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30話
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カズユキの寝室を出たミナトは、リビングの木のテーブルに突っ伏す。
『10年後にまだ俺のことが好きなら』
冷たい笑顔で放たれた言葉が頭をグルグル回って胸を締め付ける。
(…好き…うん。そうか。きっと、好きなんだ。けど抱いてほしいとか、そう言うんじゃなくてさ…もっと…もっとなんだろ…)
好き、について考える。
指摘されて初めて、自分の感情に名前が付いた。ミナトは今まで恋をしたことがなかったので、これが「恋」というのなら「初恋」になるわけだ。
「初恋に気づいた瞬間に失恋してるとか、俺可哀想…」
ミナトを押し倒した後のカズユキは、冷ややかな割に感情的になっていた。
面と向かって話しているときにはカッとなって怒鳴ってしまったミナトだったが、それより前の「素直に好きだと言えない」という内容の方が本音だろうと予想する。
それが正しければカズユキはコウが好きなのだ。
しかし、それを辛いとは思わない。
カズユキとコウが恋人になれば良いと心から思っていたし、恋心の自覚を促された今でもそう思うからだ。
それはカズユキと自分がどうこうなれるとは思えない諦めからきている可能性もあった。それこそ「10年早い」と感覚的に分かる。
「…もっと、苦しかったりするのかと思ったけど…」
テーブルに額を擦り付けながら独り呟く。
思い出すのは、列車で一瞬声を荒げたコウの姿。人を好きになると、あのくらい大きなコントロールのきかない感情になるものだと思っていた。
気持ちがまとまらないまま、うーん、と唸る。
そうしていると。
コンコン。
玄関から控えめなノック音が聞こえてきた。
頭が重く動きたくない気分だったミナトは、ゆっくりとドアを見る。なかなか出ない家主に焦れてきたのか、音の大きさはそのままにノックのテンポがだんだん早くなっていく。
家主が寝ている今、居留守をしても良かった。しかし、鳴り止む様子がないのでミナトは腰を上げてドアは開けずに返事をした。
すると、ドア越しに切羽詰まった女性の声が聞こえる。
「あの、助けて欲しいんですが…!」
「すみません、今は依頼を受けられる人がいなくて…また後で来てくれませんか?」
困っている人を見捨てるのは胸が痛いが、今はカズユキの体の調子も良くない上にコウも居ない。コウが戻ってくるのがいつになるかも分からないのだ。
しかし、ドア越しの声が涙混じりになってくる。
「で、でも魔獣が…! もうそこに!!」
「えっ!」
ミナトは慌てて立ち上がって鍵に手を掛けた。
地下闘技場の魔獣や昨日の怪鳥を思い出す。それが迫っているとなれば由々しき事態だ。
外にいる女性は今、生きた心地がしない筈だ。
コウたちが退治してくれている筈だが、住居区まで迫ってくるということは数が多かったのだろう。
この家は、カズユキの防御の魔術に守られている。中に入れば安全であった。
心が急きすぎてもつれる手で、なんとかドアを開ける。
「さぁ、とにかく中に…!?」
女性の姿をミナトが視認することはなかった。
禍々しい黒い光が入り口から侵入し、ミナトを包む。
音もなく、その光が消えるとともにミナトの姿も消えた。
『10年後にまだ俺のことが好きなら』
冷たい笑顔で放たれた言葉が頭をグルグル回って胸を締め付ける。
(…好き…うん。そうか。きっと、好きなんだ。けど抱いてほしいとか、そう言うんじゃなくてさ…もっと…もっとなんだろ…)
好き、について考える。
指摘されて初めて、自分の感情に名前が付いた。ミナトは今まで恋をしたことがなかったので、これが「恋」というのなら「初恋」になるわけだ。
「初恋に気づいた瞬間に失恋してるとか、俺可哀想…」
ミナトを押し倒した後のカズユキは、冷ややかな割に感情的になっていた。
面と向かって話しているときにはカッとなって怒鳴ってしまったミナトだったが、それより前の「素直に好きだと言えない」という内容の方が本音だろうと予想する。
それが正しければカズユキはコウが好きなのだ。
しかし、それを辛いとは思わない。
カズユキとコウが恋人になれば良いと心から思っていたし、恋心の自覚を促された今でもそう思うからだ。
それはカズユキと自分がどうこうなれるとは思えない諦めからきている可能性もあった。それこそ「10年早い」と感覚的に分かる。
「…もっと、苦しかったりするのかと思ったけど…」
テーブルに額を擦り付けながら独り呟く。
思い出すのは、列車で一瞬声を荒げたコウの姿。人を好きになると、あのくらい大きなコントロールのきかない感情になるものだと思っていた。
気持ちがまとまらないまま、うーん、と唸る。
そうしていると。
コンコン。
玄関から控えめなノック音が聞こえてきた。
頭が重く動きたくない気分だったミナトは、ゆっくりとドアを見る。なかなか出ない家主に焦れてきたのか、音の大きさはそのままにノックのテンポがだんだん早くなっていく。
家主が寝ている今、居留守をしても良かった。しかし、鳴り止む様子がないのでミナトは腰を上げてドアは開けずに返事をした。
すると、ドア越しに切羽詰まった女性の声が聞こえる。
「あの、助けて欲しいんですが…!」
「すみません、今は依頼を受けられる人がいなくて…また後で来てくれませんか?」
困っている人を見捨てるのは胸が痛いが、今はカズユキの体の調子も良くない上にコウも居ない。コウが戻ってくるのがいつになるかも分からないのだ。
しかし、ドア越しの声が涙混じりになってくる。
「で、でも魔獣が…! もうそこに!!」
「えっ!」
ミナトは慌てて立ち上がって鍵に手を掛けた。
地下闘技場の魔獣や昨日の怪鳥を思い出す。それが迫っているとなれば由々しき事態だ。
外にいる女性は今、生きた心地がしない筈だ。
コウたちが退治してくれている筈だが、住居区まで迫ってくるということは数が多かったのだろう。
この家は、カズユキの防御の魔術に守られている。中に入れば安全であった。
心が急きすぎてもつれる手で、なんとかドアを開ける。
「さぁ、とにかく中に…!?」
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音もなく、その光が消えるとともにミナトの姿も消えた。
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