16 / 134
第一章
いやこわまじすき
しおりを挟む
「弟とそのお嬢さんを結婚させるために家を出るのか?」
「元々、俺は騎士になりたいんだ。伯爵家を継いで騎士になっても良いけど、圧倒的に命の危険が多いだろ?」
エラルドが言うには、前々から騎士になるといつ何があるか分からないので弟を跡継ぎに、と父親に話していたらしい。
しかし、ユリオプス伯爵は跡継ぎ云々はともかく、騎士になって自ら命を危険に晒すのは可愛い長男の希望でも難色を示していたと。
そこへ今回の結婚話だ。
エラルドは5歳の弟に跡を継いで欲しい。
相手方は伯爵家の跡継ぎと3歳の孫娘に結婚して欲しい。
ユリオプス伯爵は年齢の兼ね合いで婚約するなら次男の方がいい。
全員の希望を叶えようとしたら「5歳の次男が伯爵家を継ぎ3歳のお嬢さんと婚約する」のが手っ取り早い。
一番影響を受ける弟くんの希望が謎なのが気がかりだが、5歳児に希望を聞いたら
「カッコいい勇者になってドラゴンをやっつける!」
とか言い出す可能性があるので意思確認は現在不可能。
とりあえず今は仕方がない。
家族で揉めるならそれこそ10年後だ。
「いや、解決してるじゃないか。なんで今、君と3歳の女児が婚約しているんだ」
私の拘束から逃れ、衣服と姿勢を正しながら改めてネルスが会話に参加してきた。
「騎士になりたいところは父さんがなかなか納得してくれなくてさー」
エラルドが肩をすくめて唇を尖らせる。
それはそうだろうと、私は頷いた。
「跡を継ぐとか継がないとか関係ないからな、そこ」
この世界での騎士は、私の知識では日本の武士に近い。
しかも、源平合戦より前の、貴族に仕えている時代の武士だ。
基本的には政治には関わらず、有事の際に戦場へ行くのが主な仕事だ。
その他にも皇族の護衛や国の警備、貴族に直接雇われたりと色々仕事はある。
代々騎士の家系、という家も有ればエラルドのように希望してその職に就く人もいる。
言うまでも無いが、とにかく危ない。
武器を持って戦うのでとても危ない。
領地を治める貴族のお坊ちゃまがわざわざ目指す仕事ではない。
国や人を守る素晴らしい仕事だが、親としてはやめていただきたい。
それはエラルドも充分承知してはいるようだ。
「そうだろ? で、ここの学校の剣術大会に目をつけさせてもらった!」
いや前言撤回。
親の心子知らずとはこのことだ。
とても目がキラキラしている。
自分の希望を通そうとすることに罪悪感を覚えている様子が羨ましいほど無い。皆無。
「そういえばあったな。それ」
この学校の剣術大会とは。
三学年入り乱れて剣術に腕の覚えがある生徒が出場し、活躍すると観戦に来ていた貴族や騎士団の偉い人からお声がかかったりする二次元によくあるやつである。
以上。
「3年間で1回でも優勝したら、ここの学費が免除されるんだ。」
(優勝した年だけじゃないのか……)
そんなご都合親切設計でもあるらしい。
「学費が免除されたら、入学費だけなんとか返せばお世話になってるのも全部チャラ。父さんは優勝出来るくらいの腕があるなら騎士を目指してもいいって言ってくれたから、そこも解決!」
あらまぁ、とってもいい笑顔。
拳を握りしめて緩いガッツポーズをとるエラルド。
大人の事情は金銭的な物以外にも色々あるので、それで解決するとは全く思えない。
しかしまぁ相手方の豪商のおじさんだかおじいさんだかの人柄も知らないし。
もしかしたらお嬢さんが別の人を好きになって駆け落ちする展開もあるかもしれないし。
先のことは考えても仕方がない。
他所の家のことだし。
「つまりここに入学するために3歳児と婚約したのか。君、思ってたよりしたたかだな……」
エラルドの柔らかい雰囲気から想像していた人柄と違っていたらしいネルスは、呆れと驚きの入り混じった表情で息を吐いている。
「それより、出来なかったらその子と結婚する未来なの分かってるのか?」
私は心配半分、からかい半分でポンポンとエラルドの肩を叩いて首を傾げた。
黄色い瞳が真っ直ぐこちらを向く。
「優勝してみせるさ!」
「無理好き」
何度目かの弾ける笑顔。
後光が射して見える。
顔が良過ぎる。
真顔のまま口走った私の言葉に、エラルドは笑ったまま眉を下げた。
「む、無理すぎって酷いなー」
「あ、いや、違う。違うんだその、頑張って欲しいってことだ」
何もうまく誤魔化せなかった。言い訳にすらなっていない。
せっかく今はイケメンなのに発言がゴミすぎる。
いい声の無駄遣い。
「どうしたらそういうことになるんだ。」
ネルスの冷静なツッコミが胸を貫く。
二人に意味が伝わっていないことだけが救いだ。
当のエラルドはなーんだ、と再び声のトーンが明るくなった。
「方言か? ありがとうな!」
「いやこわまじすき」
「元々、俺は騎士になりたいんだ。伯爵家を継いで騎士になっても良いけど、圧倒的に命の危険が多いだろ?」
エラルドが言うには、前々から騎士になるといつ何があるか分からないので弟を跡継ぎに、と父親に話していたらしい。
