転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

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第22話 害獣と軍事演習

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 新型農法による収穫量増加を見た農民達の行動は早かった。
 担保となる預り金(多くの農民は後払いだが……)を支払い新型農法のやり方と、大量生産した新型農具の優先貸出権を得た農民達は、元を取ろうと田畑を耕した結果。従来農法の3~5倍程度収穫量を増やす見込みだ。

 季節は移ろい田畑には青々と茂った作物が元気に育っている。
 農具を駆使した農作業は老人を再び働き手に戻し、皆農業に勤しんでいる。

 明るい雰囲気の村とは違い領主の屋敷では、肩を落としため息をついている男達が、ウンウンと唸り声を上げとある問題に頭を悩ませていた。

「我々ステップド家は農作物を食い荒らす害獣に対してどう立ち向かうべきだろうか? 忌憚のない意見を頼む」

 と父が発言してから早数分、皆効果的なアイディアなど持ち合わせていなかった。
 結論は1つ人海戦術による山狩りだ。と言っても軍事演習を兼ねた狩りと、スポーツハンティングは異なる。

 前者は大勢の人間を指揮する指揮官の腕前と、実働部隊となる従士や領民の実力を高め有事に備える実践訓練が肉と害獣対策という建前と褒美付きで行えるメリットがある。
 後者は、外交を兼ねたものになり金とコネが手に入るものの即座に効果が表れないという明確なデメリットがある。
 
 猪や鹿と言った害獣が集まると、捕食者となる狼や熊と言った危険生物を誘引する危険性が増すことに加え、食害によって麦類などの戦略物資の減少つまり税収低下を意味する。

 現代でも獣害は地域によっては深刻な影響を与えている。
 東北や北海道では熊による獣害が多く、千葉では野生化した四目鹿《キョン》による食害など多数報告されている。
 累計被害額は億とも兆とも言われておりこの世界では致命的と言える。

 老従士が口火を切った。

「お館様こういった害獣の食害は過去にも起きています。先例に習うことこそ間違いがないのでは?」

 老従士の発言には何の間違いもない。
 老従士の発言に比較的若い従士達はざわざわと動揺する。
 
「しかしな……」
 
「先例に習うと言っても過去の記録はいつ頃なんだ?」
 
「えーっと100年ほど前ですね」
 
「でどのように対処したのだ?」
 
「山狩りです」

「他の貴族でも誘いいっそのこと興行にでもするか? 見込みだが新型農法は3~5倍収穫できるというし、外交や金に換えた方がいいのでは?」

「魅力的だが秘を守れるか……」

 結論は皆既に出ている。害獣の駆除それも人海戦術による山狩り以外ないのだと……。
 議論をし人事を尽くしたというポーズをしているのだ。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』というように、先例に習う意見はは間違っていないと思います」

 俺の言葉を父は肯定する。

「……俺もそう思う山狩りを行い害獣の駆除をする。山狩りだ」

「しかしどこから害獣共は来たのでしょう?」

「餌が尽きたのでしょうな」

 老従士は断言した。

「獣が移動するの理由は主に2つ餌の不足と外敵の襲撃です。麦と雑草を比べれば同じ量でも腹が膨れる麦を食べようと思うのは鹿も同じですよ。獣もグルメなんですよ」

「そんなことは分かってる。俺が気にしているのはなぜ餌が尽きたのかということだ」

「隣領では冬に火災が発生し、オマケに水が不足しているという。おおかたそう言った問題が原因なんじゃないか?」

 父の言葉を補足するように若い従士が口を挟んだ。

「お館様のおっしゃる通りかと……商人に聞きましたが隣領の村では家畜は全て潰し、子供を売り払い金に換えても飢えを凌げず山や森に入って山菜を食べていると……」

「獣を狩っていればこちらに被害がでなかったのだがな……」

 苦々しい表情を浮かべ父が呟く。

「獣は臆病ですから、人を恐れてこちら側まで逃げて来たのでしょう」

「山に入れば打ち漏らしても最悪どこかに押し付けられますね!」

「お前なあ……」

『あるじじゃあく』

「皆も考えてましたよね? 肉は魅力的だけど……面倒ごとを押し付けられるのならその方がいいって……ある種の食糧支援です」

「「「「「……」」」」」
 
 皆目や顔を逸らす。

「ものは言いようだな……まあ軍事演習は秘することが増えた我が領では必要になるか……痛い出費だが先行投資と考えることにしよう。皆戦支度を初めよ褒美は害獣の肉だ!」

 こうして軍事演習が決まった。

 一度決断されれば、動きが早いのがステップド家のいいところだ。
 調査を目的とし従士と猟師が山林に入り狩猟をすることになった。
 皆の装備は槍と剣鉈それに弓だ。
 剣鉈で枝を払い落し山林の奥に踏み入っていく。

「エルさまが作らせたアレ効果あるんですか?」

「今に分かるさ……いた! 猪だ」

 俺の言葉に反応し皆武器を構える。
 ほぼ全員が弓を番え射る。
 俺は膂力が足らないので投石器で石を投げた。
 見事命中し止めの一撃が猪を貫いた。

「エルさま水を出してください。肉は直ぐに冷まさないと不味くなる……」

「あ、ああ」

 言われた通りに水を出す肉を冷却しているようだ。

「血も抜こう……」

 ナイフを手に持つと鹿の頸を切る。
 頸動脈を切れば脳の血圧が下がり、一瞬で意識も無くなるが心臓は動き続けるので毛細血管まで血抜きできるのだが、そんな技術はないので血管に水を注ぎ血を洗い流す。

「すげえ! エルさまの魔法は便利だなぁ~」

 猟をしたものの特権ということで傷みやすいレバーと心臓は栄養価が高はその場で焼いて食べた。
 胃や腸には寄生虫がいる可能性が高く食べられるようにするためにも手間が多い。

「腸詰《ソーセージ》もうまいけどこの巨体を持って帰ることを考えると捨てるしかないか……」

 新鮮な肉はうまいのだと知ることができた。
 養豚をしよう俺はそう誓った。
 肉を食べていると痩せたい狼がそこにいた。
 
「っ!? 血の匂いで寄って来たのか?」

「エルさま!」

 今にも飛び出しそうな従士を手で静止すると、目を離さずゆっくりと後退りする。
 狼はよろよろとした足取りで捨てた内臓に近づくとこちらを一瞥し食らい始めた。

「内臓が欲しかったのか……」

「助かりましたね……」
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