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第三章
街を歩いてみたい
しおりを挟む週末だからだろう。
人通りの多い道をアレハンドロと並んで歩く。
道ゆく人たちがたまに振り返っていくのは、私とアレハンドロが美形だからだろうか。
それとも綺麗な長い黒髪から、どこかのお金持ちか芸能人かなーという想像をしているのだろうか。
この世界、一般人の男性は髪伸ばさないからね。
いや、私の世界でも正直珍しいとは思うけど。背中が隠れるほどの長髪は女性でもあまり見ないわ。
服装は煌びやかになりすぎないように、エラルドと2人でコーディネートしたからそんなに目立たない筈だ。
明るめの灰色のノーカラーシャツに黒いスラックス。うん、とても地味。
私は白い襟のあるロングシャツに青い細身のパンツ。うん、無難。
でも目立つねイケメンはね。スタイルも良いしね。
しかし、二次元の人間とはいえ本当に顔がいい。改めて顔がいい。
作画が良い。
そして、この作画神男が、
「先に街を歩いてみたい」
などと言い出し、しかもそれを譲らなかったので、エラルドたち3人と分かれてこうして2人で歩く羽目になっているのだが。
武器屋さん私も見たかったのに!
街を見てから武器屋へ行くという手もあったのだが、バレットはもう早く行きたくて行きたくて仕方なかった。こっちも譲らなかった。
仕方なく、私は皇太子殿下のお守りをすることになったのである。
「シン、色んなものが売っているな」
「露店の通りだからな」
左右に首を動かし、通り沿いに並ぶ露店をアレハンドロは興味深そうに見る。
すぐに食べられるような料理を売っている店からは食欲を唆る良い匂いがするし、異国の雰囲気の民芸品もあった。
その中に、和物っぽいなと感じる扇子や髪飾りの店もあり興味を惹かれる。
しかしアレハンドロが足取りはゆっくりだが止まらず進むから、チラ見しか出来なかった。
ちょっとじっくり見たかったな、この世界に来てから和柄はたまにしか見かけないから。
この子は何か買いたいのではなく、本当に街が見たいだけなのかもしれない。
そう思ったのだが、この後に紡がれた言葉で認識が変わった。
「子どもの頃は食べ物の店しか目に入らなかったのに」
「なんだ、来たことがあったのか。」
「両へい……両親が今の仕事に就く前は、色んな場所について行っていた。父は必ず、その街を歩かせてくれて……」
懐かしむように目を細めたアレハンドロ。
幼い頃の記憶と今を重ねて街を見ていたんだろう。
皇帝陛下は、前皇帝と不仲だった為にほぼ宮中にはおらず、視察や外交などと理由をつけて国内外の色んな場所に行かされていた。
そして本人もそれを気に入っていたようだと、デルフィニウム公爵は言っていた。
その生活、ずっと送れていたら幸せだったんだろうなぁ。今が不幸だとは言わないけど。
家族3人でのびのびと街を歩く様子を想像するとほのぼのする。
護衛の人は大変だっただろうけどね。
「今なら、何に目がいくんだ?」
「そうだな……」
懐かしむのも良いが、せっかくの観光地だ。
ちょっと現実に引き戻してやろうと問いかける。邪険にされることなく、アレハンドロはキョロキョロと改めて店の売り物を見て歩いた。
すると、ある店の前で立ち止まる。
白い布の屋根の下の机には同じく白い布がかかっており、そこに様々なアクセサリーが置いてあった。
高価な宝石などは流石に無いようだ。
色とりどりの石や金属、木製と、あまり統一性はない。
その中でもテーブルの端にある、木彫りの鳥の形の飾りの付いたペンダントだけを深緑の瞳は映していた。
羽を広げた鳥は、デフォルメされているものの細かい模様が掘られていて、手間が掛かってそうだなという印象だった。
木彫りと革紐の相性も見た目にとても良い。
テーブルの前に座っていたお姉さんが愛想よく声を掛けてくる。
「お兄さん、プレゼントかい?」
「いや」
「それも良いけど、女の子にはこういうのが人気だよ!」
何故か否定しようとしていたアレハンドロを完全にスルーして快活に笑う女性は、テーブルの真ん中に置いてあったペンダントを差し出してくる。
キラキラしたピンクの石のペンダントだ。飾りの石は親指の爪くらい大きくて、金の縁がついている。チェーンの部分も同じく金色だ。
お姉さん、アレハンドロが見ていたのとはジャンルが違いすぎるよ。
「どう思う?」
勧められるままに両手で2つとも持ち上げると、真面目な顔で私の方をチラ見してくる。
買う気なんだ。
プレゼントかと聞かれて否定しようとしたくせに買う気なんだ。
真面目に答えるなら、多分アンネのイメージに合うのは木彫りの方。
ピンクも似合うけどな。少し飾りの主張が激しい気がする。
「そこはさすがに自分の直感を信じろ」
「私の好みで言えばこちらなんだがな」
アレハンドロはピンクのペンダントを持ち上げて目線をやる。
派手な方が好きなのすごくわかる。
お姉さんはもしかしたら、アレハンドロを見て煌びやかな女の子を想像したのかもしれない。
例えば、ラナージュならつけこなしそう。
これまでに無く真剣な、しかし柔らかい表情で考え込んでいる。
おそらく脳内でアンネに装着させてみているんだろう。
急かさずに、他の商品へと目線を落として待つことにした。ついている値札には、アンネが気後れしなさそうな数字が書いてある、とか、そんなとこにしか目が行かなくて自分でもしょんぼりする。
綺麗だけど全然欲しいと思わないなぁ。
「鳥の方を貰おう」
悩み抜いた末、アレハンドロは木彫りのペンダントをお姉さんの方に差し出した。
他のアクセサリーを並べ直したり、在庫確認のようなことをしていたお姉さんが顔を上げる。
「へぇー!毎度あり!」
にやにやしてるお姉さんと目が合ったので一緒ににまにましておいた。
かわいいよね、こういうのね。
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