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甘えちまっていいか※戦闘、流血有り※
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「ぐ……っ」
矢が衣服を突き破り皮膚を貫く。
「ディラン!!」
影千代は即座に盗賊を切り捨て、盗賊の幹部の方へと蹴り上げた。
返り血や断末魔など気にも留めず、片膝をついたディランの元に駆け寄る。
矢は影千代の背ではなく、ディランの左上腕に突き立っていた。
確実に影千代の背に向かっていた矢であったが、ディランは影千代の名を呼んだ時にはすでに茂みから飛び出していたのだ。
激痛とともに、ジワリと血がにじむ感覚にディランは歯を噛み締めた。
矢を受ける直前に剣を投げた方向から、誰かが落ちる音がした。同じところからの攻撃の心配はもうない。
息を詰めながらも刺さった矢を処理しようと視線を落としたディランは、ハッと目を見開く。
わずかだが、妙な香りがした。
「……っ! 毒だ!」
その言葉を聞いた影千代は、躊躇せずに矢を引き抜いた。
ディランはその衝撃に苦痛の声を漏らしながら、右肩から前部にかけて吊るされた飾り紐を毟り取る。
影千代はその紐をディランの手から奪うように受け取ると、毒が全身に回らぬように傷の少し上を縛った。
矢で出来た穴から袖を引き裂いて、患部を露出させた。
影千代の唇が腕に触れて毒を吸い出すのを感じながら、ディランは呼吸を整える。
その金茶の瞳は、倒れた手下の体の下から這い出る、盗賊の幹部を見据えた。
ひときわ大きく息を吸い、肺を膨らませる。
そして。
獅子の咆哮が森中に轟き渡った。
その声は、空まで届き木々も地面をも揺らす。
離れていても、肌が振動で痺れるような声に、睨まれていた顔に傷のあるハイエナ族は目に見えて怯んだ。
それを見逃さず、ディランは影千代を振り払って標的に飛びかかる。
愚かな盗賊は、なす術なく狩られるしかなかった。
◆
「残党は二人一組で追え。毒矢が混ざってるかもしれないから気をつけろって伝えとけ」
兵士に指示を出し終えると、ディランは矢傷のある腕を抑えて歯ぎしりした。
影千代が捕らえたフクロウ族の持っていた矢は全て普通の矢だったため、毒矢担当の者がいるのだろう。
一人だけだった可能性はゼロではないが、毒矢があるかもしれないというだけで対応は随分と変わる。
(俺としたことが腕で受けちまうとは迂闊だった)
影千代が毒を吸いだしてくれたにも関わらず、白い布を巻かれた患部周辺が痺れる。
傷の痛みのせいだけではなく、毒による嫌な汗が滲んでいた。
後のことは他の者に任せて帰ろうと考え、馬の準備をするよう近くの兵士に伝える。
そこに、毒を吸った口を濯いでいた影千代が近づいて来た。
「すまない、助かった」
深々と頭を下げてくる。
あのまま背に毒矢を受けていれば、急所を外れても影千代の命は無かっただろう。
ディランは低い場所にある肩をポンと叩き、軽い口調で答える。
「気にすんな。前に俺もお前に助けられてるし、毒の処理もしてもらってるし。これで貸し借りは……っ」
突如、目の前が歪み足元がふらつく。
影千代の肩に置いた手に体重を乗せてしまいながら、なんとか足を踏ん張って立て直す。
「どうした」
「なんでもねぇ。一仕事終えて眠気がきたかな」
頭を上げて怪訝そうな表情をする影千代から顔を逸らす。
二人のために馬を二頭連れてきた兵士に礼を伝えながらディランは笑った。
皆が息が上がるほど動いた戦闘後にも関わらず、その顔は青白い。
しかし月光と小さなランプの光しかない森の中では、夜目が利く兵士でさえ自国の皇子の顔色を判別することが出来なかった。
ディランが手綱に手をかけたとき、背後に立った影千代が同じ馬の背を撫でる。
「すまないが一頭は連れて帰ってくれるか」
「え? は、はい!」
深く穏やかな声をかけられた兵士はきょとんと目を瞬かせながら頷く。
ディランは訳が分からず、慌てて振り返った。
「おい、どういう……っわ!」
ふわりと足が地面から離れた。
しっかりとした腕に荷物のように太ももから抱え上げられ、目を白黒させている間に馬に乗せられる。
ディランと兵士が「なにが起こっているんだ」と目を合わせた次の瞬間には、影千代が同じ馬に飛び乗った。
後ろから大きな手が手綱を握り、ディランが背もたれにするのに丁度いい具合にぴたりとくっついてくる。
「いや、一人で乗れるっての! 降りろ!」
「急いで帰るぞ」
ディランの声が聞こえないかのように短い言葉のみ発すると、影千代は馬を走らせた。
影千代の体温に包まれて馬に揺られている内に、安心したのか体から力が抜けていく。
決して軽くないディランの体を、ブレずに支えてくれる影千代に自然と唇が綻んだ。
(なんか怠いし寒いし……甘えちまっていいか……)
ディランは影千代にもたれ掛かったまま、眠りに落ちていく。
