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番外編
ファルケは見た・前編
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城内の修練場には屈強な兵士たちが土を踏み締め、それぞれに武器を振るう。
種族ごとに使いやすい得物を使って、互いの技を磨き合っていた。
将軍のファルケは愛用の槍を持ち、皆の鍛錬の様子を見回りながら違和感を覚える。
妙に気が散っているようなのだ。
チラチラと兵士たちが向ける視線の先には影千代がいた。
異国からやってきた虎族の影千代だが、数カ月前から修練場に通っている。もうとっくに皆に馴染んでいるはずだった。
(いつも通り見事な太刀筋だが……)
一人で三日月型の剣を振るっている影千代を、ファルケは訝しげに観察した。
そしてすぐに、皆の視線の意味が分かってしまう。
あまり気が進まなかったが仕方がない。
溜息を吐きながら、ファルケは影千代に近づいた。
「すまん、ちょっと良いか」
「どうした?」
すぐに動きを止めた影千代は、汗の滲んだ額を手の甲で拭いながら振り返る。
涼しげな青い瞳が、厳ついファルケの姿を写した。
ファルケはコホンッと咳払いをした。
「言いにくいんだが、首元になにか巻いた方がいいな」
「鍛錬中には危険では?」
真っ当な意見に、ファルケは唸る。
確かにストールやスカーフなどは、首を守るどころか文字通り首を絞める可能性があり危険だ。
だが引くわけには行かない理由がファルケにはあった。
慎重に言葉を選びながら、影千代にだけ聞こえるよう声の音量を落とす。
「あーうむ。では首元が隠れるような服装に変えられないか? まぁ。なんだ、おそらく昨夜の……痕がな」
「……どこだ」
すぐに理解したらしい影千代は、首元に手をやった。
全く気がついていなかったらしい。
ファルケは影千代の頸に視線を落とす。
本人では気づけないであろう部分に、花弁のように赤い痕がいくつも散っていた。
そのことを耳打ちすると、影千代はやれやれと言った風に溜息を吐く。
「なるほど。これからは注意しよう」
「ディランは意外と独占欲が強いのだと、皆が驚いているぞ。体は大丈夫か?」
ライオン族が何人も側室を持つのは、一人では相手をしきれないという側面もあるとファルケは聞いていた。
そしてディランは雌を毎晩抱くような雄だった。
影千代が強靭な体を持っているとはいえ、抱かれるのは体力的な負担があると皆が考えているのだ。
だがファルケの心配をよそに、影千代は爽やかに目を細めた。
「ああ。そういう日の翌日は、私はいつも以上に調子がいいんだ」
本当に何も心配なさそうな様子に、ファルケは安心する。
ディランは今までの誰よりも影千代に執心している。
えげつない痕を残してはいるが、行為中は加減しているのかもしれないとファルケは考えた。
ファルケは手に持っていた槍を握り直し、影千代に笑みを向ける。
「それなら良かった。では一戦お相手願おう」
「喜んで」
二人の試合が始まると、皆は影千代の頸の痕のことは忘れ、その場は大盛り上がりだった。
種族ごとに使いやすい得物を使って、互いの技を磨き合っていた。
将軍のファルケは愛用の槍を持ち、皆の鍛錬の様子を見回りながら違和感を覚える。
妙に気が散っているようなのだ。
チラチラと兵士たちが向ける視線の先には影千代がいた。
異国からやってきた虎族の影千代だが、数カ月前から修練場に通っている。もうとっくに皆に馴染んでいるはずだった。
(いつも通り見事な太刀筋だが……)
一人で三日月型の剣を振るっている影千代を、ファルケは訝しげに観察した。
そしてすぐに、皆の視線の意味が分かってしまう。
あまり気が進まなかったが仕方がない。
溜息を吐きながら、ファルケは影千代に近づいた。
「すまん、ちょっと良いか」
「どうした?」
すぐに動きを止めた影千代は、汗の滲んだ額を手の甲で拭いながら振り返る。
涼しげな青い瞳が、厳ついファルケの姿を写した。
ファルケはコホンッと咳払いをした。
「言いにくいんだが、首元になにか巻いた方がいいな」
「鍛錬中には危険では?」
真っ当な意見に、ファルケは唸る。
確かにストールやスカーフなどは、首を守るどころか文字通り首を絞める可能性があり危険だ。
だが引くわけには行かない理由がファルケにはあった。
慎重に言葉を選びながら、影千代にだけ聞こえるよう声の音量を落とす。
「あーうむ。では首元が隠れるような服装に変えられないか? まぁ。なんだ、おそらく昨夜の……痕がな」
「……どこだ」
すぐに理解したらしい影千代は、首元に手をやった。
全く気がついていなかったらしい。
ファルケは影千代の頸に視線を落とす。
本人では気づけないであろう部分に、花弁のように赤い痕がいくつも散っていた。
そのことを耳打ちすると、影千代はやれやれと言った風に溜息を吐く。
「なるほど。これからは注意しよう」
「ディランは意外と独占欲が強いのだと、皆が驚いているぞ。体は大丈夫か?」
ライオン族が何人も側室を持つのは、一人では相手をしきれないという側面もあるとファルケは聞いていた。
そしてディランは雌を毎晩抱くような雄だった。
影千代が強靭な体を持っているとはいえ、抱かれるのは体力的な負担があると皆が考えているのだ。
だがファルケの心配をよそに、影千代は爽やかに目を細めた。
「ああ。そういう日の翌日は、私はいつも以上に調子がいいんだ」
本当に何も心配なさそうな様子に、ファルケは安心する。
ディランは今までの誰よりも影千代に執心している。
えげつない痕を残してはいるが、行為中は加減しているのかもしれないとファルケは考えた。
ファルケは手に持っていた槍を握り直し、影千代に笑みを向ける。
「それなら良かった。では一戦お相手願おう」
「喜んで」
二人の試合が始まると、皆は影千代の頸の痕のことは忘れ、その場は大盛り上がりだった。
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