しかし、ユリオプス伯爵は跡継ぎ云々はともかく、騎士になって自ら命を危険に晒すのは可愛い長男の希望でも難色を示していたと。
そこへ今回の結婚話だ。
エラルドは5歳の弟に跡を継いで欲しい。
相手方は伯爵家の跡継ぎと3歳の孫娘に結婚して欲しい。
ユリオプス伯爵は年齢の兼ね合いで婚約するなら次男の方がいい。
全員の希望を叶えようとしたら「5歳の次男が伯爵家を継ぎ3歳のお嬢さんと婚約する」のが手っ取り早い。
一番影響を受ける弟くんの希望が謎なのが気がかりだが、5歳児に希望を聞いたら
「カッコいい勇者になってドラゴンをやっつける!」
とか言い出す可能性があるので意思確認は現在不可能。
とりあえず今は仕方がない。
家族で揉めるならそれこそ10年後だ。
「いや、解決してるじゃないか。なんで今、君と3歳の女児が婚約しているんだ」
私の拘束から逃れ、衣服と姿勢を正しながら改めてネルスが会話に参加してきた。
「騎士になりたいところは父さんがなかなか納得してくれなくてさー」
エラルドが肩をすくめて唇を尖らせる。
それはそうだろうと、私は頷いた。
「跡を継ぐとか継がないとか関係ないからな、そこ」
この世界での騎士は、私の知識では日本の武士に近い。
しかも、源平合戦より前の、貴族に仕えている時代の武士だ。
基本的には政治には関わらず、有事の際に戦場へ行くのが主な仕事だ。
その他にも皇族の護衛や国の警備、貴族に直接雇われたりと色々仕事はある。
代々騎士の家系、という家も有ればエラルドのように希望してその職に就く人もいる。
言うまでも無いが、とにかく危ない。
武器を持って戦うのでとても危ない。
領地を治める貴族のお坊ちゃまがわざわざ目指す仕事ではない。
国や人を守る素晴らしい仕事だが、親としてはやめていただきたい。
それはエラルドも充分承知してはいるようだ。
「そうだろ? で、ここの学校の剣術大会に目をつけさせてもらった!」
いや前言撤回。
親の心子知らずとはこのことだ。
とても目がキラキラしている。
自分の希望を通そうとすることに罪悪感を覚えている様子が羨ましいほど無い。皆無。
「そういえばあったな。それ」
この学校の剣術大会とは。
三学年入り乱れて剣術に腕の覚えがある生徒が出場し、活躍すると観戦に来ていた貴族や騎士団の偉い人からお声がかかったりする二次元によくあるやつである。
以上。
「3年間で1回でも優勝したら、ここの学費が免除されるんだ。」
(優勝した年だけじゃないのか……)
そんなご都合親切設計でもあるらしい。
「学費が免除されたら、入学費だけなんとか返せばお世話になってるのも全部チャラ。父さんは優勝出来るくらいの腕があるなら騎士を目指してもいいって言ってくれたから、そこも解決!」
あらまぁ、とってもいい笑顔。
拳を握りしめて緩いガッツポーズをとるエラルド。
大人の事情は金銭的な物以外にも色々あるので、それで解決するとは全く思えない。
しかしまぁ相手方の豪商のおじさんだかおじいさんだかの人柄も知らないし。
もしかしたらお嬢さんが別の人を好きになって駆け落ちする展開もあるかもしれないし。
先のことは考えても仕方がない。
他所の家のことだし。
「つまりここに入学するために3歳児と婚約したのか。君、思ってたよりしたたかだな……」
エラルドの柔らかい雰囲気から想像していた人柄と違っていたらしいネルスは、呆れと驚きの入り混じった表情で息を吐いている。
「それより、出来なかったらその子と結婚する未来なの分かってるのか?」
私は心配半分、からかい半分でポンポンとエラルドの肩を叩いて首を傾げた。
黄色い瞳が真っ直ぐこちらを向く。
「優勝してみせるさ!」
「無理好き」
何度目かの弾ける笑顔。
後光が射して見える。
顔が良過ぎる。
真顔のまま口走った私の言葉に、エラルドは笑ったまま眉を下げた。
「む、無理すぎって酷いなー」
「あ、いや、違う。違うんだその、頑張って欲しいってことだ」
何もうまく誤魔化せなかった。言い訳にすらなっていない。
せっかく今はイケメンなのに発言がゴミすぎる。
いい声の無駄遣い。
「どうしたらそういうことになるんだ。」
ネルスの冷静なツッコミが胸を貫く。
二人に意味が伝わっていないことだけが救いだ。
当のエラルドはなーんだ、と再び声のトーンが明るくなった。
「方言か? ありがとうな!」
「いやこわまじすき」
15
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界のんびり放浪記
立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。
冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。
よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。
小説家になろうにも投稿しています。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる