星は夜に抱かれ光り輝く〜人の顔がお金に見えちゃう貧乏貴族オメガは玉の輿にのりたい!のに苦学生アルファに恋する?〜

虎ノ威きよひ

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深い口付け

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 当時のカルロスは、大人たちに連れられて森に遊びに来ていた。
 だが好奇心旺盛で恐れをしらない少年は、大人たちの隙をついて一人で奥まで進んでしまったのだという。

 森の木に印をつけながら動植物たちを観察していたはずが、自分でもどこを歩いているのか分からなくなってしまった。
 木々が太陽光を遮断し薄暗い森の中で心細くなり、途方に暮れて座り込んでいる時に声を掛けてくれた妖精のように美しい少年がいた。

 ここは自分の庭のような森なのだと笑ったその子が、セルジュだったらしい。

「そんな子供の時の話なのに、なんで俺だと?」
「エトワール男爵家のセルジュだって名乗ってくれましたから。一生忘れない名前です」

 セルジュはカルロスの手を引いて一緒に親を探した。
 その途中で、セルジュは巣から落ちてしまった小鳥を戻したり、群れから逸れたらしい子鹿を誘導したりとあれこれ世話を焼いていた。
 カルロスは、

「動物は助けても、君に何かあった時に絶対何もしてくれないよ」

 と思わず言ってしまったらしいが。

「貴方は綺麗な目が落ちそうなほど開いて、『それって困ってるのを助けるか助けないかに関係ある?』って」
「ただただ、何も考えてなかったんだよ」

 セルジュは苦笑した。
 子どものころは他にすることがなく、とにかく森の中を走り回って遊んでいて、今では考えられないほど真っ黒になっていたことを思い出す。
 弟はまだ小さかったので、動物しか遊び相手がいなかったのだ。

 でも話を聞いていると、記憶の扉が叩かれる。

『君は心が綺麗だから、もし困ったことがあっても大丈夫だよ。その時は私が力になるから』

 久しぶりに話した同い年くらいの男の子が、そう言って笑ってくれたのだ。
 握手した時の温かくて柔らかい手。
 愛らしくて高い声。
 透き通るような紫の瞳。
 そして、みずみずしい果物に似た爽やかな香り。

「あの、時の……」
「覚えてるのか」

 朧げな夢が輪郭を持っていく。
 たまに見るあの夢は、ただの夢ではなかったのだ。

 嬉しそうに微笑むカルロスに、セルジュはただ頷いた。
 夢で見て元気をもらっていたなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えなかったが。
 カルロスは目を細めて、セルジュの金色の髪を長い指で梳く。

「損得なんて考えずに行動する人、僕はそれまでに会ったことがなくて。こんなに心の綺麗な人がこの世にいるのかって本気で驚いたんです」

 愛おしげに言われて、セルジュは胸が締め付けられた。

「ずっと貴方を探してた」

 耳元で囁く深い音色に胸がときめくのを感じながらも、泣き出しそうな心地になる。

「再会してがっかりしただろう? 綺麗な心なんて、カケラも残ってなくて」

 今の自分は、家の財政を立て直すことばっかりで人の気持ちを考える余裕もない。
 森の動物たちなんて、最後に様子を見にいったのはいつだったかも思い出せなかった。
 人道に反すると分かりながらも、薬を使って金持ちの令息と番になろうと企むほどなのだから。

 しかし、カルロスははっきりと首を振った。

「そんなことはないさ。貴方が家族のために考えた結果だ」

 カルロスは本当は、伯爵令嬢に頼んでパーティに参加した。セルジュと親しいことを知っていて、必ず呼んでくれと頼みこんだのだと。
 いつも学校で伯爵令嬢にセルジュのことを聞いて、思いを募らせていたのだと話す。

 それを聞いて嬉しくないはずもないが、セルジュはどうしても心のままにそう伝えることが出来ずに俯いた。
 長い指がセルジュの顎にかかり、カルロスの方へ向かされる。

「僕のこと、お嫌いですか?」

 セルジュは力なく首を左右に振る。
 家のことを考えると、カルロスと番になるわけにはいかない。
 けれども、紫の瞳を見てしまうと嘘はつけなかった。

「君みたいな人と恋をしてみたかった……番だって、本当は……っでも」
「充分だ」

 熱い息と共に唇が重なる。
 セルジュの泣いてしまいそうな吐息ごと吸い込まれた。

「好きだ」

 息継ぎのたびにそう告げられる。
 啄むように穏やかに、唇を喰まれた。

「俺も、好き」

 ついに言葉にしてしまうと、もう止まらなかった。
 カルロスの服にしがみついて、何度も何度も口付ける。
 唇の間から舌を絡ませ、唾液を混ぜ合い。
 口内の温度を交換するように、部屋に水音だけを響かせて夢中になった。

 頭がふわふわと熱ってきたころ、ようやく唇が離れる。
 蕩けた表情で濡れた唇に指を添えたセルジュは、もう後戻りは出来ないと分かりながらもカルロスの胸を押して体を離そうとした。

「あの、でも俺は、人の顔がお金にしか見えてないような人間で」
「ふ……!」
「わ、笑わないでくれ! 仕方ないだろ!?」

 不意打ちを喰らったように吹き出したカルロスは、セルジュの言葉に謝りながらも肩を震わせていた。

 おかしくて仕方がないというように笑う顔は、今までの落ち着いた雰囲気と違って年相応で。
 少しかわいいと感じる自分にセルジュは気がつく。

「大丈夫、貴方の家のことはなんとかする。力になるって言っただろう?」
「……なんとかするって、一体どうやって……」
「近い内に分かるさ」

 怪訝な顔をするセルジュにその理由も話さずに、カルロスは再び甘い口付けを落としてくる。

 その口付けは先程よりも深く、セルジュは何も考えられなくなっていった。
 
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