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第二章

私のいない世界で

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「気になっていたんだが、白い服の者が多いが何かあるのか?」
「これですか?これは、ライモンドさまは白馬の王子さまなので!」
「……」

 なるほど、公式か非公式かは謎だけどファンの共通認識でライモンドのイメージカラーが白なのか。
 白い洋服の人たちはライモンドの女、いや、ファンというわけだ。
 しかし白とは。もう少しファンの洗濯事情に優しい色だったら良かったのに。

 嬉しそうに服と同じく白い肩掛けポーチを見せるアンネとは対照的に、アレハンドロは口をへの字に曲げて嫌そうな顔だなぁ。分かりやすいやつだ。

 だが残念ながら、推しに嫉妬するのは不毛だ。
 土俵が違う。
 
 私の隣で真剣な顔と声でラナージュが呟く。

「わたくし、魔王役の方のファンの方々と同じ色の服装がしてみたいですわ」
「それは今度アンネに聞いてみてくれ」

 お察しの通り、私たちはアンネとアレハンドロの会話を聞いている。
 魔術を使って音を拾っているのだ。

 本当にごめん2人とも。
 負けた。
 己の好奇心とお嬢様のしつこさに負けた。
 絶対にバレないようにしないといけない。

「申し訳ありません、私ばっかり話してしまって」
「いや、きさ……アンネが楽しいならそれでいい」

 そんなことが言えるようになったのか!

「本当に、殿下はお優しいですね。ありがとうございます!」

 伝わらないかなぁ。他の人には絶対言わないことなんだけどなぁ。
 
 ひたすら楽しそうにアンネはアレハンドロに向かって首を傾げた。

「殿下は、好きな場面はありましたか?」

 アレハンドロは目線を泳がせて返事を考え、感想が聞きたくてウズウズしているアンネに気圧されながら口を開いた。

「……好き、ではないが。最後の魔王が消える場面が、頭から離れないな」

 ラナージュがうんうんと深く頷いた。

「やはり殿下も……」

 このアレハンドロもラナージュも、浮世離れしてるのに意外と普通の感性してるんだよな。
 そりゃラストシーンが印象に残るよね。
 普段読んでる物語の結末と違っていたのだから余計に。

 ちなみに私はイケメンたちが旅する中で「あ、この2人付き合ってるな」って思ったシーンが組み合わせ問わず印象に残ってます。もちろんラストシーンもそのひとつ。

 邪な目で見ずに純粋に楽しむ脳みそを返してほしい。
 
 アンネもその場面を思い出しているのか、眉を下げて笑った。

「悲しくて美しかったですね」
「『私のいない世界で……』おかしなことだと聞き流して欲しいのだが」

 表情はよく見えないが、目線をアンネから逸らし、空の方へ向けてアレハンドロが言葉を紡ぐ。

「なぜか、魔王がシンと重なって…」
(私か)
「シンさま?」

 少し驚いたような声を出したアンネ。
 言葉に迷っているアレハンドロは今度は地面の方へ目を落とした。

「もちろん、決して、魔族がどうというわけではなくな。親ゆ……優秀な魔術師が、消えてしまう……」

 親友って言ったらいいのに。
 なんというか、隣でラナージュも聞いてるのに、私が恥ずかしくなる会話をし始めたな?とんだ流れ弾だ。

「あんな風にアレもいなくなりそうだと……いや、そんな訳もないんだが」

 ごめんアレハンドロ。
 多分そんな感じで私消えます。
 私のいない世界で世界一の皇帝になってね!

「いえ、おっしゃること、分かります」

 分かっちゃう!?
 勘が良すぎるね!

「シンさま、たまに心ここに在らずで、遠くを見てらっしゃるような時があって……どこか儚さがお有りですから」

 あ、それ多分、妄想の世界にトリップしてる時のやつですね。
 しかもだいたい君たちもその犠牲者だね!
 ごめんね!!
 そんな風に見えるんだぁ!
 顔がいいってすごい!!

「でも、きっと殿下に黙って急に消えてしまったりなんてしませんよ!」

 する予定だったなー。
 そうだな最後どうしようかなー。
 卒業と共にフェードアウト出来る雰囲気じゃないなー。

 あんな寂しそうな声をされてしまうと。
 お別れの挨拶、考えとかないと。

「気を遣わせてすまないアンネ。演劇の出来が良すぎたせいだろう。ルース王に自分を重ねるなど身の程知らずにもほどがある」
「殿下は、ルース王を超える方になられます」

 自嘲気味に笑っている様子のアレハンドロの手をアンネは明るい声を出しながら両手で握りしめた。
 ちょっとオペラグラス欲しい。表情が見たい。

「私も、一生お力になれるように頑張りますね」
「……アンネ……」
「賢者さまみたいに!!」

 あ、そっち。
 ラナージュは額に手を当てて頭を左右に振る。

「アンネ……そこは王女さまですわ……」
「うん。でもそれはそれで問題だけどな」

 そこ、今のところ君のポジションなんだわ。
 
 おそらくガッカリしたであろうアレハンドロは、アンネに握られている手を片方だけ解いた。
 そしてそのまま手を繋いだ。
 めげない。やりおる。

「そろそろ行くか」
「……!あ、あの……!は、はい!」

 焦った声のアンネは、繋いだまま引かれた手とアレハンドロの顔を交互に見てから深々と頭を下げた。
 顔が赤い。気がする。良い席だったからオペラグラス持ってこなかった自分を恨む。

「今日はお誘いいただいて本当に本当にありがとうございました!お礼がしたいので、私にできることならなんでも言ってください!」
「なんでも?」

 あ、言っちゃったな。
 そのワード。

「なんでも」
「なんでも……」

 思わず復唱してしまったところ、ラナージュとハモってしまった。
 
 アレハンドロは細い腕を引くと一歩近づいた。

「では、少し目を閉じていろ。良いと言うまで開けるな」
「……?はい!」

 元気よく返事をしたアンネが目を閉じた。
 鈍すぎかな。
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