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第二章
決勝戦※戦闘、流血描写有り
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決勝戦が始まった。
砂埃が舞う。
鉄がぶつかり合う音が絶え間なく響く。
通例により、準決勝まで進んだ私とマヘイダは審判のリルドットの側にいた。
魔術でガチガチに防御を固めて、ある意味特等席で観戦している。
試合が終わったらそのまま表彰式があるから都合がいいらしい。
色んな意味で怖いから辞退したかったけど、そういうもんだから、絶対俺が守るからってリルドットに押し通された。
イケメンかよ。
バレットとエラルド、2人の試合を観てて思うことは。
(私、お祭りに参加させていただいてただけだったんだな)
ということだった。
私や、他の人と試合をしていたエラルドが手を抜いていたとは思わない。バレットもそうだ。
マヘイダと接戦をしていた時に手加減をしていたわけではないはずだ。
1回戦2回戦は圧勝だったのだから。
とにかく。
2人とも先程までの試合とは別人のようなのだ。
会場は今、静かだった。
聞こえているのは激しい戦闘の音のみ。
開始前は騒がしかったのだ。
準決勝までは、試合中もワーワーと応援なのか野次なのかまでは判別できなかったが声が聞こえていた。
しかし今は。
会場中が息をしていないのではないかというほどに静かだった。
それほどまでに、圧倒されながら2人の試合を観ているのだ。
そんな中、一瞬2人が離れた。
剣を構えて睨み合いながら、呼吸を整えているようだ。
ようやくこちらも呼吸が出来た。
息を吐いて肩を揺らす。
近くで見ているおかげで、2人の短い会話が聞こえてくる。
「バレットと真剣勝負、やっぱり楽しいな」
「話しかけてくるなんて余裕だな」
「まさか。舌噛まないようにしないとっ!」
言葉が終わるのと同時にエラルドが地面を蹴って斬りかかる。
再び、息をする間もない剣戟が始まる。
剣をぶつけ合い、いなし、避け、また激しくぶつかり合う。
2人よりも剣の方を心配したくなるレベルだ。
見ている方も、知らず知らずの内に、手を強く握りしめ息を詰める。
砕けそうなほど歯を噛み締めて競り合っていた2人が再び離れた。
エラルドがバレットを弾き飛ばしたのだ。
壁へと飛ばされるバレット。
エラルドの方もバランスを崩す勢いだった。
ぶつかる、と誰もが思った瞬間。
空中で体勢を立て直したバレットが、壁に足をついた。
そのまま両足で壁を蹴ってエラルドへと真っ直ぐ突撃する。
追撃しようとしていたエラルドは迎撃するために構え直そうとしたが。
間に合わず左腕を盾にした。
バレットの剣がエラルドの腕を突く。
会場が息を飲む音がした。
声を出した人もいるのが聞こえた。
2人の目からは戦意が消えない。
刺して、抜く。バレットの剣が止まるその一瞬。
エラルドの右腕の剣が至近距離に迫ったバレットの体を下から上へと薙ぎ払う。
当たった。
ように見えた。
が、すんでのところでバレットは避けていた。
頬を剣先が掠る。
身を翻したバレットが両手で剣を振る。
支えが片腕のみになったエラルドの剣は弾き飛ばされた。
バレットは即座に喉元に剣を突きつける。
エラルドの剣が地面に突き刺さった。
「そこまで!!」
隣でリルドットの声が響く。
剣を突きつけたまま、バレットの口が動いた。
「俺にお前の剣を選ばせろ」
肩で息をしているエラルドの口元に笑顔が戻った。
「……それは自分で選びたいかな」
鳴り止まない歓声と拍手の中で、驚くほどいつも通りの2人の会話が交わされていた。
◇
(終わった……! 腕は? エラルド腕は? 治しにいっていい? どう? 今行くのは空気読めてなさすぎ? プロがやるのを待つの? どうなの? 治しにいっていい??)
私はすでに試合の結果とかどうでも良くなっていた。
触れた方が確実で早いけど、応急処置くらいならここから治癒の魔術をかけられる。
しかしここで日本人らしい悪い癖が出た。
誰も動かないのだ。
そうなってくると、自分が勝手に何かしていいのか不安になる。
救護班が飛んでくるものじゃないの? どうなの?
