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第二章

第68話 噂

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 離れを抜け出した俺は久しぶりに街に向かった。
 露天商や行商が商いを行う光景はこの街の豊かさを示しているのだが、露天商や行商の数は目に見えて少ない。

 街に活気がないのではなく商品がないと表現するべきだろう。
 品のある料理に飽き飽きしていたので、屋台で肉串を買うついでに訊き込みをすることにした。

「普段と様子が違うみたいだけど何かあったのか?」

「坊主しらないのか? 森にサラマンダーが出てそれにビビった行商が多くて内陸からモノが届かないんだ」

「なるほど……」

「まあ穀物や保存食なんかは船で輸送できるが、野菜の類は難しいからな今のうちに沢山食っとけ」

「ありがと、そうするよ」

 味の濃い肉串を頬張りながら考える。
 サラマンダー事件……つまり『呪怨瓶じゅおんへい』を設置した何者かを何とかしない限りこの事件は解決せず。
 このベネチアンの街は陸の孤島となる訳だ。

 例えば『呪怨瓶じゅおんへい』のようなモノが海中にあれば、陸と海の両面からベネチアンの街を封鎖し干上がらせることが出来ると言う訳だ。
 海中にある場合潜水して破壊・浄化するか瘴気が切れるまで耐え忍ぶしかない。
 他国の謀略かあるいは魔族か……どちらにしてもロクでもない計画だ。

 冒険者ギルドや傭兵ギルドのある不浄門近くで、すれ違う人々は物々しい雰囲気だった。
 殺気立っていると言うか何というか戦の気配を肌で感じているようだ。
 冒険者ギルドに入ればその雰囲気は変わらない。

 依頼を受けるていで受付の前に立つと男性職員に話しかける。

「ものものしい雰囲気ですね」

「ああサラマンダーに精鋭がやられてな。スタンピードだ籠城戦だってみんな殺気立ってるんだ」

 なるほど、それでピリピリしているのか。
 俺が確認出来た『呪怨瓶じゅおんへい』一つだけ。
 相手の目的は分からないが『呪怨瓶じゅおんへい』が一つだけと言うのは考えられない希望的な観測だ。

「なるほど……」

「ポーションの納品依頼がありますね数が足りないんですか?」

「ああ、もしもの時への備えって奴だ『備えあれば患いなし』と言うからな」

「でしたら是非納品させていただきましょう。ポーションです」

 俺は【アイテムボックス】からポーションを取り出した。

「こんなに? いいんですか?」

「ええ然る先日受けた昇格依頼の際に商人を助けまして……その縁あってポーションを譲り受けたんです」

 確認を負いずらい理由を付けてポーションを放出する。
 自分で販売してもいいのだが差し迫ってお金が必要ない今、時間を無駄にする方が面倒くさい。

「そうだったんですね。ではありがたく色をつけて購入させていただきます。商品を改めさせていただきます……こ、これは!? ――」

 受付の男性は驚いた様子だが声を堪えているようだ。

「いかがされましたか?」

「いえ、この品質でしたら二倍のお値段で購入させていただきます」

「ありがとうございます」

 これである程度ポーションを冒険者に行渡らせることが出来た。
 これでもし大規模な戦闘に発展しても、被害を最小限ですませることが出来る。
 
「これはオフレコでお願いしたいことなのですが……」

 職員は口元を手で覆い隠し小声で話し始めた。

「近々サラマンダーが出没したと言う森を、公爵・冒険者の協力で調査することになっています。回復役に神殿とあらたに聖人級回復魔術師になられた庶子のナオスさまが出陣されるとか……」

「そ、それは大規模ですね」

訊いてないんだけど! 

 しかしことの経緯は予想できる。
 大方あの場に居た人間から報告を受け舞い上がった次兄あたりが、自分の手柄にするために吹聴したのだろう。
 全く傍迷惑な話だ。

 噂話と言うあやふやな既成事実をつくることで、俺が出陣しなければ貴族の義務を果たしていないと民は思い。
 騎士や冒険者達は臆病風に吹かれ約束を違えた愚物と感じるだろう。

 あくまでも噂のため次兄も乳兄弟も責められない。
 次兄か乳兄弟か何れかは分からないが良い作戦だ。
 しかし一度上手く言ったからと言って二度目は通用しない奇策だ。
 そうまでして俺を参加させたい何かがあるのだろう。
 俺は気晴らしに依頼を適当に片付けると屋敷に戻った。
 
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