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第8話映画

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 映画を観終えた俺達は、映画館ビルの階下のファミレスで談笑していた。

「面白かったですね!」

 推しのイケメンが出演しているせいか、サラの評価は高いようだ。
 プラスチック製の不透明なコップに入ったオレンジジュース片手に、『ムフゥ』と満足げな笑みを浮かべる。

「ああ、ドラマ版でも十分面白い内容だったが、まさかこう続きを作ってくるのか……という意味では面白かったな」

「確かに、少し強引な展開でしたよね……」

 サラは困ったような笑みを浮かべると、先に届いたサラダを頬張る。

「そういえば、地上波じゃないから良いんだけど、途中で何度か挿入されるサービスシーンって必要だったのか?」
 
「必要です! イケメンの裸体が嫌いな女なんていませんよ!」

「ああ、だから食い気味にスクリーン観てたのね……」

 俺の指摘にサラは茹蛸のように顔を赤らめる。

「~~~~んっ!」

――――と声にならない声を漏らす。

「そ、そう言うセンパイだってサービスシーン食い入る様に見てたじゃないですか! 白状すると、ああいうシーンでどういう反応をするのかな? って思って視てたんですけど……」

「ああ、なんか視線感じるなって思ったけど、そういうことか……」

 気まずくて視線を逸らしただけかと思っていたけど、別に異性愛者なら同性の裸を見てもそこまで気まずい思いはしないか……

「はい。何というかサービスシーンなんだから、男性は喜んで鼻の下伸ばしてるんだろうなーって思ってたら、鼻の下を伸ばした直後に『何の意味が?』って顔してて、正直面白かったです」

 サラが楽しんでくれたのなら、俺の恥程度なんて事はない。

「だって余りにも脈略がなかったから……ねぇ」

「まぁ言いたいことは、何となくわかります」

映画の感想で盛り上がっていると、注文した料理が届き始める
 
「と、ところで、例の”お食事会”はどうだったんですか?」

 今日初めて”そのこと”について触れて来たなと思いながら、アツアツのドリアに匙を入れる。
ホワイトとミート2つのソースに蕩けたチーズが複雑に絡まる。実に味わい深い。遠くにミラノの風を感じる、まさに至高の味だ。


「ああ、二人ともいい人だったよ。
 上手く折り合いを付けてやっていけそうだ。」

「それは良かったですね。で、どこで食事会やったんですか?」

「XXホテルの最上階だな」

「あのレストランですか……知り合いが行ったことあるって言ってたんですけど、あそこ結構なお値段みたいですね」

「ああ、後に気になってググったんだけど、コース料理が食べ放題焼肉の5回分だったよ! しかもあの量で?
親父むちゃしやがって感じだったよ。」

「でも美味しかったんでしょう?」

「まぁな」

「お相手の写真とかないんですか?」

「あるよ。ホラ」

 俺は写真を表示させ、スマホを差し出した。
そこに映っているのは、構図こそ基本的な家族写真。だがどこか違和感を感じるものだった。 

 前列は、華やかなワンピースを纏った美少女と学ラン姿の俺、後列にスーツを着た父とドレスを纏った義母といういかにもな組合わせで、髪型が古臭ければ昭和あたりの家族写真と言われも信じるかもしれない。

「うっわ! センパイこの人めっちゃ綺麗ですね!」

「確かにお前とは別系統で綺麗だよなぁ……」

 七瀬ななせサラをアイドル系と評価するなら、“ 鎌 倉 かまくら菜月なつき……もとい高須菜月たかすなつきは、女優や人形のような芸術的な美と言っていい。

「“綺麗”と“可愛い”は違うんです! 可愛いは作れるけど綺麗は作れないんですよ……」

 サラの言葉には確かな圧があった。
 俺はサラの圧に気圧されながら、理解してる訳でもないのに返事を返す。

「な、なるほど……」

「分かってないようなので説明すると、優しい男には成れるけどイケメンには成れないみたいなものです」

 完璧に理解できたわけではないものの、言っている言葉のニュアンスは何となくわかる。
 つまりは、「努力でなんとかできる範囲と何とかできないモノがある」と言いたいのだろう。

「何となくは理解できた」

「それで、この方は義理の姉になるんですか? 義理の妹になるんですか?」

「一応、義姉あねだ。一月違いの……」

「一月違いで義姉弟きょうだいって最近のラブコメ作品みたいですね。漫画でも小説でもそういう作品ありますよね~」

 思い出したように手をポンと叩くとこういった。

「あ、でも義理のきょうだいモノって大体は、兄妹が多い気がするんですけど……」

「一月の差で義姉あね義弟おとうともあるか、よ。彼女は……そう! 同級生とか、同じ寮の住人とか会ったことがない親戚とかそう感じの距離感になるよ。お互い」

 俺の言葉でサラはつまらなそうな表情を浮かべる。

「な~んだつまらない。同居するんでしたっけ?」

「あ、うん。する……はず……」

 サラの言葉に俺は動揺を隠せない。
そういえばいつ、どちらが、どこへ引っ越すのかも俺は知らされていない事に気付いたからだ。

あの”すちゃらか親父”いっぺんシメないといけないな!
そんな事を考えているとドンドン会話は進んでいった。

「そうしたら、水回りには特に気を配らないといけないですね」

「ん? またどうして水回り?」

「トイレの使用方法とか、お風呂の時間、日用品の保管場所とかそういう棚なんか準備しないとまずいんじゃないんですか?
女性のそういうアイテムの量を舐めてると大変なことになりますよ!」

うん! 帰ったら親父と お・は・な・し 決定だ!

「ありがとう。 言い難いこと言わせちゃったね。
元々トイレは座ってするルールだし(掃除の都合で)、風呂もトイレも洗濯も最大限気を付け、配慮するつもりだ」

「王道中の王道、ラッキースケベを自ら封印する……だと……」

何かのオマージュなのかニヤニヤしながらそんな科白を口にする。 さっきのサービスシーンの逆襲なのか?

「ちょ、創作物の世界とごっちゃにして、人を犯罪者にするのはヤメレ。そもそも狙ってするラッキースケベは単なる性犯罪だ。
第一これから『家族』となる人にそう言う欲望を向けたらダメでしょ……」

「でも恋と性欲は別だって言うじゃないですか」(ニヤッ)

「まぁその通りちゃその通りだけど、実際にそういう魅力を感じたとしても相手に悟られないように気を付けたり、そういう感情を抱かないように気を付けるべきだろ?」

「そうなんですけどね……まぁ美人な家族さんが出来て良かったですね」

「まぁ、話しやすい人で良かったとは思っているけど美人過ぎるのも考えものかな……」

「まぁそうですよね。だってセンパイはお義姉ねえさんと付き合うとアレですから……まぁ何かあったら遠慮なく相談してください。私センパイと違って偏差値結構高いので受験勉強も余力あるんですよね」

 確かにあれだけ遊び歩いていても、高い偏差値を維持できているから心配はしていない。

「もしもの時はお願いするよ」

「はーい、了解しましたぁ。
 次はショッピングにいきましょうよ」

(これだけ太っとい釘さしとけば、大丈夫かな?)

――とサラは思った。


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