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話し合いは大事
やっぱりね(完)
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付き合い始めて半年がたったある日のこと。
タイガはラビの家のベッドに我が物顔で寝ころんでいた。
両手足を伸ばしてもまだ余裕のある大きなベッドは快適で、このまま昼寝してしまおうかと思いながらごろりと寝返りを打つ。
顔を向けた先にはベッドを背もたれにして、何かの本を読んでいるラビがいる。
タイガは欠伸をしながら、そのまま何とはなしに部屋を眺める。
ベッドと反対側の壁に置いてある、一人暮らしには大きめのテレビ。そこから少し幅を開けて黒い本棚、部屋の端にはパソコンデスク。
ふと、そのデスクに引っかかるものを見つけた。
「なぁラビー」
「ん?」
「あれ、何」
指差した先のデスクには赤い液体の入った小さな瓶。
それだけならスルーしたのだが、その小瓶の形には見覚えがあった。
嫌な予感がしながら、同じ方向へ視線をやったラビの返答を待つ。
何のことを言っているのかと首をかしげていたラビだったが、それも一瞬のことだった。
合点がいったように頷くと、わざわざ立ち上がってその小瓶を取りに行く。
「ピーヌ先輩が」
「もうあかんやつやん」
「飲んだ人の感度を良くする薬だって」
予感が的中した。
小瓶を見せるように持ち、液体を揺らしながら戻ってきたラビはどこか楽しそうだ。
お互い大変な目にあったのだから懲りてほしい。
タイガは呆れ切ってその小瓶を見上げる。
ラビの瞳のような、鮮やかな赤色はタイガの好きな色だった。だが今はそんなことを言っている場合ではない。
「最早、匂いは関係ないやん。なんで、そんなアダルトグッズばっか生み出しとんあの人」
「違う。これはピーヌ先輩の研究室の教授が」
「いや尚更やわ!教授何してんねん!」
フェロモンの研究と言っても、発情関係のことばかりではないはずだ。いや、今回のものは発情が関係あるのかも怪しい。
一体全体どんな研究室なのだろう。
タイガは出来るだけ冷静に対応して、その小瓶とは関わらないようにしたいと思った。
しかしラビはベッドに顎を乗せて視線を合わせてくる。
「ぐずぐずのタイガを見てみたい」
「絶対飲まん」
可愛らしくおねだりするモードに入ったらしい恋人に背を向ける。
目を見ていたら言うことを聞いてしまいそうなので、クリーム色の壁と睨めっこすることにしたのだ。
それでもラビは甘えた声で追撃してくる。
「タイガー」
「あーかーん!」
ほだされないように大きめの声でラビと自分に言い聞かせる。
瓶のことになんて触れなければ良かったと、後悔してももう遅い。
ラビが受け取ったということは、安全確認は何らかの形でされているはずだ。
しかし譲れなかった。
絶対にろくなことになりはしない。
頑ななタイガに焦れたらしいラビが、ベッドに上がってくる。
覆いかぶさってきて、耳に唇が寄せられる。
「じゃあせめて、タイガが自分で解すとこを生で見たい」
「……っ!」
作戦を変更したらしい。
全身を撫でるような深い声が、聴覚を直接的に刺激してくる。
顔に熱が集まるのを感じて、ラビと顔を合わせられなくなった。
「じゃあせめて、の使い方おかしいで」
「見たい」
話をそらして逃げることは許されない。
ラビも全く引く気がないらしい。
タイガはラビが来る前に自分で準備したことが何度かある。
ラビがその都度嬉しそうなので満更ではなかったのだが、あれを目の前でやれというのだ。
想像するだけで心臓が爆発しそうだ。
これ以上なく赤くなってしまった顔を両手で覆った。
「いやや恥ずかしい」
「タイガも燃えるだろ、恥ずかしいの」
「だいたい、なんでそんなん見たいんや。おもろないやろ」
本音ではっきりとお断りしても、ラビの声に諦める気配は皆無だった。
押せばいけると、この半年で学習されてしまっている。
しかも、心のどこかで満更でもないことがばれている。
しかしながら、ここで折れてしまうのもなけなしのプライドに触れた。
タイガは、今日は折れないぞと気合を入れ直す。
「絶対興奮するし。好きな人のいろんな姿が見たい」
「も、もう色々見とるやろ」
「タイガ、大好き」
ラビの息遣いが耳から首元へと移動し、鼻先を擦りつけてくるのを感じて体を丸めた。
条件反射で口元が緩みそうになるが、その手には乗らない。
意を決して顔を上げると、本気が伝わるように伸し掛かるラビの肩を掴んで強く押す。
「ずるいやつやなー! あかんもんはあか」
「な、タイガ。お願いだ。どっちか、やってくれ」
ばっちりと赤い瞳を見てしまった。
両頬を大きな手に包まれ、その端正な作りの顔としばらく見つめ合う。
ただそれだけで先ほどの決意は溶けていった。
惚れた弱みは恐ろしい。
