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話し合いは大事
小話・アイトのお話
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「アイトはかっこええな! なんでも出来るな!」
お前がそうやって笑うから、もっと笑って欲しかった。
最初はただそれだけだったんだ。
暗い中を走る。
痛む頬はジリジリと痛んで、おそらく腫れてきているだろう。
振り返る人など気にせず、どこに向かっているのか自分でも分からない。
とにかく走った。
心臓が痛い。
適当に曲がった、街灯が少なく人の居ない細い道でひたすら足を動かす。
頭の中を、傷だらけの体になった幼馴染の顔が支配する。
化け物でも、見るような目をしていて。
取り返しがつかない。
「……っ!!」
足に何かが引っ掛かった。
勢いよく転倒する。
全身に衝撃が走って息が詰まった。
「……元々、取り返しなんてつかんけどな……」
地面に這いつくばったまま、自嘲する。
いったいどうして、こんなことになってしまったのか。
もしもやり直せるならば、まだ仲の良かった子どもの頃に戻してほしい。
◆
アイトとタイガは、家が隣同士で、母親同士が仲が良くいつも一緒にいた。
幼い頃は体の大きさも同じくらいで、力関係もなく。
ただ、少しアイトの方が器用だった。
タイガが逆上がりの練習をしていた横で、すぐに出来るようになった。
縄跳びをしていたら一緒に遊びたかったから隣でもっと上手に跳んだ。
字を書く練習をタイガがしていたら、その横で整った字を書いた。
その都度、タイガは屈託のない笑顔で言うのだ。
「アイトはすごいな! かっこええな!」
それが嬉しくて。
タイガがやってることを一緒にやりたくて。
いつもタイガより上手にやってみせた。
いつからだろう。
その笑顔が曇り始めたのは。
「アイトはすごいな! それに比べてタイガは」
と言い始めたのは、誰だっただろう。
一緒に遊んでくれなくなったから、関わろうと必死だった。
その方法を間違えた。
どうして、頑張って練習しているタイガに
「チビはあかんな。下手すぎやろ」
なんて言ってしまったんだろう。
初めて、
「嫌いや」
と言われたのはいつだっただろう。
そう言われて初めて、
(俺は、好きなのに)
と、自覚した。
何もかも遅かった。
◆
「痛い……」
電信柱に背中を預け、足を伸ばして座り込む。
地面にぶつけた膝と腕がヒリヒリと痛い。
殴られた頬は当然、まだ痛い。
ずっと全力で走っていて胸も喉も痛かった。
タイガが牛の国の学校へ留学したと聞いて、これで諦めがつくと思った。
だが成績優秀だったアイトにも飛び込んできた留学の話。
いくつか選べる中で、思わず同じ国の同じ学校を選んでしまったのだから自分でも呆れた。
知り合いがいなければ少しはマシな会話が出来るかと思ったが、そんなに甘くはなかった。
1年ぶりに会ったタイガには、恋人が出来ていた。
そして、それとは全く関係なく。
当然アイトは嫌われたままだった。
恋人は雄の兎獣人ときた。
今までのタイガの恋人は、アイトが少し気にかけるだけで転がり落ちてきたものだったがそうはいかない。
ラビは本気でタイガが好きだったし、タイガもそうだとアイトには分かった。
今までは恋人を奪われても諦めたように目を逸らしていたというのに。
アイトはタイガに掴まれた二の腕に触れる。
拒絶されてもいいからせめて一度だけ、「好き」と「ごめん」を伝えようと思っただけだった。
そんなエゴが頭をよぎった結果がこれだ。
なけなしの理性は止めろと言ったのに。
止めようと思えば止められたかもしれないのに。
香りのせいにしてしまえと、一度で良いから思いを遂げたいと。
自己中心的な欲が勝った。
地面を見つめていると、ポタポタと雫が落ちていく。
そんな権利もないのに。
「大嫌いの上ってなんやろな」
「どうでもいい、じゃないですか」
独り言に返事が返ってきた。
驚いて、涙も拭わず顔をあげると、牛獣人の雄がしゃがんで覗き込んできている。
「突然すみません、気になってしまって」
「あ、ああ。堪忍なこんなとこで。大丈夫やか」
「前、全開です」
慌てて立ちあがろうとしたアイトは動きを止めた。
指差された先に目を向ける。
ズボンのボタンがとれジッパーが限界まで下がり、下着が見えている。
ラビに殴られる直前に脱ごうとしていたのがそのままだったのだ。
逸物を出す前だったことは不幸中の幸いと言えるだろう。
「ピンク、似合いますね」
「……ぶっ」
よりによって派手な蛍光ピンクを穿いていた。
初対面で指摘されるともう笑うしかない。
座り込んだまま、大声で笑った。
穏やかな表情で一緒に肩を震わせていた牛獣人に、ハンカチを渡されるまで。