遠のく意識の中で、髪に優しく口づけられた気がした。
矢が衣服を突き破り皮膚を貫く。
「ディラン!!」
影千代は即座に盗賊を切り捨て、盗賊の幹部の方へと蹴り上げた。
返り血や断末魔など気にも留めず、片膝をついたディランの元に駆け寄る。
矢は影千代の背ではなく、ディランの左上腕に突き立っていた。
確実に影千代の背に向かっていた矢であったが、ディランは影千代の名を呼んだ時にはすでに茂みから飛び出していたのだ。
激痛とともに、ジワリと血がにじむ感覚にディランは歯を噛み締めた。
矢を受ける直前に剣を投げた方向から、誰かが落ちる音がした。同じところからの攻撃の心配はもうない。
息を詰めながらも刺さった矢を処理しようと視線を落としたディランは、ハッと目を見開く。
わずかだが、妙な香りがした。
「……っ! 毒だ!」
その言葉を聞いた影千代は、躊躇せずに矢を引き抜いた。
ディランはその衝撃に苦痛の声を漏らしながら、右肩から前部にかけて吊るされた飾り紐を毟り取る。
影千代はその紐をディランの手から奪うように受け取ると、毒が全身に回らぬように傷の少し上を縛った。
矢で出来た穴から袖を引き裂いて、患部を露出させた。
影千代の唇が腕に触れて毒を吸い出すのを感じながら、ディランは呼吸を整える。
その金茶の瞳は、倒れた手下の体の下から這い出る、盗賊の幹部を見据えた。
ひときわ大きく息を吸い、肺を膨らませる。
そして。
獅子の咆哮が森中に轟き渡った。
その声は、空まで届き木々も地面をも揺らす。
離れていても、肌が振動で痺れるような声に、睨まれていた顔に傷のあるハイエナ族は目に見えて怯んだ。
それを見逃さず、ディランは影千代を振り払って標的に飛びかかる。
愚かな盗賊は、なす術なく狩られるしかなかった。
◆
「残党は二人一組で追え。毒矢が混ざってるかもしれないから気をつけろって伝えとけ」
兵士に指示を出し終えると、ディランは矢傷のある腕を抑えて歯ぎしりした。
影千代が捕らえたフクロウ族の持っていた矢は全て普通の矢だったため、毒矢担当の者がいるのだろう。
一人だけだった可能性はゼロではないが、毒矢があるかもしれないというだけで対応は随分と変わる。
(俺としたことが腕で受けちまうとは迂闊だった)
影千代が毒を吸いだしてくれたにも関わらず、白い布を巻かれた患部周辺が痺れる。
傷の痛みのせいだけではなく、毒による嫌な汗が滲んでいた。
後のことは他の者に任せて帰ろうと考え、馬の準備をするよう近くの兵士に伝える。
そこに、毒を吸った口を濯いでいた影千代が近づいて来た。
「すまない、助かった」
深々と頭を下げてくる。
あのまま背に毒矢を受けていれば、急所を外れても影千代の命は無かっただろう。
ディランは低い場所にある肩をポンと叩き、軽い口調で答える。
「気にすんな。前に俺もお前に助けられてるし、毒の処理もしてもらってるし。これで貸し借りは……っ」
突如、目の前が歪み足元がふらつく。
影千代の肩に置いた手に体重を乗せてしまいながら、なんとか足を踏ん張って立て直す。
「どうした」
「なんでもねぇ。一仕事終えて眠気がきたかな」
頭を上げて怪訝そうな表情をする影千代から顔を逸らす。
二人のために馬を二頭連れてきた兵士に礼を伝えながらディランは笑った。
皆が息が上がるほど動いた戦闘後にも関わらず、その顔は青白い。
しかし月光と小さなランプの光しかない森の中では、夜目が利く兵士でさえ自国の皇子の顔色を判別することが出来なかった。
ディランが手綱に手をかけたとき、背後に立った影千代が同じ馬の背を撫でる。
「すまないが一頭は連れて帰ってくれるか」
「え? は、はい!」
深く穏やかな声をかけられた兵士はきょとんと目を瞬かせながら頷く。
ディランは訳が分からず、慌てて振り返った。
「おい、どういう……っわ!」
ふわりと足が地面から離れた。
しっかりとした腕に荷物のように太ももから抱え上げられ、目を白黒させている間に馬に乗せられる。
ディランと兵士が「なにが起こっているんだ」と目を合わせた次の瞬間には、影千代が同じ馬に飛び乗った。
後ろから大きな手が手綱を握り、ディランが背もたれにするのに丁度いい具合にぴたりとくっついてくる。
「いや、一人で乗れるっての! 降りろ!」
「急いで帰るぞ」
ディランの声が聞こえないかのように短い言葉のみ発すると、影千代は馬を走らせた。
影千代の体温に包まれて馬に揺られている内に、安心したのか体から力が抜けていく。
決して軽くないディランの体を、ブレずに支えてくれる影千代に自然と唇が綻んだ。
(なんか怠いし寒いし……甘えちまっていいか……)
ディランは影千代にもたれ掛かったまま、眠りに落ちていく。
遠のく意識の中で、髪に優しく口づけられた気がした。
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