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第二章
花代を要求する
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「一体どういう風の吹き回しだお前」
私は持ち歩くには多すぎる花たちを貸し馬車に預けて王都の別邸に届けるよう依頼した。
そして赤い花を銀髪に飾ってやろうとしたら手を叩かれた。似合うのに。
「別に。気まぐれだ」
アレハンドロは馬車を見送ると素気なく先に歩いて行った。
早足で追いかけながら文句を言う。
「気まぐれで大量の花を買わされた私の身にもなれ。誰が世話をすると思っているんだ」
別に私はしないけど。
「どうせお前なら私が言わなくても買っただろう」
私のことを聖人か何かだと思ってるぞこの子。
実際、事情を聞いたら買ってしまっていたかもしれないがその手には乗らない。
「私は花代を要求する」
もちろん本当にお金を払えというわけではない。
絶対何か理由がありそうだからそれを話せと言っている。
じゃなきゃあんな優しいことするかこいつが。
どうやら伝わったようで、大きくため息をついてからポツポツと話し始めた。
「夏休み中、この暑い中ずっとあそこで花を売っているのが公務で移動中の馬車から見えていた」
ほら、なんかあるんじゃないか。
そういえば私も昨日、馬車から花を売る少年が見えていたのを思い出した。
「へぇ……花に魔術をかけて長く保たせてるのかもな。それで?」
「それだけだ」
早々に話を切り上げようとするアレハンドロの腕を掴んでにっこりと笑いかける。
ものすごく嫌そうな顔をされた。
「もう少し詳しく話してくれないと花代には足りないな」
なんだか萌の予感がする。逃してなるものか。
「貴様、いい度胸だな」
本日2回目の大きなため息を吐きながら再び口を開いた。
以下、アレハンドロ目線でお送りします。
1日だけ朝からずっと雨の日があった。
私は公務の関係でこの辺りで一番大きい図書館へ行っていた。
学園の図書室でアンネが落下したことがあったが、同じようなことが他の図書館でも起きているのか、もしあったとしたらどう対策をとっているのかなどを調査に来たのだ。
そこで、さっきの花売りが居た。
花を売っているときは大口を開けて笑っている姿ばかりが見えていたが、図書館では何冊もの本を読みながら静かに真剣に勉強をしていたのだ。
そのイメージの差に驚いて、少し長く目に留めてしまった。
そうすると、図書館の責任者が私の目線に気がついたのか、何も聞いていないのに話し始めた。
「あの子、学校が休みの時期に農作物を売りに来ておりまして。その間、王都に滞在して勉強してるんですよ」
その口調や柔らかい表情から、ずっと少年を見守ってきた愛着のようなものを感じる。
もしかしたら親しいのかもしれないし、白髪混じりのこの男の孫などと同じくらいの歳なのかもしれない。
「……今回は花を売っていたな」
「ご存じでしたか。郊外の農村の子なのですが、なんでも殿下も通っていらっしゃる学園を目指しているんだとか」
どうやら特待生を狙っているらしい。
片道3日ほどかかるという農村からやってきて、昼間は農作物を売り、夕方から図書館が閉まるまで勉強し、おそらく宿でも夜中まで勉強しているのだという。
今日は雨で店が開けないため、朝からずっと図書館にいるのだそうだ。
無謀だと思うと同時に、机に齧り付きそうな勢いで勉強に励んでいるその姿が、毎日街の図書館に通い詰めて勉強したのだと言っていたおさげ髪と重なる。
大きな図書館がある街に住んでいた分、あいつの方がまだ環境に恵まれていたようだ。
そもそも図書館で独学、というのが私の想像の範疇を超えてはいたが。
あの学校に入るための勉強をするには、平民が学ぶ一般的な学校の教師の指導力では追いつかないのだろう。
幼少期から充実した教育を受けている貴族や大商人の子女の中で、1位の成績を誇るアンネのようなやる気に満ち溢れた才能が平民の中に眠っているのだとしたら。
「平民からの人材の発掘や育成も今後の課題だな」
思わず溢れた言葉に、図書館の責任者は首を大きく、何度も縦に振った。
◇
「と、いうわけだ。花代には足りたか。」
「お釣りがくるレベルだ。昼食は奢ろう……」
照れくさいのかぶっきらぼうな声で話し終えたアレハンドロの肩を叩きながら、私は空いている手で顔を覆って俯いていた。
尊い。
日銭を稼ぎながらコツコツと勉強しているあの子も、それを見てアンネを思い出して応援してあげたくなったアレハンドロの成長も。
尊い。
「あの子に財布ごと渡せば良かった……村に図書館建ててあげたい……」
やろうと思えばそれが出来る立場が恐ろしい。
「学費援助や入学の推薦をするとかではなくか」
「それは何か違う気がする……」
いやもう分からない。
そういう金に物を言わせることをして喜ばれるのか。
その努力する姿に美しさを感じるのはこっちの勝手な都合な気もするしでもでも!
