【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

虎ノ威きよひ

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44話

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 告白を受け、黙ったコウの手の力が抜ける。

 そこを見逃さず、カズユキは素早くドアを開けて室内に入った。
 全身がおかしな魔術にかかったかのようだ。燃えるように熱い。
 火照った顔を収める時間を稼ぐため、コウを締めだそうとドアを閉める。が、鍵をかける前にとんでもない力でねじ開けられた。
 ドアが壊れなかったのが奇跡だ。
 コウは後ろ手でドアを閉めると、きっちり鍵まで掛けた。逃がさないというオーラをひしひしと感じる。

 あまりにも爛々とした青色と視線が合ったカズユキは、思わず怯んで後ずさる。

「お前、怖すぎ……! やっぱり、やっぱり今のな……っん、ぅ!?」
 無かったことにはさせまいと、コウは強引にカズユキの肩を引き寄せて唇を奪う。
 手の力は痛いほど強いというのに、触れ合う唇だけは優しかった。
 分かってはいたことだが、力で捩じ伏せようと思えばいつでも出来たのだ。そう確信させるほどにカズユキは抗えない。
 
(違うか、動けないのは俺に抵抗する気がねぇからか……)
 
 長身で戦闘の心得のあるカズユキは経験したことがないが、もし組み敷かれた相手が自分より強かろうとも、気が乗らなければ間違いなく暴れている。
 恐怖ですくみ上がることも、カズユキに限ってはおそらくない。
 
 少し思考が逸れていると、集中しろとでも言うように抱き締められ、体が密着してくる。
「……ぁ、……っふ……」
 目を閉じて、背伸びをする。10年越しの気持ちと共に口付けを受け入れた。
 誘うように唇を薄く開ける。
 すぐに舌が侵入してきて背筋が震え、甘い吐息が漏れる。
「……は、……カズユキ……」
「ん、」
 コウがゆっくり離れると、2人の唇を銀糸が繋いだ。カズユキが蕩けた目を向けると、もう一度軽く口付けられる。
 
 そして、額と額がコツンと当たった。

「好きだ。ずっと、ずっと、お前だけが好きだ」

 近すぎて表情が見えない。
 それでも、聞いたことのない震える声が、言葉に乗せた本気を訴えてくる。

「10年で息切れしてねぇだろうな」
「舐めるな。それならとっくにここに居ない」

 照れ臭さで思わず出てきたいつもの軽口。
 即座に否定しながら頬に口付けられる。
 存在を確かめるように、瞼や額、鼻先など至る所にキスが降ってきた。
 ひとつひとつに愛情を感じてこそばゆく、カズユキは身を捩る。
「俺も」
「……?」
「俺も、惚れてなきゃこんなに一緒に居なかった」

 腕を伸ばしてコウの首に腕を絡める。
 こんなに簡単なことであったのに。
 幼い頃からただ1人に片想いを続け、何も出来ずに終わってしまった経験のせいだろう。
 2回目の恋が、上手くいくイメージが全く分かなかったのだ。
「会った時から、好きだったのに。腹括るのにこんなに時間がかかってすま……っ、」
 コウが耳を甘噛みしたせいで言葉が途切れる。
 そのまま舌を這わされ、カズユキは濡れた声が上がりそうになる。それを強く抱きつき肩に額を擦り当てることで耐えた。
「良い。これからはもう待たないし……我慢もしない。他の奴には触らせない」
「……他と遊べなくなったな……」
 耳元で響く愛しく深い声に、足元が覚束なくなりそうなのを感じながらするつもりもないことを呟く。

「そんな余裕があると思ってるのか?」

 顎に手を添えて上を向かされた先では、獰猛な肉食獣のような瞳がカズユキを映している。
 赤い瞳を挑戦的に煌めかせ、褐色の首筋に唇を触れさせた。

「俺もお前も、もう若くはねぇからな? 頼むぞ?」
「善処する」

 どちらからともなく唇を重ね合わせる。

 溶け合うような口付けで、10年間の思いを分かち合う。
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