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叩き落とせ※戦闘、流血有り※
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満月の輝く夜。
暗い森で怒号が響き渡る。
土を蹴り枝を踏み、息をつく間もなく兵士たちが巨大な木々を縫い、標的目掛けて駆け抜けた。
闇に潜むために黒装束で移動していた盗賊団も、ある者は剣を、ある者はナイフをまたある者は鉈を手に向かって来る。
両者の刃が交わると、鉄のぶつかる音が森の各所で聞こえ始める。
兵士たちの腰元で光るランプが、森に散った味方の場所を教えていた。
そんな中、ディランは先頭を切って走る。
闇の中とは思えないほど鮮やかに、敵を切り倒していく。
ディランの近くを通った賊は次々と体を地面につけた。
誰よりも目立つ赤い軍服は、まるで自分を標的にしろとでも言っているようだ。
肩や胸の金色の装飾が、ディランが剣を振るうたびに靡く。
影千代は、そんなディランのすぐ後ろを走りながら他の兵士の援護をし、取りこぼしが無いよう目を光らせていた。
ディランは土に横たわる、耳の大きなリカオン族の背に乱暴に足を置いて、声を張り上げた。
「出来るだけ生け捕りにしろよ! 今度こそ根城を吐かせてやる!」
踏みつけて唸り声を上げている犬族によく似た雄を、近くにいた兵士が逃げられないように手早く縛り上げた。
それを見やりながら、長い髪を靡かせたディランは苛立ちを隠さず荒々しく息を吐く。
「ハイエナ野郎はまだ見つからねぇのか!」
「森を包囲しているんだ、そのうち見つか……っ」
宥めようとした影千代は、右手の剣を素早く薙ぐ。
真っ二つに折れて地面に転がったのは一本の矢であった。
「ランプを消せ!!的になるぞ!!」
影千代は周囲に警告し、矢の飛んできた木へと跳躍した。
そしてその次の瞬間から、至る所で矢が飛び交い始めた。
「味方に当たっても構わねぇってことか……!」
ディランは舌打ちした。
これまでの討伐では弓矢を使ってくることは無かったため、今回の盗賊たちを率いている幹部の意向だろう。
敵味方入り乱れる場では、弓矢は諸刃の剣だ。
味方を顧みない戦い方をする相手は厄介だった。
ディランは周囲に届く音量で、兵士たちに指示を出す。
「弓を持ってる奴らが木の上にいる! 登るのが得意なやつはそっち優先だ! 見つけたら速攻で叩き落とせ!」
近くにいた兵士たちに遠くで戦う者への伝言を託す。
ランプを消すと味方の目印はなくなるが、問題はなかった。
討伐隊には夜目が効く種族を率いてきている。
月明かりが有れば十分なのだ。
盗賊団がわざわざ明るい満月の夜を選んでいるのも、夜目が効く者であればランプを使わなくとも動けるからだ。
新月にランプを使うよりも、よっぽど闇に紛れやすい。
兵士たちが矢を交わしながら味方の方へ走り去るのを見送るディランの元に、木から飛び降りてきた影千代が足早に近づいてくる。
影千代の腕の中には、気絶したフクロウ族の雄がいた。
そのフクロウ族は、腕の羽を広げたまま力を失っている。
鳥人は通常、腕に沿って羽が畳まれており、袖の中に隠れていることが多い。
それが広がっているということは、飛んで逃げようとしたということだ。
ディランの眉間の皺が深くなった。
「鳥人か」
「ああ。木に登っている間に逃げられる可能性が高い」
当然リーオ帝国の兵士の中にも鳥人はいるが、夜目が効く鳥人は限られている。
鷹族のファルケも今日の討伐隊には加わっていなかった。
「くそが。早いとこ頭を潰さねぇとな」
月光が、ディランの構え直した剣に反射した。
矢を落とし、必要であれば剣を振るい。
ディランと影千代は盗賊団の幹部を探して木々を避けて突き進む。
ほどなくして、眉間から頬にかけて大きな傷のあるハイエナ族を発見した。
手下に囲まれて薄ら笑いを浮かべているその顔と、記憶の中にある指名手配犯の似顔絵を重ねた二人は顔を見合わせる。
「あの傷!」
「よし、お前は後ろから行け」
声を落とした影千代の言葉に、ディランはすぐに反応して二人は別れる。
傷の雄と三人の手下は、まだ兵士たちと交戦していなかった。
下品な笑い声を上げ、戦闘中の悲鳴やうめき声、その場の匂いを楽しんでいるらしい。
すぐにでも飛びかかりたい気持ちを抑え、ディランは背後の茂みに身を隠して息を潜める。
彼らの正面から突入し切りかかった影千代が、一人を切り倒した。
血しぶきが無いところを見ると、細い三日月のような剣で上手く峰打ちしたのだろう。
(……殺すより生け捕りの方が難しいとかぼやいてやがったけど、やっぱり器用だな……)
残りの三人が飛びかかるが、影千代は全く怯まない。
慣れない異国の剣術に戸惑っている盗賊たちは、牙を剥き出しにしている影千代の殺気に圧倒されている。
盗賊たちは、順調にディランの方へと後ずさってくる。
(よし、そろそろ……)
ディランが幹部に飛びかかろうと腰を上げた。
しかしその時、木の上からキラリと光るものが目に入る。
「影千代!」
「!?」
声に反応して振り返った影千代だったが、盗賊のうち、二人分の刃を止めている最中で動けない。