「あー! もう! しゃーないなぁ!」
タイガがどちらを了承したかは、ふたりだけの秘密。
おしまい
タイガはラビの家のベッドに我が物顔で寝ころんでいた。
両手足を伸ばしてもまだ余裕のある大きなベッドは快適で、このまま昼寝してしまおうかと思いながらごろりと寝返りを打つ。
顔を向けた先にはベッドを背もたれにして、何かの本を読んでいるラビがいる。
タイガは欠伸をしながら、そのまま何とはなしに部屋を眺める。
ベッドと反対側の壁に置いてある、一人暮らしには大きめのテレビ。そこから少し幅を開けて黒い本棚、部屋の端にはパソコンデスク。
ふと、そのデスクに引っかかるものを見つけた。
「なぁラビー」
「ん?」
「あれ、何」
指差した先のデスクには赤い液体の入った小さな瓶。
それだけならスルーしたのだが、その小瓶の形には見覚えがあった。
嫌な予感がしながら、同じ方向へ視線をやったラビの返答を待つ。
何のことを言っているのかと首をかしげていたラビだったが、それも一瞬のことだった。
合点がいったように頷くと、わざわざ立ち上がってその小瓶を取りに行く。
「ピーヌ先輩が」
「もうあかんやつやん」
「飲んだ人の感度を良くする薬だって」
予感が的中した。
小瓶を見せるように持ち、液体を揺らしながら戻ってきたラビはどこか楽しそうだ。
お互い大変な目にあったのだから懲りてほしい。
タイガは呆れ切ってその小瓶を見上げる。
ラビの瞳のような、鮮やかな赤色はタイガの好きな色だった。だが今はそんなことを言っている場合ではない。
「最早、匂いは関係ないやん。なんで、そんなアダルトグッズばっか生み出しとんあの人」
「違う。これはピーヌ先輩の研究室の教授が」
「いや尚更やわ!教授何してんねん!」
フェロモンの研究と言っても、発情関係のことばかりではないはずだ。いや、今回のものは発情が関係あるのかも怪しい。
一体全体どんな研究室なのだろう。
タイガは出来るだけ冷静に対応して、その小瓶とは関わらないようにしたいと思った。
しかしラビはベッドに顎を乗せて視線を合わせてくる。
「ぐずぐずのタイガを見てみたい」
「絶対飲まん」
可愛らしくおねだりするモードに入ったらしい恋人に背を向ける。
目を見ていたら言うことを聞いてしまいそうなので、クリーム色の壁と睨めっこすることにしたのだ。
それでもラビは甘えた声で追撃してくる。
「タイガー」
「あーかーん!」
ほだされないように大きめの声でラビと自分に言い聞かせる。
瓶のことになんて触れなければ良かったと、後悔してももう遅い。
ラビが受け取ったということは、安全確認は何らかの形でされているはずだ。
しかし譲れなかった。
絶対にろくなことになりはしない。
頑ななタイガに焦れたらしいラビが、ベッドに上がってくる。
覆いかぶさってきて、耳に唇が寄せられる。
「じゃあせめて、タイガが自分で解すとこを生で見たい」
「……っ!」
作戦を変更したらしい。
全身を撫でるような深い声が、聴覚を直接的に刺激してくる。
顔に熱が集まるのを感じて、ラビと顔を合わせられなくなった。
「じゃあせめて、の使い方おかしいで」
「見たい」
話をそらして逃げることは許されない。
ラビも全く引く気がないらしい。
タイガはラビが来る前に自分で準備したことが何度かある。
ラビがその都度嬉しそうなので満更ではなかったのだが、あれを目の前でやれというのだ。
想像するだけで心臓が爆発しそうだ。
これ以上なく赤くなってしまった顔を両手で覆った。
「いやや恥ずかしい」
「タイガも燃えるだろ、恥ずかしいの」
「だいたい、なんでそんなん見たいんや。おもろないやろ」
本音ではっきりとお断りしても、ラビの声に諦める気配は皆無だった。
押せばいけると、この半年で学習されてしまっている。
しかも、心のどこかで満更でもないことがばれている。
しかしながら、ここで折れてしまうのもなけなしのプライドに触れた。
タイガは、今日は折れないぞと気合を入れ直す。
「絶対興奮するし。好きな人のいろんな姿が見たい」
「も、もう色々見とるやろ」
「タイガ、大好き」
ラビの息遣いが耳から首元へと移動し、鼻先を擦りつけてくるのを感じて体を丸めた。
条件反射で口元が緩みそうになるが、その手には乗らない。
意を決して顔を上げると、本気が伝わるように伸し掛かるラビの肩を掴んで強く押す。
「ずるいやつやなー! あかんもんはあか」
「な、タイガ。お願いだ。どっちか、やってくれ」
ばっちりと赤い瞳を見てしまった。
両頬を大きな手に包まれ、その端正な作りの顔としばらく見つめ合う。
ただそれだけで先ほどの決意は溶けていった。
惚れた弱みは恐ろしい。
「あー! もう! しゃーないなぁ!」
タイガがどちらを了承したかは、ふたりだけの秘密。
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