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第一章
家を抜けようと思って
しおりを挟むしかし、それならばひとつ疑問があった。
先程の食堂での、来客時の食事のようだという話はなんだったのか。
豪商が貴族と縁を作りたいならば、宮廷料理家もびっくりな豪華な食事でもてなしそうなものだが。
「その豪商とやらは、大事な孫娘の婿になる男を頻繁に家に招待したりしないのか?」
私の疑問には体育座りしたネルスが切り込もうとしている。
「去年から3回くらいお邪魔したかな。なんでだ?」
「その……失礼ながら、食堂の料理を来客がある時の食事のようだと言っていたから……」
遠慮がちに目を泳がせ言葉を選んではいるが、驚くほどに根掘り葉掘り聞いている。
私には出来ない。
若さ故かエラルドの人柄故か。
あー、と頷きながら気を害した様子もなく会話は続いた。
「うちがホストの時にはあんな感じの料理なんだ。そういうときは貴族御用達の料理人さんを呼んで……」
「……?家に料理人はいないのか?」
ネルスの口が先ほどから本当にポカンと開きっぱなしなので閉じてあげたい衝動を抑える。
もう少し、感情を表に出さない練習が大人になるまでに必要だなかわいいな。
「専属の人は居ないよ。領内の料理屋さんとか喫茶店のおばちゃんとか飲み屋のおじさんたちとか、子どもを連れた主婦の皆さんとかが日替わりにきてご飯してくれるんだ」
一人一人の顔を思い出しているのか、柔らかい笑顔で指折り数えるエラルド。
きっと領民の皆さんと仲良くやってるんだろうな。
裕福じゃないけど住み良い領地の代表なんだろうな、とこっちの口元まで緩む。
「やってくれるのか。自分たちで料理するのかと思った」
「お前は何を言ってるんだ?」
ただでさえ想像の出来ない食事事情に目を白黒させていたネルス。
貴族が料理をするわけないだろう、と私を宇宙人でも見る目でみてきた。
はい、異世界の平民ですがなにか。
こちらへ来て15年。
未だに食事、作って貰えるのめちゃくちゃありがたいですよねという感想しか無いが何か。
帰ってから自分で色々出来なくなっている気がする怖い。
それにしても2人の会話が面白すぎる。
ネルスはお坊っちゃんだが勉強家で、ある程度の常識はある。
そのため、平民の家に通常は専属コックさんが居ないことは知っている。
もしエラルドが平民であれば、
「もっと平民の暮らしを教えてくれ!将来、政に携わる時の参考にしたい!」
と目を輝かせていただろう。
しかし今は、
「え、同じ貴族なのに?え?伯爵……由緒ある伯爵家なのに?」
と、大混乱している。かわいい。
上流階級の中でも上澄みの貴族としか付き合ったことがないとそういうことが起こるのだ。
要社会勉強だ。
地方の貴族たちの現状をもっと把握して中央でなんちゃらかんちゃら、と顎に手を当てて真顔でぶつぶつ独り言を出したネルスを放って置いて、エラルドに向き直った。
「領民に好かれるお父上なんだと想像出来るよ。その分、お前の結婚に関しては苦渋の決断だったろうな」
「元々、俺の婚約者をそろそろ決めようとは言ってたんだけどな。この話を貰った時も、5歳の次男が居るからそっちと婚約にしないかって父さんは打診したんだけど……」
また新しい登場人物出てきたわ。貴族、家族多い。
エラルドの家族は今のところ、父、エラルド、弟、後、確か2歳の甥がいると食堂で言っていた。
頭の中を整理し、他にも姉や妹が居そうだなと想像する。
ちなみに家族と言えば。
私、シン・デルフィニウムには現在12歳の弟と10歳の妹がいる。
詳細は省くが、どちらも当然、とてつもなく可愛い。
父も母もまだ30代なのでもしかしたら兄弟は増えるかもしれない。
跡継ぎ問題や結婚で縁を作るなど様々な面において、子どもが多い方がなにかと良いのだ。
私には理解し難いが、この世界の貴族とはそういうものなのだ。
と、私のことはさておき。
ユリオプス伯爵はお金持ちとはいえ平民と結婚するのは貴族としてどうかとか、結婚は好きな人としないととかいうのはなく。
年齢がいくらなんでも釣り合わない!
うちの息子を何年待たせる気?
10歳以上年上の男と結婚させられるお嬢さんの気持ちも考えて!
というところを気にしていそうだ。
やはりこの世界この時代の貴族は私の常識や良識とはちょっとズレてるな、などと思いながら相槌を打つ。
「跡継ぎじゃないとダメって?」
「まぁそりゃそうだよな。だから弟を跡継ぎにするために俺は家を抜けようと思って」
「ん?」
「長男が家を捨てるだと!?」
話が込み入ってきたしサラッと言ったし、初対面にそんなとこまで言っていいのかと私の頭が混乱し始めたところで、自分の世界へ行っていたネルスが戻ってきた。
「捨てると言われると……まぁそうなるか。」
「そんなことは許されな……っ」
「まぁまぁネルス。他所のお宅の事情だから、な?」
間にいる私の膝を乗り越えて手を付き、物理的に噛み付きに行きそうなくらい乗り出したネルスの口を手で塞ぐ。
話が余計にややこしくなりそうだ。
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