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番外編
ファルケは見た・後編
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「ディラン、もう聞いたかもしれないが」
「あ! ファルケ! テメェ影千代にちくりやがったな?」
天気のいい中庭から光が差し込む回廊を歩く優美な後ろ姿に声を掛けると、振り返るなり噛み付くような勢いでディランが迫ってきた。
麗しい外見と中身の乱雑さのギャップは初対面の時は驚くが、幼い頃から知っているファルケにとっては馴染みのあるものになっている。
昨日、見えるところに情事の痕をつけるなと指摘したことを影千代伝いに聞いたのだろう。
まるでこちらが悪いかのように言ってくるディランの言葉を聞いて、ファルケは逞しい腕を組むとため息をついた。
「皆が気が散ってしょうがないようだったからな。士気に関わる」
「ったく。せっかく寝てる間に仕返ししといたのに」
「仕返し?」
ディランは尻尾を忙しなく動かして舌打ちする。それを見たファルケは首を傾げた。
「そうだよ。ほらこれ」
鼻を鳴らしたディランは首元の白いスカーフを外し、ブラウスを胸の上まで乱雑に捲り上げた。
その躊躇のなさに呆れる暇もなく、ファルケは目を見張る。
「これは……」
「おかげで暑くなってきたのに薄着出来ねぇ。もういっそ見せびらかすか迷ってるとこだ」
ディランは暑い季節には上半身を空気に晒して動くことがままある。
それは城内の誰もが承知しており、奔放な第六王子の裸など見慣れたものだった。
だが確かに、この体では外で肌を出すことは不可能だろう。
ディランの体中には、紅い痕が散りばめられていた。
キスマークだけではなく、まだ新しい噛み痕も頸には刻まれている。
袖を捲ったディランの手首に残る強く掴まれた痣も。
影千代の頸にあった印など、可愛らしく思えるほど生々しかった。
ファルケは友人のとんでもない姿を見てしまったと額を抑える。
そして、想定外のことが起こっていることを理解した。
「服を着せるためにつけた痕だろうから着ておけ。それよりディラン、もしかして」
ファルケを含めディランをよく知るものは、勝手にディランが影千代を抱いているものだと思い込んでいた。
プライドの高いディランが抱かれるわけがない、気の優しい影千代の方が折れているのだろうと。
どうやらそれは勘違いだったようだ。
「後で修練場覗くかと思ってたけど、今日は腰いてぇし寝不足だから俺は部屋にいるって影千代に」
「私はここだが」
「!?」
気配もなく現れた影千代に、ファルケもディランも一瞬驚き固まった。
その間に影千代はディランの捲れた裾を正し、手に持ったスカーフを取り上げる。
そして、眉を顰めてディランの首にスカーフを巻き付けた。
「こんなところで肌を晒すな。はしたないぞ」
「みんな俺の裸なんて見慣れてんだよ」
「聞き捨てならないな」
突然二人の世界に入ってしまったのを見せられて、ファルケはどんな顔をすればいいのか分からず立ち尽くす。
腰を摩りながらファルケに軽く手を振ったディランに説教をする影千代。
二人で皇族が住む東の棟の方へと足を進めていった。
途中、影千代だけが振り返る。
怪しく弧を描く唇に人差し指を当ててファルケを見た。
(なるほど)
独占欲が強いのは影千代の方だったのだ。
ギラつくアイスブルーの瞳を見たファルケは確信する。
ディランが開放的な服装をしないように出来るだけ気をつけておこうと、心に決めたのだった。
番外編・ファルケは見た 完
「あ! ファルケ! テメェ影千代にちくりやがったな?」
天気のいい中庭から光が差し込む回廊を歩く優美な後ろ姿に声を掛けると、振り返るなり噛み付くような勢いでディランが迫ってきた。
麗しい外見と中身の乱雑さのギャップは初対面の時は驚くが、幼い頃から知っているファルケにとっては馴染みのあるものになっている。
昨日、見えるところに情事の痕をつけるなと指摘したことを影千代伝いに聞いたのだろう。
まるでこちらが悪いかのように言ってくるディランの言葉を聞いて、ファルケは逞しい腕を組むとため息をついた。
「皆が気が散ってしょうがないようだったからな。士気に関わる」
「ったく。せっかく寝てる間に仕返ししといたのに」
「仕返し?」
ディランは尻尾を忙しなく動かして舌打ちする。それを見たファルケは首を傾げた。
「そうだよ。ほらこれ」
鼻を鳴らしたディランは首元の白いスカーフを外し、ブラウスを胸の上まで乱雑に捲り上げた。
その躊躇のなさに呆れる暇もなく、ファルケは目を見張る。
「これは……」
「おかげで暑くなってきたのに薄着出来ねぇ。もういっそ見せびらかすか迷ってるとこだ」
ディランは暑い季節には上半身を空気に晒して動くことがままある。
それは城内の誰もが承知しており、奔放な第六王子の裸など見慣れたものだった。
だが確かに、この体では外で肌を出すことは不可能だろう。
ディランの体中には、紅い痕が散りばめられていた。
キスマークだけではなく、まだ新しい噛み痕も頸には刻まれている。
袖を捲ったディランの手首に残る強く掴まれた痣も。
影千代の頸にあった印など、可愛らしく思えるほど生々しかった。
ファルケは友人のとんでもない姿を見てしまったと額を抑える。
そして、想定外のことが起こっていることを理解した。
「服を着せるためにつけた痕だろうから着ておけ。それよりディラン、もしかして」
ファルケを含めディランをよく知るものは、勝手にディランが影千代を抱いているものだと思い込んでいた。
プライドの高いディランが抱かれるわけがない、気の優しい影千代の方が折れているのだろうと。
どうやらそれは勘違いだったようだ。
「後で修練場覗くかと思ってたけど、今日は腰いてぇし寝不足だから俺は部屋にいるって影千代に」
「私はここだが」
「!?」
気配もなく現れた影千代に、ファルケもディランも一瞬驚き固まった。
その間に影千代はディランの捲れた裾を正し、手に持ったスカーフを取り上げる。
そして、眉を顰めてディランの首にスカーフを巻き付けた。
「こんなところで肌を晒すな。はしたないぞ」
「みんな俺の裸なんて見慣れてんだよ」
「聞き捨てならないな」
突然二人の世界に入ってしまったのを見せられて、ファルケはどんな顔をすればいいのか分からず立ち尽くす。
腰を摩りながらファルケに軽く手を振ったディランに説教をする影千代。
二人で皇族が住む東の棟の方へと足を進めていった。
途中、影千代だけが振り返る。
怪しく弧を描く唇に人差し指を当ててファルケを見た。
(なるほど)
独占欲が強いのは影千代の方だったのだ。
ギラつくアイスブルーの瞳を見たファルケは確信する。
ディランが開放的な服装をしないように出来るだけ気をつけておこうと、心に決めたのだった。
番外編・ファルケは見た 完
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めーぷるさん、お読みいただきありがとうございます!
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金浦桃多さん、お読みいただきありがとうございます!
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二人の変化を見ていただけて嬉しいです✨恋する男はかわいい😚
きっと普段から、みんなでディランに振り回されているのです笑
本当にありがとうございました!
turarinさん、コメントありがとうございます!
嬉しいお言葉!!
書いていただいたもの全部私の性癖です!
詰め込みました!😊
お読みいただきありがとうございました〜!