手として認めて自分は諦めるという心境だったらしいのだけれど、そこに私割り込んできたように感じたのだろう。
彼と私の間にそういう浮ついた話は一切ないのだが。
脅迫状の件もきちんと説明したらしいけれど、今は2人とも感情的になっているとかで、とても聞き入れてくれる状態にないとのこと。
私は誠に申し訳なくてしょうがなかった。
「申し訳ありません。私のせいで……」
「いや、彼女たちもいずれは分かってくれる」
誠はもう難しい顔をしていなかったけれど、それまで仲のよかった子たちに急に距離を置かれたら嫌だろう。
「ただ、今回はとてもいい曲が書けたから、それが心残りではあるな」
「へー。まこ君、作曲もするんだ」
「素人に毛が生えたようなものだが、音楽が好きなんだ」
好きなんだ、と口にした時、いつもは仏頂面の誠がかすかに微笑んでいた。
「和泉は知っているだろう? 1学期に歌をつけてもらった曲だ」
「あぁ、あれですか」
『チェンジ』の主題歌アレンジバージョンね。
あれ?
でもあれを演奏するのって、2年生の学園祭じゃなかったっけ?
ああ、これでお流れになるのか。
「今は柴田先生に預かって貰っている。やはり専門家の目が欲しいからな」
「柴田先生って、実はすごい人ー?」
「音大生時代にはもう天才と呼ばれていた作曲・編曲者だよ」
「へー!」
柴田先生の攻略ルートで明らかになる情報だ。
あの曲は彼の力なくしては完成しない。
あら?
でも柴田先生が手を加えるのも2年生に上がってからだったはず。
柴田先生と誠の両方の好感度が一定量あると発生するレアイベントなのだ。
「真島君」
と、噂をすればなんとやら。
柴田先生が現れた。
お忘れかも知れないが、真島君とは誠の苗字である。
「どうしたのですか、柴田先生」
名前を呼ばれた誠が立ち上がろうとするけれど、柴田先生はそのままそのままと手で合図しながら、自らも誠の隣に腰を下ろした。
「先日お預かりした曲ですが――」
「はい。どうでしょう?」
「素晴らしい曲です」
「ありがとうございます」
満面の笑みで言う柴田先生の言葉に、誠も思わず微笑んだ。
天才と呼ばれる音楽家に褒められたのだ。
そりゃあ嬉しいだろう。
「このスコアを見て、少し思ったことがあるのです。編曲をさせて頂けませんか?」
「構いません。むしろお願いします」
「それで、もう一つお願いがあるのですが……」
そこで柴田先生は少し言いよどんだ。
「編曲までして頂くのですから、何でも言って下さい」
実直な誠の言葉に背中を押されて、柴田先生はこう言った。
「ナキをこの曲に参加させてくれませんか」
やはり間違いない。
これは、『チェンジ!』の2年生時のレアイベントだ。
進行が早まっていることに、私だけが気づいた。
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