「その子の能力がどんなものか分からないからな……」
財布ごと渡したかったとか言いつつ冷静な自分がいる。
アンネほどの学力が身に付いているのかも謎だし。そんだけやってて身に付いてないなんてこと無いと思うけど。
でもそもそも貴族はそんな努力してなくても入学できるんだよな。
その努力だけで正直100点中100億点満点だな。
「直接入学させてあげるより、勉強できる土台をなんとかしてあげたい気持ちだな」
「私も同意見だ。貴族が優遇されすぎている気がしてきた」
今更か。気づいてよかった。
「そこの改革は恐ろしく大変だろうから準備をきっちりして気長にな」
私は知っている。
そういうのは揉めに揉めて血を見るんだ。
歴史の教科書でも創作物ですらだいたいそうなんだ。
頑張れアレハンドロ。
私はその頃もう居ないしどうせ居ても政治の役に立たないからね!
私は持ち歩くには多すぎる花たちを貸し馬車に預けて王都の別邸に届けるよう依頼した。
そして赤い花を銀髪に飾ってやろうとしたら手を叩かれた。似合うのに。
「別に。気まぐれだ」
アレハンドロは馬車を見送ると素気なく先に歩いて行った。
早足で追いかけながら文句を言う。
「気まぐれで大量の花を買わされた私の身にもなれ。誰が世話をすると思っているんだ」
別に私はしないけど。
「どうせお前なら私が言わなくても買っただろう」
私のことを聖人か何かだと思ってるぞこの子。
実際、事情を聞いたら買ってしまっていたかもしれないがその手には乗らない。
「私は花代を要求する」
もちろん本当にお金を払えというわけではない。
絶対何か理由がありそうだからそれを話せと言っている。
じゃなきゃあんな優しいことするかこいつが。
どうやら伝わったようで、大きくため息をついてからポツポツと話し始めた。
「夏休み中、この暑い中ずっとあそこで花を売っているのが公務で移動中の馬車から見えていた」
ほら、なんかあるんじゃないか。
そういえば私も昨日、馬車から花を売る少年が見えていたのを思い出した。
「へぇ……花に魔術をかけて長く保たせてるのかもな。それで?」
「それだけだ」
早々に話を切り上げようとするアレハンドロの腕を掴んでにっこりと笑いかける。
ものすごく嫌そうな顔をされた。
「もう少し詳しく話してくれないと花代には足りないな」
なんだか萌の予感がする。逃してなるものか。
「貴様、いい度胸だな」
本日2回目の大きなため息を吐きながら再び口を開いた。
以下、アレハンドロ目線でお送りします。
1日だけ朝からずっと雨の日があった。
私は公務の関係でこの辺りで一番大きい図書館へ行っていた。
学園の図書室でアンネが落下したことがあったが、同じようなことが他の図書館でも起きているのか、もしあったとしたらどう対策をとっているのかなどを調査に来たのだ。
そこで、さっきの花売りが居た。
花を売っているときは大口を開けて笑っている姿ばかりが見えていたが、図書館では何冊もの本を読みながら静かに真剣に勉強をしていたのだ。
そのイメージの差に驚いて、少し長く目に留めてしまった。
そうすると、図書館の責任者が私の目線に気がついたのか、何も聞いていないのに話し始めた。
「あの子、学校が休みの時期に農作物を売りに来ておりまして。その間、王都に滞在して勉強してるんですよ」
