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第一章

口説いて欲しいのか?

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 私は、エラルドが落下するアンネに向かって、その速度が落ちる魔術を遠方から放っていたことを説明した。
 言わなくても伝わるかとは思ったが念のために、そのおかげで2人に怪我がなかったのだということも併せて伝える。

 だからきちんと礼を言いに行ってくれと思いつつ、今更だが余計なお世話なので心の中だけに留める。

「道理で……」

 長い指で顎に触れて頷く姿を茶請けに紅茶を飲む。

 見れば見るほど男前だ。
 イケメン。美形。ハンサム。
 どの形容詞も当てはまる。
 15歳なのでギリギリ美少年もいけるかもしれない。
 素晴らしい。
 
 そもそもこの部屋が似合っているのがすごい。
 
 部屋で一番目出つベッドとカーテンとソファが赤系の色で統一されている。
 まず、ワインレッドのベッドスカート。
 その上のオフホワイトの掛け布団には金糸で大きく花のような刺繍が施されている。

 カーテンも同じワインレッドで、その生地にベッドと同じ刺繍がしてある。

 今私たちが座っているソファーは落ち着いたエンジ色。
 丸いテーブルは光沢のある黒色で、これまた金色で縁取られている。

 机や棚類は全て重厚感のある黒い物で統一してあり、暗めの色が多い部屋だ。

 しかし壁紙とベッド周辺のフワッフワの絨毯が白色なので、部屋全体の印象は暗くはなかった。
 
 並の人間なら、服に着られているならぬ部屋に住まわされているといった状態になりそうだが、アレハンドロは違和感なくそこに居る。
 
(赤が似合うのかな?単純になんでも似合うのかもなぁ)
 
 何かエラルドに褒美を、などと呟いている綺麗な皇太子をこんなに間近で見られるのは贅沢な話だ、と勝手に感動していると。

「……さっきから私に見惚れているようだが?」

 口の片端を上げて目線をくれた。
 かっこ良すぎる。

 中身2歳児の癖に!
 中身2歳児の癖に顔が良すぎるー!!

 しかも本当に見惚れてたしね!!
 
 心の中だけで顔面を覆ってのたうち回る。
 が、顔の良さならば今の私も負けてはいない。

「なんだ、気付かれてしまったか。あまりにも我が国の皇太子は見目麗しいので、ついな」

 ティーカップを片手にソファの肘掛けに緩く頬杖をついて微笑み返す。
 絶対背景にキラキラか薔薇を背負ってる。

「外見の賛辞など聞き飽きているが、貴様のような美男子に言われると悪い気がしないな」

 冗談なのかリップサービスなのか本気なのかは分からないが、アレハンドロから見てもやっぱり美男子らしい。

「聞き飽きたのか。私は容姿も魔術も何度褒められても嬉しいけどな。なんならお前ももっと褒めてくれていいぞ?」
「口説いて欲しいのか? 変な男だな」
「いや褒めて欲しいんだが」

 ここは、「口説いてくれるのか?」と余裕ある返答をして御耽美な雰囲気にしたいところであったが、本音が先に出てしまった。

 どうしてそうなった。

 なんで褒めるイコール口説くになるんだこのお子ちゃま。
 褒められたら自分のことが好きなんだと勘違いするタイプの奴か。
 
 口説いてはいらないが誰かを口説いているところはみてみたいな、と伝えると、ますます変な奴だと訝しげに返されてしまった。
 変な奴というか、自分でもこの発言は普通に危ない奴だと思う。

 もっとドン引きしていい。

 警戒心を持ってくれ2歳児くん。
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