その背中にまっすぐに矢が飛んできた。
暗い森で怒号が響き渡る。
土を蹴り枝を踏み、息をつく間もなく兵士たちが巨大な木々を縫い、標的目掛けて駆け抜けた。
闇に潜むために黒装束で移動していた盗賊団も、ある者は剣を、ある者はナイフをまたある者は鉈を手に向かって来る。
両者の刃が交わると、鉄のぶつかる音が森の各所で聞こえ始める。
兵士たちの腰元で光るランプが、森に散った味方の場所を教えていた。
そんな中、ディランは先頭を切って走る。
闇の中とは思えないほど鮮やかに、敵を切り倒していく。
ディランの近くを通った賊は次々と体を地面につけた。
誰よりも目立つ赤い軍服は、まるで自分を標的にしろとでも言っているようだ。
肩や胸の金色の装飾が、ディランが剣を振るうたびに靡く。
影千代は、そんなディランのすぐ後ろを走りながら他の兵士の援護をし、取りこぼしが無いよう目を光らせていた。
ディランは土に横たわる、耳の大きなリカオン族の背に乱暴に足を置いて、声を張り上げた。
「出来るだけ生け捕りにしろよ! 今度こそ根城を吐かせてやる!」
踏みつけて唸り声を上げている犬族によく似た雄を、近くにいた兵士が逃げられないように手早く縛り上げた。
それを見やりながら、長い髪を靡かせたディランは苛立ちを隠さず荒々しく息を吐く。
「ハイエナ野郎はまだ見つからねぇのか!」
「森を包囲しているんだ、そのうち見つか……っ」
宥めようとした影千代は、右手の剣を素早く薙ぐ。
真っ二つに折れて地面に転がったのは一本の矢であった。
「ランプを消せ!!的になるぞ!!」
影千代は周囲に警告し、矢の飛んできた木へと跳躍した。
そしてその次の瞬間から、至る所で矢が飛び交い始めた。
「味方に当たっても構わねぇってことか……!」
ディランは舌打ちした。
これまでの討伐では弓矢を使ってくることは無かったため、今回の盗賊たちを率いている幹部の意向だろう。
敵味方入り乱れる場では、弓矢は諸刃の剣だ。
味方を顧みない戦い方をする相手は厄介だった。
ディランは周囲に届く音量で、兵士たちに指示を出す。
「弓を持ってる奴らが木の上にいる! 登るのが得意なやつはそっち優先だ! 見つけたら速攻で叩き落とせ!」
近くにいた兵士たちに遠くで戦う者への伝言を託す。
ランプを消すと味方の目印はなくなるが、問題はなかった。
討伐隊には夜目が効く種族を率いてきている。
月明かりが有れば十分なのだ。
盗賊団がわざわざ明るい満月の夜を選んでいるのも、夜目が効く者であればランプを使わなくとも動けるからだ。
新月にランプを使うよりも、よっぽど闇に紛れやすい。
兵士たちが矢を交わしながら味方の方へ走り去るのを見送るディランの元に、木から飛び降りてきた影千代が足早に近づいてくる。
影千代の腕の中には、気絶したフクロウ族の雄がいた。
そのフクロウ族は、腕の羽を広げたまま力を失っている。
鳥人は通常、腕に沿って羽が畳まれており、袖の中に隠れていることが多い。
それが広がっているということは、飛んで逃げようとしたということだ。
ディランの眉間の皺が深くなった。
「鳥人か」
「ああ。木に登っている間に逃げられる可能性が高い」
当然リーオ帝国の兵士の中にも鳥人はいるが、夜目が効く鳥人は限られている。
鷹族のファルケも今日の討伐隊には加わっていなかった。
「くそが。早いとこ頭を潰さねぇとな」
月光が、ディランの構え直した剣に反射した。
矢を落とし、必要であれば剣を振るい。
ディランと影千代は盗賊団の幹部を探して木々を避けて突き進む。
ほどなくして、眉間から頬にかけて大きな傷のあるハイエナ族を発見した。
手下に囲まれて薄ら笑いを浮かべているその顔と、記憶の中にある指名手配犯の似顔絵を重ねた二人は顔を見合わせる。
「あの傷!」
「よし、お前は後ろから行け」
声を落とした影千代の言葉に、ディランはすぐに反応して二人は別れる。
傷の雄と三人の手下は、まだ兵士たちと交戦していなかった。
下品な笑い声を上げ、戦闘中の悲鳴やうめき声、その場の匂いを楽しんでいるらしい。
すぐにでも飛びかかりたい気持ちを抑え、ディランは背後の茂みに身を隠して息を潜める。
彼らの正面から突入し切りかかった影千代が、一人を切り倒した。
血しぶきが無いところを見ると、細い三日月のような剣で上手く峰打ちしたのだろう。
(……殺すより生け捕りの方が難しいとかぼやいてやがったけど、やっぱり器用だな……)
残りの三人が飛びかかるが、影千代は全く怯まない。
慣れない異国の剣術に戸惑っている盗賊たちは、牙を剥き出しにしている影千代の殺気に圧倒されている。
盗賊たちは、順調にディランの方へと後ずさってくる。
(よし、そろそろ……)
ディランが幹部に飛びかかろうと腰を上げた。
しかしその時、木の上からキラリと光るものが目に入る。
「影千代!」
「!?」
声に反応して振り返った影千代だったが、盗賊のうち、二人分の刃を止めている最中で動けない。
その背中にまっすぐに矢が飛んできた。
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