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29話
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ベッドの横に座り込み、腕を掛け布団に投げ出して聞いていたミナト。話が終わると、ウンウンと強く頷く。
「じゃあ今日コウが帰ってきたら俺も好きだって言えよ。」
「どうしてそうなった。」
ミナトの突拍子もなく、空気もムードもあったものではない提案にカズユキは真顔になる。
そんな反応は気に留めず、キョトンと目を丸くして無垢な子どものように首を傾げた。
「後悔してるんだろ?」
「やかましい。」
「言ったら良いだろー? なんで言えないんだよー! そろそろ年貢の納め時だってー!」
問い詰めているうちにヒートアップしてきたミナトがベッドに乗り上げる。カズユキの足に馬乗りになって一生懸命な表情の顔を近づけた。
至近距離のオッドアイを見つめながら、カズユキは体の力を抜く。
どうしてこんなにも、他人の事情に入り込めるのかと、その若さに愛おしさも感じた。
しかし、それがカズユキのコンプレックスを刺激することにもなった。
この問答は、自分の中で何度も繰り返し、結局自分の弱さや醜さを自覚するだけの作業になることを知っていたからだ。
もう、この話を終わらせたいと悪い癖が出る。
カズユキは、敢えて冷たい笑顔を顔に貼り付けた。
「たく。しつけえ…じゃあさっきまでの建前は忘れろ。正直に言ってやる。」
「、わ…!」
ミナトの下から足を抜きながら細い両肩を掴む。そのまま強い力で乱暴に後ろに押し倒した。
ベッドが軋む音が鳴る。痛みは無いが急な視界の転換に目を白黒させるミナトにカズユキが覆いかぶさる。
どこか艶みを帯びた口元やはだけて見える首元に、ミナトの心臓が大きく動いた。
「ガキには分かんねーだろうが、こういうのは結局、追い追われって時が一番燃えるんだよ。」
「え…てことは…?」
先ほど、キスの話題で動揺していた男とは別人のような乾いた口調だった。戸惑うミナトに対して淡々と、自分勝手な欲望を連ねていく。
「恋愛なんて、熱が冷めたらつまんねぇだろ。惚れた者負け。好きだ好きだって追ってきて貰うのが気持ちいい。」
「そんなの、嘘だろ? だって…」
幼さの残る顔がグシャリと歪む。
聞いている方も言っている方も胸が引き裂かれそうなほどに痛んだ。
実際そういう部分もあるのだと、声に出しながらカズユキは自分に言い聞かせる。
自分は、人に一途に思ってもらえるような人間ではないと自分にとどめを刺す。
何故ならば。
「俺は好きに誰とでも寝る。それに妬いてるコウを見るのが好きなんだ。コウに聞こえるように抱かれることもあるくらいだ。」
これが事実だからだ。
コウが傷つくのを知りながら、情報を得るためだと何度も。それで、本気で怒って無理やり暴いてくれやしないかと期待すらして。
今更自分から、「やっぱり好きだ」と言う勇気もない。
「真剣に追ってる方は冗談じゃねぇぞ!」
ミナトがカズユキの胸ぐらを掴む。
感情を全て押し殺したカズユキとは反対に、ミナトは感情を全て剥き出しにする。
「隣にいるだけでいい」と微笑んだ愛に溢れる声を思い出して、今にも泣き出しそうになる。
(嘘でも本当でも、こんな言い方、あんまりだ…!)