その口調や柔らかい表情から、ずっと少年を見守ってきた愛着のようなものを感じる。
もしかしたら親しいのかもしれないし、白髪混じりのこの男の孫などと同じくらいの歳なのかもしれない。
「……今回は花を売っていたな」
「ご存じでしたか。郊外の農村の子なのですが、なんでも殿下も通っていらっしゃる学園を目指しているんだとか」
どうやら特待生を狙っているらしい。
片道3日ほどかかるという農村からやってきて、昼間は農作物を売り、夕方から図書館が閉まるまで勉強し、おそらく宿でも夜中まで勉強しているのだという。
今日は雨で店が開けないため、朝からずっと図書館にいるのだそうだ。
無謀だと思うと同時に、机に齧り付きそうな勢いで勉強に励んでいるその姿が、毎日街の図書館に通い詰めて勉強したのだと言っていたおさげ髪と重なる。
大きな図書館がある街に住んでいた分、あいつの方がまだ環境に恵まれていたようだ。
そもそも図書館で独学、というのが私の想像の範疇を超えてはいたが。
あの学校に入るための勉強をするには、平民が学ぶ一般的な学校の教師の指導力では追いつかないのだろう。
幼少期から充実した教育を受けている貴族や大商人の子女の中で、1位の成績を誇るアンネのようなやる気に満ち溢れた才能が平民の中に眠っているのだとしたら。
「平民からの人材の発掘や育成も今後の課題だな」
思わず溢れた言葉に、図書館の責任者は首を大きく、何度も縦に振った。
◇
「と、いうわけだ。花代には足りたか。」
「お釣りがくるレベルだ。昼食は奢ろう……」
照れくさいのかぶっきらぼうな声で話し終えたアレハンドロの肩を叩きながら、私は空いている手で顔を覆って俯いていた。
尊い。
日銭を稼ぎながらコツコツと勉強しているあの子も、それを見てアンネを思い出して応援してあげたくなったアレハンドロの成長も。
尊い。
「あの子に財布ごと渡せば良かった……村に図書館建ててあげたい……」
やろうと思えばそれが出来る立場が恐ろしい。
「学費援助や入学の推薦をするとかではなくか」
「それは何か違う気がする……」
いやもう分からない。
そういう金に物を言わせることをして喜ばれるのか。
その努力する姿に美しさを感じるのはこっちの勝手な都合な気もするしでもでも!
「その子の能力がどんなものか分からないからな……」
財布ごと渡したかったとか言いつつ冷静な自分がいる。
アンネほどの学力が身に付いているのかも謎だし。そんだけやってて身に付いてないなんてこと無いと思うけど。
でもそもそも貴族はそんな努力してなくても入学できるんだよな。
その努力だけで正直100点中100億点満点だな。
「直接入学させてあげるより、勉強できる土台をなんとかしてあげたい気持ちだな」
「私も同意見だ。貴族が優遇されすぎている気がしてきた」
今更か。気づいてよかった。
「そこの改革は恐ろしく大変だろうから準備をきっちりして気長にな」
私は知っている。
そういうのは揉めに揉めて血を見るんだ。
歴史の教科書でも創作物ですらだいたいそうなんだ。
頑張れアレハンドロ。
私はその頃もう居ないしどうせ居ても政治の役に立たないからね!
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