【完結】青春は嘘から始める

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
65 / 65
番外編

花見をする桜田と空(空視点)

しおりを挟む
 公園は桜がほぼ満開だ。
 今までであれば、どんな花が咲こうと散ろうと落ちようと踏まれようと。なんとも思わなかった。

 だが、今年はこの花が美しいと感じる。
 木や地面を彩る薄紅の中で笑うサクラの影響だろうか。

 桜田さくらだという苗字から俺が適当につけた恋人の呼び名は、今の季節にぴったりだった。

「なぁなぎ、花見しようぜ! 明日!」

 と昨日の晩、唐突に電話で告げてきたサクラとふたりで公園に来た。
 なんでそんなに急なんだとため息を吐くと「週末には雨予報だから散る可能性がある」ということだった。
 花見なんて、わざわざするのは初めてだ。

(花見っつっても、公園で飯食うだけだろ……)

 お互い弁当も持たず近くのコンビニで昼食を調達し、運良く空いているベンチに座った。
 出かける時には弁当を作ってくる女が今までには居たが、俺もサクラもそんなスキルはない。

 大口を開けてカツサンドを頬張る恋人は、先ほどからサッカーをしている中学生くらいのグループに目が釘付けだ。
 小柄で童顔なサクラは、高校を卒業した今も中学生に馴染むだろう。

(そんなに気になるなら混ざってこいよ、なんて言わねぇけど)

 一緒にいる貴重な時間をこれ以上サッカーに奪われてたまるか。
 俺はサクラの意識をこちらへ向けようと、コーヒーの缶を開けながら口を動かす。

「お前、引っ越しの準備は」
「もうほとんど終わったー」

 部活の推薦で都会の大学に行くのが決まってるサクラは、家から出て一人暮らしをする。
 準備のせいで夜と早朝しかサッカーボールに触れないと愚痴を言っていた。
 いや、それだけ触ってりゃ十分だろ。

 サクラはパンのかけらを口に放り込むと、ようやくこちらを向いた。

「凪は? そろそろ詳しく教えてくれよー場所分かんないと会えねぇじゃん」

 眉を寄せる表情は妙に可愛らしい。
 見た目だけじゃなく、中身もガキみたいだからたまに犯罪者の気分になる。
 いつも俺の優先順位がサッカーより低いようだけど、ちゃんと気にかけてはいたらしい。

「隣」
「え」
「お前の隣の部屋」
「すご」

 丸い目を見開いたサクラは、分かりやすく口角が上がる。
 その時丁度、小さな花びらがひとひら、その黒い髪に乗った。俺はそれを取ろうと手を伸ばす。

「そうでもしねぇとお前サッカーばっかで会えねぇだろどうせ」
「そんなことねぇ、と、思うけど……」

 自信なさそうな声を出しながら、目は俺の動きを追う。
 摘んだ薄紅色をサクラの手のひらに乗せてやると、楽しげに息を吹いて飛ばす様子が見られて口元が緩んだ。

「浮気も見張れるしな」
「それはこっちのセリフだからな!?」

 バシンと音を立てて、額を叩かれる。
 女を取っ替え引っ替えしていた俺と、付き合うのが初めてだというサクラのことだ。どう考えてもサクラの言い分が正しい。
 そう考えると、自分のこの1年の入れ込み具合は尋常ではなかった。

「隣の部屋に住み着くなんて重いとは思わないのかお前」
「えー? 俺は一緒に住みたいくらいだし。社会人になったら同棲しような!」


 住む場所を聞き出して、すぐに動いた甲斐があるというものだ。
 サクラが楽天的に俺の行動を受け入れてくれるから、色々エスカレートしそうになる。
 屈託ないサクラの笑顔を見て、この場で引き寄せて唇を奪いたくなったがここは外。
 俺はただ柔らかい頰を撫でるだけにした。
 
 強い風が吹いて桜が舞う。

 こいつとならこの先何度でも、こうして、ただ飯を食うだけの花見をする気がする。
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

えみーな
2025.08.23 えみーな
ネタバレ含む
2025.08.24 虎ノ威きよひ

えみーなさん、お読みいただきありがとうございます!
感想をお伝えいただいて嬉しいです!
嘘告白、高校生っぽくていいなと思って楽しく書きました!
また番外編も書ければいいなと思います✨
本当にありがとうございました!

解除
金浦桃多
2024.07.01 金浦桃多
ネタバレ含む
2024.07.01 虎ノ威きよひ

金浦桃多さん、コメントありがとうございます!
土井と杏山は付き合ったあとは本当にとんとん拍子で進みそうですね!
そうなんですよー!絶対わんちゃん飼ってほしい!!

水坂と梅木は一番悩んだカップルなので嬉しいです!頑張った甲斐がありました!
ずっと梅木がツッコミ頑張っそうですね〜

4組もお読みいただき、本当にありがとうございます!!

解除
金浦桃多
2024.06.28 金浦桃多
ネタバレ含む
2024.06.29 虎ノ威きよひ

金浦桃多さん、感想ありがとうございます!

どちらのカップルも、最終的には受けに振り回されている攻めになりそうだな〜と書き終わった時に思いました( ´ ▽ ` )
1組ずつに対する感想をいただけてとてもうれしいです!いつも本当に力になります!

ご無理のない範囲でお楽しみください✨

解除

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。