拍手してる場合じゃないんですけど!?
ジッと立ちながら心の中ではオロオロしていると。
「シン!!」
バレットの声が会場に響き渡った。
(え、私?)
バレットってあんな大きい声が出せるんだな。
隣のリルドットたちは私の方を見た。
会場も、再びシ――ンとしてしまった。
なんでここで注目浴びてるの私。
嫌なんですけど。
「治せるか」
バレットはエラルドの左腕を掴んでいた。
エラルドは珍しく慌てた様子でバレットと私と自分の腕を見比べている。
腕は赤く染まり、足元にはポタポタと雫が落ちていた。
私は眉を顰めながら早足で近づいていく。
空気を読むとか注目されるのが嫌とか言っている場合ではない。
「いや、後で大丈……っイっっっっ!!」
「大丈夫じゃない」
バレットが腕を掴む手に力を込めたのか。
エラルドの顔が苦痛で歪む。
「やめろバレット。見ている方が痛い」
私は嗜めると腕に手を添えて呪文を唱えた。
会場が力が抜けた様に再び騒がしくなり始める。
「こういう時のために医療に長けた魔術師が来てるのになんで私を呼んだんだお前。注目の的になってしまったぞ」
治しに行きたくてウズウズしていたことは言わずに恨み言をいう。
改めて見ると、バレットの顔にも剣の掠った傷がある。
後でそれも治さないと。
「目に入ったから、つい」
バレットは悪びれない。エラルドは横で肩を震わせていた。
「ちゃんと治せるか?動かなくなったら困る」
試合中は全く分からなかったが、バレットも実は動揺していたのだろうか。
ジッと傷が出来た腕を見ていた。
「傷跡も残さないさ」
私は2人の顔を見上げて笑った。
「2人とも、お疲れ様」
優勝おめでとう、と準決勝おめでとうはまた後で個別で言おう。
この後、バレットの父親、アコニツム騎士団長に「医療部隊に来い」と追い回されて、最終デルフィニウム伯爵の後ろに隠れることになるのだが。
それはまた別の話。
ぜっっったい嫌でしょ。
メンタル死ぬわ。
砂埃が舞う。
鉄がぶつかり合う音が絶え間なく響く。
通例により、準決勝まで進んだ私とマヘイダは審判のリルドットの側にいた。
魔術でガチガチに防御を固めて、ある意味特等席で観戦している。
試合が終わったらそのまま表彰式があるから都合がいいらしい。
色んな意味で怖いから辞退したかったけど、そういうもんだから、絶対俺が守るからってリルドットに押し通された。
イケメンかよ。
バレットとエラルド、2人の試合を観てて思うことは。
(私、お祭りに参加させていただいてただけだったんだな)
ということだった。
私や、他の人と試合をしていたエラルドが手を抜いていたとは思わない。バレットもそうだ。
マヘイダと接戦をしていた時に手加減をしていたわけではないはずだ。
1回戦2回戦は圧勝だったのだから。
とにかく。
2人とも先程までの試合とは別人のようなのだ。
会場は今、静かだった。
聞こえているのは激しい戦闘の音のみ。
開始前は騒がしかったのだ。
準決勝までは、試合中もワーワーと応援なのか野次なのかまでは判別できなかったが声が聞こえていた。
しかし今は。
会場中が息をしていないのではないかというほどに静かだった。
それほどまでに、圧倒されながら2人の試合を観ているのだ。
そんな中、一瞬2人が離れた。
剣を構えて睨み合いながら、呼吸を整えているようだ。
ようやくこちらも呼吸が出来た。
息を吐いて肩を揺らす。
近くで見ているおかげで、2人の短い会話が聞こえてくる。
「バレットと真剣勝負、やっぱり楽しいな」
「話しかけてくるなんて余裕だな」
「まさか。舌噛まないようにしないとっ!」
言葉が終わるのと同時にエラルドが地面を蹴って斬りかかる。
再び、息をする間もない剣戟が始まる。
剣をぶつけ合い、いなし、避け、また激しくぶつかり合う。
2人よりも剣の方を心配したくなるレベルだ。
見ている方も、知らず知らずの内に、手を強く握りしめ息を詰める。
砕けそうなほど歯を噛み締めて競り合っていた2人が再び離れた。
