星は夜に抱かれ光り輝く〜人の顔がお金に見えちゃう貧乏貴族オメガは玉の輿にのりたい!のに苦学生アルファに恋する?〜

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
7 / 12

初対面なのに

しおりを挟む
 
 セルジュの啜り泣く声と、カルロスが静かに相槌を打つ声が部屋に落ちる。

 唇を重ねた後、カルロスの温かい腕の中で自分の置かれている状況を説明し始めてしまったセルジュは、まだ新しい服を着れないでいた。
 カルロスは泣いていて支離滅裂なセルジュの話を紐解きながら細い体を抱き起こし、横向きに膝に乗せて自分の上着を肩に掛けてくれた。

「ごめんなさい。ほ、他に、オメガの俺が役に立てる方法が思いつかなくて……っ! お願い、誰にも、言わないで」

 しゃくり上げて必死に手で涙を拭う。
 とにかく惨めで仕方がなかった。
 お金がなくてもカルロスのように努力と才能で最高の学校に行ける人もいるというのに、セルジュが思いついたのは騙し討ちのような方法だけだ。

 そんなセルジュの話を、元の優しい雰囲気に戻ったカルロスは嗤うことも怒ることもなく聞いてくれる。

「事情も知らず、酷いことをしてしまった」

 全て話し終えると、重々しい声で謝罪された。肩に額を擦り寄せると、ずっとあやすように撫でてくれていたカルロスの腕に力が籠る。
 包んでくれる体温と香りに安心して、乱暴を働かれたとは思えないほど無防備に体を預けてしまう。

「カッとなってしまって」
「俺が悪いんだ。友だちがこんなオメガに引っ掛かったら嫌だよな」
「違います。貴方がこういうことを他の男ともしているかと思うと……」

 改めて謝ろうとセルジュが顔を上げると、まるで嫉妬でもしたかのようにカルロスは言う。

(初対面でそれはないか)

 自身にすでに芽生えてしまった恋心は棚に上げて、セルジュはじっと紫色を見つめた。
 しかしどんなに見つめてもカルロスの心が読めるわけではない。セルジュは居た堪れなくなって、せっかく合わせた視線を逸らした。

 それを不安に駆られていると受け取ったのだろう。
 カルロスはそっと頬に触れてきた。

「大丈夫です。誰にも言いませんし、僕が貴方のお力になりますから」

 真摯で力強い言葉に、自然と口元が綻ぶ。
 この人ならば、重荷を全部持っていってくれる。そんな幸せな錯覚に陥る。

(前にも誰かが、言ってくれたような……)

 朧げな記憶が、あぶくの様に浮かんで一瞬で消えた。

 一介の学生、しかも平民に男爵家の財政をなんとかできるわけがない。
 時間があれば、カルロスを婿に迎えて一緒に手を取り合えたかもしれないが。
 もうセルジュの家はギリギリだ。
 でも、自分の生活も大変なのに気持ちを掛けてくれることが嬉しかった。

 そんな気持ちが伝わったらしい。
 カルロスは不服そうに形の良い眉を寄せた。

「信じてませんね?」
「そ、そんなこと」
「貴方が好きなんです。力になりたい」

 セルジュの呼吸が止まる。
 何を言われたのか理解した瞬間に、思考も止まってしまった。
 胸が脈打ち体中の血液が倍速で回っていく。
 それでも酸素が足りない。
 嬉しいと全身が叫ぶ。

 茹だった頭で、何か言わなければと懸命に口を動かす。

「あ、会ったばかりだよ」

 理性を総動員して紡ぎ出した言葉は、カルロスの気持ちを受け入れることも拒むことも出来ていない曖昧なものだった。
 カルロスは意地悪げに唇に弧を描く。

「初対面で番になれる相手を探している貴方よりましでしょう」

 それを言われてしまうと、何も言えない。
 あまりにも的を得た反論だ。
 モゴモゴと気まずげに言い淀むセルジュの額に、カルロスは口付けた。

「それに、初めてじゃない」
「え?」
「セルジュは覚えてないかもしれないけど、子どもの頃に一度会ったことがあるんだ」

 セルジュは思いがけない言葉に目を見開く。
 カルロスは、

「10年も前のことですが」

 と前置きして、その時のことを話し始めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日投稿だけど時間は不定期   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

魔法使い候補生は夢を叶えられない

ユーリ
BL
魔法使いの採用試験に何度も落ちる凪は、幼馴染で魔法省に勤める理斗に頼み込んで二泊三日の合宿をしてもらうことに。これで合格すれば晴れて魔法使いになれるけれど…?? 「魔法使いじゃなくて俺の嫁になれ」幼馴染の鬼教官攻×夢を叶えるため必死に頑張る受「僕がなりたいのは魔法使いなの!」ーー果たして凪は魔法使いになれる??

アルファの双子王子に溺愛されて、蕩けるオメガの僕

めがねあざらし
BL
王太子アルセインの婚約者であるΩ・セイルは、 その弟であるシリオンとも関係を持っている──自称“ビッチ”だ。 「どちらも選べない」そう思っている彼は、まだ知らない。 最初から、選ばされてなどいなかったことを。 αの本能で、一人のΩを愛し、支配し、共有しながら、 彼を、甘く蕩けさせる双子の王子たち。 「愛してるよ」 「君は、僕たちのもの」 ※書きたいところを書いただけの短編です(^O^)

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...