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第二章

第76話 人の名前が覚えれない

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「お持ちします」

 屋敷の敷地内を歩いていると、少し離れた所にいる人間から声をかけられた。 
 音の鳴る方へ視線を向ける。

 そこに居たのは、騎士とも兵士かも判らない年若い男性で、何やら親し気な笑みを浮かべているものの、俺は彼の顔に覚えがなかった。

誰だっけ?

「えっと……」

 基本的に貴族は使用人のことなんて家具程度にしか考えていない。だからどうだと言う訳ではない。俺は前世から人間を覚えるのが苦手なのだ。

 前世でクラスメイトの名前を間違えまくり怒られた経験から、初手相手の名前を呼ばず「よお!」や「久しぶりだ。えーっと……」なんて前置きをするようにしていた。
 
しかし……「ねえ佐藤くん。きみ私達の名前覚えてないでしょ?」と見破られオマケに「そんな浮気性の彼氏やホストみたいに彼女の名前を呼ばずに、全員を『きみ』とか『姫』とか呼ぶような、小手先のテクニックを使ってるんじゃないわよ」と怒られてしまった。

その事件以前にも「あのね佐藤くん、名前を覚えてないからって『加藤』とか『鈴木』とか、人口が多そうなのを上から順番に言うのやめようよ。デフォルトネームくん」と言われたことがある。

それ以降しばらくの間あだ名がデフォルトネームになった。

『佐藤一郎』ってそんなにデフォルトネーム感あるか? 『山田太郎』とか、『加藤幸太郎』の方がデフォルトネーム感あると思っていたのに……


 俺が言い淀んでいる姿から察してか男は自身の素性を語り始めた。

「覚えていらっしゃいませんよね。サラマンダーの時に治して頂いた患者の一人です。他の騎士や兵達も貴方には感謝してるんです」

「ああ……」

 最近視線を感じると思っていたのだ。
 仕事として遠征に随伴する関係でも妾腹の俺が、本邸周辺をうろちょろするのが気に入らないのと考えていたのが、どうやらそれは考え過ぎだったようだ。

「運んでいるのはポーションですよね? 最近は訓練の際にも飲むことが出来るので実践に近い訓練を安心して行えます」

 木箱に入ったポーションの瓶はカタカタと音を立てて、二人によって運ばれる。

「それは良かった。騎士も兵士も領民を守る矛であり盾だ日頃の訓練の質が良ければサラマンダーだって倒せるさ」

「……私は先祖代々コッロス公爵家の騎士ですが養子なので、ホンモノの騎士のようには出来ません。でも立派な騎士でありたいと思っています」

「知っているか? 魔王を倒した勇者は平民だったそうだ……」

「へ、平民ですか?」

 騎士は戸惑いと驚きが混じったような声を上げる。
 神殿や国々は救世の勇者は神の使いであるため、その産まれが異界の平民であることは隠していたと記憶している。
 まあ人の口には戸が立てられないため、公然の秘密と言う奴なのだが……。

「しかし彼らはその高い志と能力で実力を付け魔王を倒した。だからお前も出来るとは言わない。俺はこう思うんだ産まれよりも育ち、育ちよりも志が重要じゃないかって……偽物だって……平民の産まれだっていいじゃないか? だってお前は騎士道文学に出てくるような本物の騎士を目指してるんだろ? だったら高貴な産まれであるだけで、偉そうな態度取って居る奴よりもお前はより立派だと思う」

「お、俺頑張ります!」

 気を使っていた『私』と言う一人称も、本来の『俺』に戻って涙を流している。
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