花嫁はお前だろ?〜揉めた末、虎王子に食われるライオン皇子の物語〜

虎ノ威きよひ

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番外編

七夕(影千代目線)

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「願い事?この紙にか?」

 縦長の短冊を見て、ディランは首を傾げた。
 赤い短冊を差し出している影千代は、頷いて微笑む。

 影千代の祖国では当たり前の風習だったが、ディランの国には短冊に願いを託す文化は無いのだという。

「笹の葉にこれを飾ると、願い事が叶うという言い伝えがある」
「へぇ……なんでだ?」
「昔、天に住む二人の雌雄がいて……」

 ディランの部屋の大きなベッドの上で、まるで子守唄のように優しい影千代の声が流れ出す。
 影千代の故郷の物語を、ディランはたまに強請ってくる。
 文化の違う地域の話は、馴染みのないものばかりで興味深いようだ。

 ディランはゴロリと寝そべって、心地良さそうに聞き入る。

 あまりにもお互いに夢中になってしまった夫婦が引き離され、年に一度だけ会うことを許された。
 それにあやかり願い事をする日が今日なのだと、影千代は話を締め括る。

「ふーん……それで願い事を叶えてくれる意味は分かんねぇけど。仕事もしねぇでずっとやってたのか。そりゃ相当精力がある雄だな」
「いや、何もずっとそういうことをしていたわけではないと思うが」

 直球な物言いをするディランに、影千代は真顔で首を振った。
 その言葉を聞いているのかいないのか、赤い短冊をつまんだディランは口元を隠して悪戯っぽく目を細める。

「俺たちもやってみるか?色々放って、どっか地方にでも行って」
「大きな河を挟んで離れ離れにされるぞ」
「そうなったら俺が待ちくたびれて河に飛び込む前に、お前が泳いでこいよ」
「近くまで泳いで、お前が痺れを切らして溺れるのを待つことにしよう」

 結婚してすぐの頃。
 泳げないのに川に飛び込んだディランが溺れたことを思い出して、影千代は意地悪く言う。
 ディランは形の良い唇を尖らせた。

「良い性格してるぜ」

 拗ねる姿が可愛く見えて、影千代は突き出されたそこに軽く自分の唇を触れさせた。
 すると、すぐに機嫌が直ったディランが腕を首に絡ませてくる。

「影千代は何を願うんだ?」
「そうだな……お前と命尽きるまで共に、と願おうか」
「ばーか。そんなの、星じゃなくて俺に願えよ」
「叶えてくれるのか?」
「お前次第だな」

 筆の先のような尾が、誘うように影千代の縞模様の尻尾に絡んでくる。
 影千代はディランのダークブロンドの長い髪をサラリと撫でた。

「では、ディランは何を願う?」
「んー……今夜はその伝説の夫婦に負けないくらい熱い夜を過ごしたい、とか?」
「それこそ、短冊に書くまでもないな」

 微笑み合った二人の唇が重なり合い、短冊はカーペットにヒラヒラと落ちていった。



    番外編・七夕 おしまい
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