コウは10年もカズユキだけを思って追っているのだ。
衣服に皺をつくる震える手へ、赤い瞳が視線を落とす。
「なんでお前が怒ってんだ。」
本当に何が悪いのか分からない、というふりをした無感情に感じる声にミナトは言葉を濁した。
「だって…俺…」
何故か。
恩人であるコウの気持ちを踏みにじられたように感じるからか。
実は少し違う。
ミナトはまだ言語化できなかったが、彼はコウに感情移入しすぎていたのだ。
コウの情熱には到底及ばない、まだ淡く憧れに近い恋心。
どんなに好きになっても弄ぶだけだと宣言したに等しいカズユキの言葉は、まだ15歳のミナトの心を掻き乱すのに十分過ぎた。
言葉を続けられずに押し黙り、カズユキをただ睨み上げるミナト。
自分への好意に敏感なカズユキは、本人よりも正確にその感情を理解した。
薄々感づいてはいたが、やるせなさに目線を逸らす。
「…お前はそのまま真っ直ぐに、トーマとか、コウとか…一応セイゴウもか…ああいう良い男になれよ。」
純真なミナトに流されて、常にはないほどカズユキの感情は乱れていた。
自分以外の人間が全て美しく見えるような、そんな現象に襲われる。
恋愛に関しては、自分のようになってはならないと強く感じた。
今のうちに、彼の可愛らしい恋心を潰さねばコウの二の舞になってしまうことも恐ろしかった。
首元にある手首を掴む。感情を吐き出し、既に緩んでしまっていた手はあっさりと離れた。
「その時まだ俺のこと好きなら、10年後には抱いてやるよ。」
手の甲に唇を寄せ、軽く触れさせる。
目を細めて下にいる顔を流し見ると、瞬時に赤くなった顔が言葉を無くしていた。
「そん…!」
そんなつもりはない、と言い切ることも出来ずにミナトはショックを受ける。
「抱いてやる」の言葉の中に、ハッキリとした拒絶の意思を感じ取ってしまったからだ。
そんなミナトをつまらなそうに見下ろした後、カズユキは再びベッドに横になる。
「寝る。」
と素気なく一言告げると、ミナトは慌ててベッドから降りた。
大人気のかけらもなく、何も言わずに布団を頭まで被ってしまう。
どうする事も出来ないまま、ミナトは早足で部屋から出ていった。
「どいつもこいつも見る目なさすぎなんだよ…」
部屋の扉が閉まる音を聞きながら、カズユキは布団の中で独り丸まった。
傷つけた自分の方が、まるで傷つけられたかのような態度をとってしまっていると、心の中で自嘲した。
「じゃあ今日コウが帰ってきたら俺も好きだって言えよ。」
「どうしてそうなった。」
ミナトの突拍子もなく、空気もムードもあったものではない提案にカズユキは真顔になる。
そんな反応は気に留めず、キョトンと目を丸くして無垢な子どものように首を傾げた。
「後悔してるんだろ?」
「やかましい。」
「言ったら良いだろー? なんで言えないんだよー! そろそろ年貢の納め時だってー!」
問い詰めているうちにヒートアップしてきたミナトがベッドに乗り上げる。カズユキの足に馬乗りになって一生懸命な表情の顔を近づけた。
至近距離のオッドアイを見つめながら、カズユキは体の力を抜く。
どうしてこんなにも、他人の事情に入り込めるのかと、その若さに愛おしさも感じた。
しかし、それがカズユキのコンプレックスを刺激することにもなった。
この問答は、自分の中で何度も繰り返し、結局自分の弱さや醜さを自覚するだけの作業になることを知っていたからだ。
もう、この話を終わらせたいと悪い癖が出る。
カズユキは、敢えて冷たい笑顔を顔に貼り付けた。
「たく。しつけえ…じゃあさっきまでの建前は忘れろ。正直に言ってやる。」
「、わ…!」
ミナトの下から足を抜きながら細い両肩を掴む。そのまま強い力で乱暴に後ろに押し倒した。
ベッドが軋む音が鳴る。痛みは無いが急な視界の転換に目を白黒させるミナトにカズユキが覆いかぶさる。
