花嫁はお前だろ?〜揉めた末、虎王子に食われるライオン皇子の物語〜

虎ノ威きよひ

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悔しい

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 熱気の籠ったその場には、二つの荒い息が響いた。
 床に長い髪を散らして横たわるディラン。
 その腰に跨り、覆いかぶさる影千代。
 お互いに、強い光を持った目を逸らさない。

「そこまで!」

 張りがあり通る声が沈黙を破る。
 審判をしていた鷹族のファルケだ。
 その声をきっかけに、剣の修練場に騒めきが広がった。

 太陽が照らす城壁内の修練場は、動きやすいように土は固く整えられている。
 その上に立つ兵士たちが円を描くように並んでいる中心に、ディランと影千代は居た。
 一切声を出さずに固唾をのんで見守っていた兵士たちは、肩の力を抜いて二人に拍手を送る。

 ディランの顔の横に刺さった三日月形の刃物を地面から抜いた影千代は、口元に笑みを称えて手を差し出した。

「噂どおりの腕前だ」
「負かした相手に言う言葉かよ」

 整った眉を歪めたディランは、白く大きな手を払いのけて自分で立ち上がる。
 体についた土を手や尻尾を動かして乱暴に払った。
 影千代の顔を見ないようにしながら弾き飛ばされた剣を探す。

 想像より遠くに落ちているそれの元へ大股で歩きながら、まだ痺れている右手を軽く振る。

(馬鹿力……っ)

 剣の稽古のために紐で捲られた袖から出ている影千代の腕は、鍛え上げているはずのディランより一回り太い。
 倭虎大王国の民族衣装を着ていると分かりにくかったが、相対しているときに初めて気がついたのだ。

 左手で剣を拾うと、ディランは腕を組んで視線を寄越しているファルケの方へと足を進めた。

 ディランと影千代が結婚して一週間経った。
 この一週間、影千代があそこを案内しろこれはどうなっていると、とにかくディランを質問攻めにしていた。
 国に慣れたいと思うのは悪いことではないし、ディランも影千代に教えてやるのは悪い気はしなかった。

 しかし問題が発生した。
 日中、強制的に動き回らされるせいで雌と遊べていない。
 夜にはぐっすり眠ってしまうのだ。
 健康的な生活ではあるが、端的に言って欲求不満だ。

(今日はあいつが声をかけてこなかったから、発散に来たはずだったのに……)

 夜には相手を適当に見繕えばいいとして、溜まった熱を一先ずは放出したかった。
 そのために体を動かそうと剣の修練場にやってきたのだが、先に影千代が来ていて兵士たちに混ざっていた。

 ディランを見るなり、影千代が剣の相手をしてくれと言ってきたのだ。
 どうやら、兵士たちにディランは剣の腕が立つと吹き込まれたらしかった。
 川で溺れた上に助けられるという無様な姿を晒してしまったディランは、名誉挽回のチャンスだと思った。

 ライオン族はその武勇で国土を広げた国だ。
 ディランも例外ではなく、幼いころから剣術が得意だった。修練も苦にならずやってきた為、揺るぎない自信のもとで二つ返事で勝負を受けた。

 が、結果は敗北。
 慣れない太刀筋で合わせるのが難しかったこともあるが、それは相手も同じ条件だ。
 勝敗が予想できないほど競り合ったが、最後の最後に押し負けた。

(くっそ……! 負けてへそ曲げてるなんてガキか俺は)

 今更ながらに自分の態度を恥じて影千代の方をチラ見する。
 兵士に囲まれて何か話していた彼は、ディランの視線に気づいても気分を害した様子なく爽やかな笑みを浮かべた。
 更に罰が悪くなって、ディランは無言で再び顔をそらす。

「いい勝負だったじゃないか」

 ずっとディランの動きを見ていたファルケは、堅物な彼らしくなく口元を緩めていた。
 勝負のことは言葉通りに思っているのだろう。
 しかし、夫婦になったばかりの二人の空気を茶化すような音の響きを、ディランは敏感に感じ取る。

「負けたら意味ねぇだろ。ちょっと付き合え。もう少しやってく」
「お前にも悔しいという感情があったんだな」
「うるせぇ」

 乱れた長い髪を後頭部でまとめ直しながら、ファルケの脛を軽く小突いた。

 確かに剣の勝負で常勝できているわけではない。
 特に皇族同士の試合では勝ったり負けたりを繰り返している。負けても「いつもこんなもんだ」と飄々としていられた。

 だがなぜか影千代にはリズムを崩されてしまうのだ。
 どうにもならない感情を剣に乗せてファルケにぶつける。

 その様子をアイスブルーの瞳がじっと見つめていることに、ディランは気づかなかった。
 
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