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時価マイナス2000万
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割れんばかりの歓声と共にライブは始まった。赤と青の光の海が眼前に広がっている。無理言ってペンライトを作ってもらったのは正解だった、とアオイは目を細めた。最前列の一角、ジスランだけのために作った専用の席に彼がいるのを見て、アオイは満足そうに息を吐いた。
「さあ、盛り上がっていくよ!」
キャーッ! と黄色い悲鳴が上がる。アオイの作る舞台は今や社会現象になっていた。それはアオイがジスランの番だから、だけじゃない。アオイの作る舞台が多くの人の心を掴んだからだった。
当然だとは思ってない。アオイの知識や技術はあくまで元の世界で好まれていたものだ。常識から何から全て違うこの世界で、アオイの持つスキルが全て通用するわけじゃない。血の滲むような努力をして、好まれるように、受け入れてもらえるように持てる知識を再構築し、既存の技術と組み合わせて新しいものを作り上げたのだ。
アオイはより多くの人に、言うなれば大衆に好まれるように自分を作ってきた。この世界でもそれは変わらない。皆に好かれなきゃ意味がない。この世界でも、当たり前の存在になりたい。
そんなどこか強迫的な思考のもと、アオイは進み続けてきた。
アオイの舞台は既存の常識を大きくひっくり返した。大きな違いは客だ。これまで舞台は貴族や金持ちのものだった。王立劇場で講演される舞台はその最たる例である。しかし、アオイは客を選ばなかった。三日間ある公演のうち、初日は貴族や金持ちに、二日目は平民に、最終日は抽選にしたのだ。この抽選が優先的に当たるようになる、という触れ込みでファンクラブも作った。もちろん有料だ。当然ジスランは会員ナンバー1番である。
芸術分野において、アオイによって常識は大きく変わった。変化は人の心に多少なりとも漣を立てるものだ。だから、半年かけてゆっくり変えていったつもりだった。
事件が起こったのは最後の曲のことだ。
「今日はありがとう! このまま最後までいくよ――!」
観客を煽るように両手を上げた瞬間、ブツン、と不快な音が聞こえた。刹那、アオイの顔に緊張が走る。本来なら、すぐに曲が流れてくるはずだった。
(音が、止まった――?)
ザアッと血の気が引いていく。視界の端で、ノヴァが怪訝そうに眉を寄せたのが見えた。咄嗟に、まずい、と思った。
(どうするどうするどうする。曲が流れてこない、いや違う曲は生演奏だから流れてるはず。ならなんで聞こえない? 音響トラブル? クッソこの世界のマイク魔法使ってるっぽいからどうやって音大きくしてるか分かんないし魔法だから原因も分かんない!)
時間にして僅か3秒。しかし、観客が不審に思うには十分な時間だった。ざわざわと会場が揺れていく。
アオイは咄嗟にマイクを下すと、地声を張り上げた。
「さあみんな、2日目最後の曲だよ! 半年間ずっと歌ってきた曲だ、もう覚えたよね? だから一緒に歌って――!」
アオイの声に弾かれたようにノヴァが顔を上げる。素早く目配せをすると、ノヴァは小さく頷き、不適な笑みを浮かべた。
「オレ達に聞かせてよ、アンタ達の声も! ほらそこのオレのファンども! ちゃんと声上げな!」
ノヴァと組んで良かった、とアオイは思った。不測の事態でもアオイの意図を汲んで完璧に対応してみせるスキルは元の世界でもできる人は少ない。アオイも負けじと自分のファンを煽った。
「僕のファンの子もできるよね? そう最高!」
パッと花が咲くような笑みを浮かべると、歓声が上がる。最初は不審そうだった観客も、ノヴァのファンの歌声に釣られたのか、どんどん歌声が広がっていく。
こうして、この日の舞台は無事に終わった。
「ちょっとどう言うこと?!」
「さあ、盛り上がっていくよ!」
キャーッ! と黄色い悲鳴が上がる。アオイの作る舞台は今や社会現象になっていた。それはアオイがジスランの番だから、だけじゃない。アオイの作る舞台が多くの人の心を掴んだからだった。
当然だとは思ってない。アオイの知識や技術はあくまで元の世界で好まれていたものだ。常識から何から全て違うこの世界で、アオイの持つスキルが全て通用するわけじゃない。血の滲むような努力をして、好まれるように、受け入れてもらえるように持てる知識を再構築し、既存の技術と組み合わせて新しいものを作り上げたのだ。
アオイはより多くの人に、言うなれば大衆に好まれるように自分を作ってきた。この世界でもそれは変わらない。皆に好かれなきゃ意味がない。この世界でも、当たり前の存在になりたい。
そんなどこか強迫的な思考のもと、アオイは進み続けてきた。
アオイの舞台は既存の常識を大きくひっくり返した。大きな違いは客だ。これまで舞台は貴族や金持ちのものだった。王立劇場で講演される舞台はその最たる例である。しかし、アオイは客を選ばなかった。三日間ある公演のうち、初日は貴族や金持ちに、二日目は平民に、最終日は抽選にしたのだ。この抽選が優先的に当たるようになる、という触れ込みでファンクラブも作った。もちろん有料だ。当然ジスランは会員ナンバー1番である。
芸術分野において、アオイによって常識は大きく変わった。変化は人の心に多少なりとも漣を立てるものだ。だから、半年かけてゆっくり変えていったつもりだった。
事件が起こったのは最後の曲のことだ。
「今日はありがとう! このまま最後までいくよ――!」
観客を煽るように両手を上げた瞬間、ブツン、と不快な音が聞こえた。刹那、アオイの顔に緊張が走る。本来なら、すぐに曲が流れてくるはずだった。
(音が、止まった――?)
ザアッと血の気が引いていく。視界の端で、ノヴァが怪訝そうに眉を寄せたのが見えた。咄嗟に、まずい、と思った。
(どうするどうするどうする。曲が流れてこない、いや違う曲は生演奏だから流れてるはず。ならなんで聞こえない? 音響トラブル? クッソこの世界のマイク魔法使ってるっぽいからどうやって音大きくしてるか分かんないし魔法だから原因も分かんない!)
時間にして僅か3秒。しかし、観客が不審に思うには十分な時間だった。ざわざわと会場が揺れていく。
アオイは咄嗟にマイクを下すと、地声を張り上げた。
「さあみんな、2日目最後の曲だよ! 半年間ずっと歌ってきた曲だ、もう覚えたよね? だから一緒に歌って――!」
アオイの声に弾かれたようにノヴァが顔を上げる。素早く目配せをすると、ノヴァは小さく頷き、不適な笑みを浮かべた。
「オレ達に聞かせてよ、アンタ達の声も! ほらそこのオレのファンども! ちゃんと声上げな!」
ノヴァと組んで良かった、とアオイは思った。不測の事態でもアオイの意図を汲んで完璧に対応してみせるスキルは元の世界でもできる人は少ない。アオイも負けじと自分のファンを煽った。
「僕のファンの子もできるよね? そう最高!」
パッと花が咲くような笑みを浮かべると、歓声が上がる。最初は不審そうだった観客も、ノヴァのファンの歌声に釣られたのか、どんどん歌声が広がっていく。
こうして、この日の舞台は無事に終わった。
「ちょっとどう言うこと?!」
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