エラルドがバレットを弾き飛ばしたのだ。
壁へと飛ばされるバレット。
エラルドの方もバランスを崩す勢いだった。
ぶつかる、と誰もが思った瞬間。
空中で体勢を立て直したバレットが、壁に足をついた。
そのまま両足で壁を蹴ってエラルドへと真っ直ぐ突撃する。
追撃しようとしていたエラルドは迎撃するために構え直そうとしたが。
間に合わず左腕を盾にした。
バレットの剣がエラルドの腕を突く。
会場が息を飲む音がした。
声を出した人もいるのが聞こえた。
2人の目からは戦意が消えない。
刺して、抜く。バレットの剣が止まるその一瞬。
エラルドの右腕の剣が至近距離に迫ったバレットの体を下から上へと薙ぎ払う。
当たった。
ように見えた。
が、すんでのところでバレットは避けていた。
頬を剣先が掠る。
身を翻したバレットが両手で剣を振る。
支えが片腕のみになったエラルドの剣は弾き飛ばされた。
バレットは即座に喉元に剣を突きつける。
エラルドの剣が地面に突き刺さった。
「そこまで!!」
隣でリルドットの声が響く。
剣を突きつけたまま、バレットの口が動いた。
「俺にお前の剣を選ばせろ」
肩で息をしているエラルドの口元に笑顔が戻った。
「……それは自分で選びたいかな」
鳴り止まない歓声と拍手の中で、驚くほどいつも通りの2人の会話が交わされていた。
◇
(終わった……! 腕は? エラルド腕は? 治しにいっていい? どう? 今行くのは空気読めてなさすぎ? プロがやるのを待つの? どうなの? 治しにいっていい??)
私はすでに試合の結果とかどうでも良くなっていた。
触れた方が確実で早いけど、応急処置くらいならここから治癒の魔術をかけられる。
しかしここで日本人らしい悪い癖が出た。
誰も動かないのだ。
そうなってくると、自分が勝手に何かしていいのか不安になる。
救護班が飛んでくるものじゃないの? どうなの?
拍手してる場合じゃないんですけど!?
ジッと立ちながら心の中ではオロオロしていると。
「シン!!」
バレットの声が会場に響き渡った。
(え、私?)
バレットってあんな大きい声が出せるんだな。
隣のリルドットたちは私の方を見た。
会場も、再びシ――ンとしてしまった。
なんでここで注目浴びてるの私。
嫌なんですけど。
「治せるか」
バレットはエラルドの左腕を掴んでいた。
エラルドは珍しく慌てた様子でバレットと私と自分の腕を見比べている。
腕は赤く染まり、足元にはポタポタと雫が落ちていた。
私は眉を顰めながら早足で近づいていく。
空気を読むとか注目されるのが嫌とか言っている場合ではない。
「いや、後で大丈……っイっっっっ!!」
「大丈夫じゃない」
バレットが腕を掴む手に力を込めたのか。
エラルドの顔が苦痛で歪む。
「やめろバレット。見ている方が痛い」
私は嗜めると腕に手を添えて呪文を唱えた。
会場が力が抜けた様に再び騒がしくなり始める。
「こういう時のために医療に長けた魔術師が来てるのになんで私を呼んだんだお前。注目の的になってしまったぞ」
治しに行きたくてウズウズしていたことは言わずに恨み言をいう。
改めて見ると、バレットの顔にも剣の掠った傷がある。
後でそれも治さないと。
「目に入ったから、つい」
バレットは悪びれない。エラルドは横で肩を震わせていた。
「ちゃんと治せるか?動かなくなったら困る」
試合中は全く分からなかったが、バレットも実は動揺していたのだろうか。
ジッと傷が出来た腕を見ていた。
「傷跡も残さないさ」
私は2人の顔を見上げて笑った。
「2人とも、お疲れ様」
優勝おめでとう、と準決勝おめでとうはまた後で個別で言おう。
この後、バレットの父親、アコニツム騎士団長に「医療部隊に来い」と追い回されて、最終デルフィニウム伯爵の後ろに隠れることになるのだが。
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