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第二章
今回だけ
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「……取り乱して申し訳ございませんでしたデルフィニウムさま……」
早く出ないとアンネたちを見失ってしまうよ、と声をかけてようやく本来の目的を思い出したお嬢様と劇場の外に出た。
まだハンカチは離せないまま、赤い目元を押さえている。鼻声だが、話せるようになったということはだいぶ落ち着いてきたようだ。
私は細い背中をぽんぽんと叩いて微笑みかける。
「想像していたより切ない話だったからな」
「切ないですわ……魔王の王子への愛がっ!」
言い方。
友愛とか親愛とかね、愛って色々だね。
いっそ王子と魔王がくっ付いたらいいのにとは思ったけどね。
とは口が裂けても言うことは出来ない。
とりあえず、うんうんそうだね、と聞いておく。
「また観たい……」
「いつでも誘ってくれ」
めっちゃ沼ってしまいそうだなお嬢様。
わかる。とても分かる。良かったよね。
普段貴族が観る演劇もとても素晴らしい。
しかし、もっと格式張って堅苦しかったり政治的な感じだったりするので、民間の自由な演劇の刺激が強かったのだろう。
「ところでアレハンドロたちは……」
劇場の外は、まだ観劇客たちでごった返している。
明らかに女性が多いのは、やはり主演や主要人物たちが女性人気が高そうな美男子たちだったからだろうか。
騎士などはもっとイカつい人でも良かったと思うが、体格のいい美丈夫って感じの、つまりイケメンだった。筋肉のあるイケメン。
王子と王女の恋愛シーンも王子と魔王の友情の絡みも女性受けしそうだったしな。
それにしても、デザインは違えど白いコーディネートの人が多いのは今回の演劇と関係あるのだろうか。ドレスコードがあるなら合わせてきたのに。
(別に登場人物で白い格好の人いなかったよなー……あ!)
「居た。アレハンドロだ」
ラナージュと人混みを進みながらアレハンドロたちを探すと、背の高い彼は意外とすぐに見つかった。
「殿下、黒い髪もお似合いですわね」
改めてアレハンドロを見たラナージュが感嘆したような声を出した。
さすがに銀の長髪は目立つので、髪を魔術で黒に染め、ついでにひとつの三つ編みにしてあげたのだ。
「なんだこの髪型は」とかなんとか言いながら、解かずにいるところが天邪鬼皇太子のかわいいところだ。
服装も、白いシャツに灰色のベスト、黒いズボンとシンプルにするように提案したのは私だ。
放っておいたら正装していきそうなくらい初デートに気合いが入っていたから。かわいい。
隣には、いつものおさげ髪のアンネがいた。
裾のフリルが可愛らしい膝丈のワンピースを着ているが、やはり白い。
煉瓦造りの建物の壁際に立って何か話しているようなので、少し離れた木陰に隠れて見守ることにした。
周囲から見たら、きっとどう考えても怪しい。仕方なく私達の姿や声が周りに認識出来なくなる魔術を施した。
私から1メートル以上離れると魔術が消えてしまうので気をつけるように伝えると、尊敬の眼差しを向けられた。
「まぁ、そんなことまで出来るんですの?」
「あまり良くないとは思うんだけどな……?」
美しい顔と距離が近い。
あとなんか甘くて良い匂いがする。ローズ系かな?女の子の香りって感じだなー男物の香水とは少し違う気がする。
今の私が男でなければ、「良い香りだねーなんていう香水?」と気軽に言えるのだが好きでもない男に言われてもねぇと黙ることにした。
紺色のロングスカート似合ってるよとかならともかく、香りってどうなんだろう。
わざわざ香水つけてるんだろうし褒めても良いような気もするが。匂いってどうもデリケートなイメージがあって。
イケメンならいいだろうか。
でも、美男子なんて見慣れてそうだし、免罪符にならないだろうな。
アレハンドロとアンネが何か楽しそうに会話している様子を眺めながらぼんやり考えていると、ラナージュが声を顰めながら耳元に口を近づけてきた。
多分、今きっとすごい綺麗な絵面。
「あの、お二人の会話を聞くことは……」
そうだね。そう思うよね。
私は「アンネが壁を背にしてるってことは壁ドンのチャンスがあるな」などと頭の片隅で考えながら、苦笑して答える。
「出来る。けどさすがに」
「今回だけですわ!」
魔術のお陰で周囲に声は聞こえないのだが、音量を落としたまま力強く言葉を放たれた。
私はラナージュの方を向くと、焦って両手を開いて左右に振った。
「いやいやバレたら怒られる上に嫌われるぞ!」
「バレるなんてミスをデルフィニウムさまがなさいますの!?」
全然引いてくれないどころかくっつきそうなくらい顔が近い。柔らかい手にギュッと両手を握られる。
こういう時は普段なら絶対やらないミスをなぜかその時だけやらかすのがお決まりなの!
出来るって言わなければ良かった!
