【完結】青春は嘘から始める

きよひ

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番外編

クリスマスの光安と桃野(桃野視点)

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 街灯でほのかに照らされた夜道を恋人とふたりで歩く。
 冷たい風が素肌の部分を刺してきて、首元の防寒もしておけば良かったと後悔する。
 隣を歩く光安も、ポケットに手を入れて肩を縮こまらせていた。
 
 今日は、クリスマスパーティをした。
 光安と仲のいいクラスメイト4人と、その恋人たちも来て全員で8人。
 正直初めは、恋人とふたりで過ごしてみたいという気持ちも強かった。でも、誘ってくれた時に光安が、

「それで、その後、泊まりに行っても良いか?」

 と、はにかみながら言うものだから。
 首を縦に振るしかないだろう。
 クリスマスパーティを友人とする、という機会も初めてだったから、それはそれで楽しみなイベントとなった。

 実際、賑やかな空間で食事したりケーキを食べたり、プレゼント交換をするのはとても楽しくて。俺は、あの時「行く」と言って良かったと心から思う。
 感謝の気持ちを込めて、鼻が赤くなった横顔をじっと見つめる。すると、にっこり笑った光安が俺の手をとって、再びダウンコートのポケットの中に入れる。
 そういうつもりじゃなかったけど、暖かくて嬉しい。

 俺は横に一歩、光安に近づいて歩くことにした。
 見上げた先の耳が赤いのは、寒さのせいだろうか?
 
 ◆
 
 風がないからマシなものの、留守にしていた室内はやはり寒い。
 すぐに暖房と風呂のスイッチを押す。

「外、寒かったな~!」

 光安はアウターを脱ぎ、笑顔だったけれど。
 時間になったら湯が沸くようにしておけば良かった。部屋が寒いのも、俺の不手際だ。

「すまない、体が冷えているだろう? 何か温かい飲み物……、光安?」

 俺はまだ寒くて、コートを脱がないままキッチンへと向かおうとした。しかし、腕をしっかり掴んで止められた。
 不思議に思いながら振り返ると、熱を持った瞳で見つめられる。
 
 鼓動が、少しずつ早くなり始めた。
 
 男らしい眉と優しい目、バランスの良い大きさの鼻や口。初めて見た時から、ずっと好きだった顔が目の前にあるのは、未だに夢じゃないかと思うことがある。
 
 光安はいつも「桃野は綺麗だな」「髪、黒くて艶々で肌も白くてまつ毛も長いしすごいな」と俺を褒めてくれるけど。
 光安以外の人にも、小さい頃から言われてきたことではあるけれど。

 俺からすると、光安の格好良い顔や親しみやすい性格の方が何倍も好感が持てる。

 なにも言えないでただ見惚れていた俺の頬を、大きな両手が包んだ。
 ポケットに入れていたからだろうか。
 それとも俺の肌が冷たすぎたのか。
 手を繋げなかった方も、予想より温かい。
 その温もりが心地よくて目を閉じる。

 それが合図だったかのように、柔らかい唇が俺のそれに重なる。
 ボリュームのある髪が、瞼に触れた。
 幸福感が頭にも胸にも溢れてきて、背中に腕を回しセーターに触れた時に。

 キスが終わってしまった。
 
(……早い……)

 物足りなくて、もう一度して良いだろうかと光安の様子を伺う。
 向こうも同じようにこちらを見ていた。俺の視線をどう受け取ったのだろう。
 口元を緩めた光安が、俺の好きな安心感のある声で言葉を紡ぐ。

「……こうしたらあったかく……なったりしないかな~ってな」

 その笑顔に、一際大きく、胸が鳴る。
 照れてしまったのか、最後はふざけているかのような響きに変わっていった。
 そういうところも、愛しい。
 血の巡りが良くなって、本当に指の先まで熱くなりそうだ。

「ならない」
「ははは。だよな~」

 光安は残念そうに両手を離してヒラヒラと振った。
 我ながら、あまりにも感情の乗らない自分の声に溜息が出そうだった。
 もっと可愛らしい表情や声が出せれば良いのに。
 でも、俺は背に回した腕は離さなかった。
 こんなことならすぐコートを脱げばよかった。
 いつもの体温をあまり感じられない。
 
 軽く背伸びをして、今度は俺から光安の唇を奪う。
 抱き締めている体が、固まったのが分かった。
 すぐに唇を離すと、見開かれた目に向かって微笑みかける。

「1回じゃ、全然暖かくならない」

 みるみるうちに首まで真っ赤になっていく。
 分かりやすくころころ変わる表情が可愛い。
 
(大好きだ)
 
 顔を再び近づける。

「桃野、好きだ」

 唇が触れ合う直前の甘い声。

 俺も、と言えないまま飲み込まれていった。
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