君の嫌いは本当の嫌い。
俺の嫌いは本当は好き。
たったそれだけの、自業自得の悪役虎のお話。
お前がそうやって笑うから、もっと笑って欲しかった。
最初はただそれだけだったんだ。
暗い中を走る。
痛む頬はジリジリと痛んで、おそらく腫れてきているだろう。
振り返る人など気にせず、どこに向かっているのか自分でも分からない。
とにかく走った。
心臓が痛い。
適当に曲がった、街灯が少なく人の居ない細い道でひたすら足を動かす。
頭の中を、傷だらけの体になった幼馴染の顔が支配する。
化け物でも、見るような目をしていて。
取り返しがつかない。
「……っ!!」
足に何かが引っ掛かった。
勢いよく転倒する。
全身に衝撃が走って息が詰まった。
「……元々、取り返しなんてつかんけどな……」
地面に這いつくばったまま、自嘲する。
いったいどうして、こんなことになってしまったのか。
もしもやり直せるならば、まだ仲の良かった子どもの頃に戻してほしい。
◆
アイトとタイガは、家が隣同士で、母親同士が仲が良くいつも一緒にいた。
幼い頃は体の大きさも同じくらいで、力関係もなく。
ただ、少しアイトの方が器用だった。
タイガが逆上がりの練習をしていた横で、すぐに出来るようになった。
縄跳びをしていたら一緒に遊びたかったから隣でもっと上手に跳んだ。
字を書く練習をタイガがしていたら、その横で整った字を書いた。
その都度、タイガは屈託のない笑顔で言うのだ。
「アイトはすごいな! かっこええな!」
それが嬉しくて。
タイガがやってることを一緒にやりたくて。
いつもタイガより上手にやってみせた。
いつからだろう。
その笑顔が曇り始めたのは。
「アイトはすごいな! それに比べてタイガは」
と言い始めたのは、誰だっただろう。
一緒に遊んでくれなくなったから、関わろうと必死だった。
その方法を間違えた。
どうして、頑張って練習しているタイガに
「チビはあかんな。下手すぎやろ」
なんて言ってしまったんだろう。
初めて、
「嫌いや」
と言われたのはいつだっただろう。
そう言われて初めて、
(俺は、好きなのに)
と、自覚した。
何もかも遅かった。
◆
「痛い……」
電信柱に背中を預け、足を伸ばして座り込む。
地面にぶつけた膝と腕がヒリヒリと痛い。
殴られた頬は当然、まだ痛い。
ずっと全力で走っていて胸も喉も痛かった。
タイガが牛の国の学校へ留学したと聞いて、これで諦めがつくと思った。
だが成績優秀だったアイトにも飛び込んできた留学の話。
いくつか選べる中で、思わず同じ国の同じ学校を選んでしまったのだから自分でも呆れた。
知り合いがいなければ少しはマシな会話が出来るかと思ったが、そんなに甘くはなかった。
1年ぶりに会ったタイガには、恋人が出来ていた。
そして、それとは全く関係なく。
当然アイトは嫌われたままだった。
恋人は雄の兎獣人ときた。
今までのタイガの恋人は、アイトが少し気にかけるだけで転がり落ちてきたものだったがそうはいかない。
ラビは本気でタイガが好きだったし、タイガもそうだとアイトには分かった。
今までは恋人を奪われても諦めたように目を逸らしていたというのに。
アイトはタイガに掴まれた二の腕に触れる。
拒絶されてもいいからせめて一度だけ、「好き」と「ごめん」を伝えようと思っただけだった。
そんなエゴが頭をよぎった結果がこれだ。
なけなしの理性は止めろと言ったのに。
止めようと思えば止められたかもしれないのに。
香りのせいにしてしまえと、一度で良いから思いを遂げたいと。
自己中心的な欲が勝った。
地面を見つめていると、ポタポタと雫が落ちていく。
そんな権利もないのに。
「大嫌いの上ってなんやろな」
「どうでもいい、じゃないですか」
独り言に返事が返ってきた。
驚いて、涙も拭わず顔をあげると、牛獣人の雄がしゃがんで覗き込んできている。
「突然すみません、気になってしまって」
「あ、ああ。堪忍なこんなとこで。大丈夫やか」
「前、全開です」
慌てて立ちあがろうとしたアイトは動きを止めた。
指差された先に目を向ける。
ズボンのボタンがとれジッパーが限界まで下がり、下着が見えている。
ラビに殴られる直前に脱ごうとしていたのがそのままだったのだ。
逸物を出す前だったことは不幸中の幸いと言えるだろう。
「ピンク、似合いますね」
「……ぶっ」
よりによって派手な蛍光ピンクを穿いていた。
初対面で指摘されるともう笑うしかない。
座り込んだまま、大声で笑った。
穏やかな表情で一緒に肩を震わせていた牛獣人に、ハンカチを渡されるまで。
君の嫌いは本当の嫌い。
俺の嫌いは本当は好き。
たったそれだけの、自業自得の悪役虎のお話。
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