どこか艶みを帯びた口元やはだけて見える首元に、ミナトの心臓が大きく動いた。
「ガキには分かんねーだろうが、こういうのは結局、追い追われって時が一番燃えるんだよ。」
「え…てことは…?」
先ほど、キスの話題で動揺していた男とは別人のような乾いた口調だった。戸惑うミナトに対して淡々と、自分勝手な欲望を連ねていく。
「恋愛なんて、熱が冷めたらつまんねぇだろ。惚れた者負け。好きだ好きだって追ってきて貰うのが気持ちいい。」
「そんなの、嘘だろ? だって…」
幼さの残る顔がグシャリと歪む。
聞いている方も言っている方も胸が引き裂かれそうなほどに痛んだ。
実際そういう部分もあるのだと、声に出しながらカズユキは自分に言い聞かせる。
自分は、人に一途に思ってもらえるような人間ではないと自分にとどめを刺す。
何故ならば。
「俺は好きに誰とでも寝る。それに妬いてるコウを見るのが好きなんだ。コウに聞こえるように抱かれることもあるくらいだ。」
これが事実だからだ。
コウが傷つくのを知りながら、情報を得るためだと何度も。それで、本気で怒って無理やり暴いてくれやしないかと期待すらして。
今更自分から、「やっぱり好きだ」と言う勇気もない。
「真剣に追ってる方は冗談じゃねぇぞ!」
ミナトがカズユキの胸ぐらを掴む。
感情を全て押し殺したカズユキとは反対に、ミナトは感情を全て剥き出しにする。
「隣にいるだけでいい」と微笑んだ愛に溢れる声を思い出して、今にも泣き出しそうになる。
(嘘でも本当でも、こんな言い方、あんまりだ…!)
コウは10年もカズユキだけを思って追っているのだ。
衣服に皺をつくる震える手へ、赤い瞳が視線を落とす。
「なんでお前が怒ってんだ。」
本当に何が悪いのか分からない、というふりをした無感情に感じる声にミナトは言葉を濁した。
「だって…俺…」
何故か。
恩人であるコウの気持ちを踏みにじられたように感じるからか。
実は少し違う。
ミナトはまだ言語化できなかったが、彼はコウに感情移入しすぎていたのだ。
コウの情熱には到底及ばない、まだ淡く憧れに近い恋心。
どんなに好きになっても弄ぶだけだと宣言したに等しいカズユキの言葉は、まだ15歳のミナトの心を掻き乱すのに十分過ぎた。
言葉を続けられずに押し黙り、カズユキをただ睨み上げるミナト。
自分への好意に敏感なカズユキは、本人よりも正確にその感情を理解した。
薄々感づいてはいたが、やるせなさに目線を逸らす。
「…お前はそのまま真っ直ぐに、トーマとか、コウとか…一応セイゴウもか…ああいう良い男になれよ。」
純真なミナトに流されて、常にはないほどカズユキの感情は乱れていた。
自分以外の人間が全て美しく見えるような、そんな現象に襲われる。
恋愛に関しては、自分のようになってはならないと強く感じた。
今のうちに、彼の可愛らしい恋心を潰さねばコウの二の舞になってしまうことも恐ろしかった。
首元にある手首を掴む。感情を吐き出し、既に緩んでしまっていた手はあっさりと離れた。
「その時まだ俺のこと好きなら、10年後には抱いてやるよ。」
手の甲に唇を寄せ、軽く触れさせる。
目を細めて下にいる顔を流し見ると、瞬時に赤くなった顔が言葉を無くしていた。
「そん…!」
そんなつもりはない、と言い切ることも出来ずにミナトはショックを受ける。
「抱いてやる」の言葉の中に、ハッキリとした拒絶の意思を感じ取ってしまったからだ。
そんなミナトをつまらなそうに見下ろした後、カズユキは再びベッドに横になる。
「寝る。」
と素気なく一言告げると、ミナトは慌ててベッドから降りた。
大人気のかけらもなく、何も言わずに布団を頭まで被ってしまう。
どうする事も出来ないまま、ミナトは早足で部屋から出ていった。
「どいつもこいつも見る目なさすぎなんだよ…」
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