まさか賢く優雅で大人なお嬢様だと思っていたラナージュがこんなに食い下がるとは。
私も2人が何を話しているのか気になって仕方はないけれど。
少女漫画みたいにときめく会話してないかなぁってソワソワするけれど。
「ダメったらダメだ!」
私は欲望に抗って、首を横に激しく振った。
早く出ないとアンネたちを見失ってしまうよ、と声をかけてようやく本来の目的を思い出したお嬢様と劇場の外に出た。
まだハンカチは離せないまま、赤い目元を押さえている。鼻声だが、話せるようになったということはだいぶ落ち着いてきたようだ。
私は細い背中をぽんぽんと叩いて微笑みかける。
「想像していたより切ない話だったからな」
「切ないですわ……魔王の王子への愛がっ!」
言い方。
友愛とか親愛とかね、愛って色々だね。
いっそ王子と魔王がくっ付いたらいいのにとは思ったけどね。
とは口が裂けても言うことは出来ない。
とりあえず、うんうんそうだね、と聞いておく。
「また観たい……」
「いつでも誘ってくれ」
めっちゃ沼ってしまいそうだなお嬢様。
わかる。とても分かる。良かったよね。
普段貴族が観る演劇もとても素晴らしい。
しかし、もっと格式張って堅苦しかったり政治的な感じだったりするので、民間の自由な演劇の刺激が強かったのだろう。
「ところでアレハンドロたちは……」
劇場の外は、まだ観劇客たちでごった返している。
明らかに女性が多いのは、やはり主演や主要人物たちが女性人気が高そうな美男子たちだったからだろうか。
騎士などはもっとイカつい人でも良かったと思うが、体格のいい美丈夫って感じの、つまりイケメンだった。筋肉のあるイケメン。
王子と王女の恋愛シーンも王子と魔王の友情の絡みも女性受けしそうだったしな。
それにしても、デザインは違えど白いコーディネートの人が多いのは今回の演劇と関係あるのだろうか。ドレスコードがあるなら合わせてきたのに。
(別に登場人物で白い格好の人いなかったよなー……あ!)
「居た。アレハンドロだ」
ラナージュと人混みを進みながらアレハンドロたちを探すと、背の高い彼は意外とすぐに見つかった。
「殿下、黒い髪もお似合いですわね」
改めてアレハンドロを見たラナージュが感嘆したような声を出した。
さすがに銀の長髪は目立つので、髪を魔術で黒に染め、ついでにひとつの三つ編みにしてあげたのだ。
「なんだこの髪型は」とかなんとか言いながら、解かずにいるところが天邪鬼皇太子のかわいいところだ。
服装も、白いシャツに灰色のベスト、黒いズボンとシンプルにするように提案したのは私だ。
放っておいたら正装していきそうなくらい初デートに気合いが入っていたから。かわいい。
隣には、いつものおさげ髪のアンネがいた。
裾のフリルが可愛らしい膝丈のワンピースを着ているが、やはり白い。
煉瓦造りの建物の壁際に立って何か話しているようなので、少し離れた木陰に隠れて見守ることにした。
周囲から見たら、きっとどう考えても怪しい。仕方なく私達の姿や声が周りに認識出来なくなる魔術を施した。
私から1メートル以上離れると魔術が消えてしまうので気をつけるように伝えると、尊敬の眼差しを向けられた。
「まぁ、そんなことまで出来るんですの?」
「あまり良くないとは思うんだけどな……?」
美しい顔と距離が近い。
あとなんか甘くて良い匂いがする。ローズ系かな?女の子の香りって感じだなー男物の香水とは少し違う気がする。
今の私が男でなければ、「良い香りだねーなんていう香水?」と気軽に言えるのだが好きでもない男に言われてもねぇと黙ることにした。
紺色のロングスカート似合ってるよとかならともかく、香りってどうなんだろう。
わざわざ香水つけてるんだろうし褒めても良いような気もするが。匂いってどうもデリケートなイメージがあって。
イケメンならいいだろうか。
でも、美男子なんて見慣れてそうだし、免罪符にならないだろうな。
アレハンドロとアンネが何か楽しそうに会話している様子を眺めながらぼんやり考えていると、ラナージュが声を顰めながら耳元に口を近づけてきた。
多分、今きっとすごい綺麗な絵面。
「あの、お二人の会話を聞くことは……」
そうだね。そう思うよね。
私は「アンネが壁を背にしてるってことは壁ドンのチャンスがあるな」などと頭の片隅で考えながら、苦笑して答える。
「出来る。けどさすがに」
「今回だけですわ!」
魔術のお陰で周囲に声は聞こえないのだが、音量を落としたまま力強く言葉を放たれた。
私はラナージュの方を向くと、焦って両手を開いて左右に振った。
「いやいやバレたら怒られる上に嫌われるぞ!」
「バレるなんてミスをデルフィニウムさまがなさいますの!?」
全然引いてくれないどころかくっつきそうなくらい顔が近い。柔らかい手にギュッと両手を握られる。
こういう時は普段なら絶対やらないミスをなぜかその時だけやらかすのがお決まりなの!
出来るって言わなければ良かった!
まさか賢く優雅で大人なお嬢様だと思っていたラナージュがこんなに食い下がるとは。
私も2人が何を話しているのか気になって仕方はないけれど。
少女漫画みたいにときめく会話してないかなぁってソワソワするけれど。
「ダメったらダメだ!」
私は欲望に抗って、首を横に激しく振った。
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