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第一章 初心者の躍動

第五十二話 三日目のログイン!

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 そして大我達と一緒に屋敷へと戻り昼食をとった渚は、その後に話してあった契約証にサインを終えて、今は家へと送ってもらう車の中だった。

「はぁ…まさかサボる事になるとは思わなかったな。しかも今思い出したけど、今日金曜じゃん…はぁ~~」

 屋敷を出るまでは礼儀のために何とか耐えていたが、送迎用の車に乗って敷地の外に出ると一気に落ち込みだしたのだ。更に明日から週末だった事も思い出してしまってようで、よけいに落ち込んでしまった。

「休んでしまったものは、もうどうしようもないんですし。いい加減諦めて、切り替えたらどうですか?」

 しかしこの車には渚だけが乗っている訳ではなく、運転手として白崎が乗っていた。
 それは大我と時雨からの気心の知れた同士の方が休まるだろうと考えてそうしたのだが、渚と二人きりになった白崎には遠慮と言う言葉は存在していなかった。
 何せ落ち込んでいる渚に対して、ウザいと思っているのを隠そうともせずに顔をしかめて小バカにしたように話すほどだった。

 だが、その白崎の反応に渚も慣れているためか特に気する事は無かった。

「それは分かってるんだけどね?こう…気分と言うか、そう言うところが割り切れんのです!」

「まぁ行っている事はわかりますけどね。後、口調が変ですよ?」

 渚と白崎はそんな風に軽口を言い合いながら大人しく車に乗っていた。
 そうしている間に渚の落ち込んでいたのも治ったようで、途中からは楽しそうに笑顔で話していた。
 結局は大我と時雨の読みの通り渚はリラックスして家へと帰ることができた。


 そして家の前に車が着くとすぐに渚は車から降りた。

「ふぅ…送ってもらって、ありがとうございました」

「いえいえ、道中の会話も楽しかったですし、旦那様方からちゃんと給料も払われますから!」

 丁寧に頭を下げてお礼を言う渚に対して、白崎は特に気にした様子も無くむしろ楽しそうに笑みを浮かべて明るく答えた。
 そんな白崎の反応に渚は少し驚いたように目を見開いていたが、すぐに似たように楽しそうに笑顔を浮かべた。

「ははは!そうですか。でも、とりあえずお礼は言わせてもらいます。礼儀ですしね!」

「それもそうですね…わかりました。ちゃんとお礼を受け取りました」

 白崎は渚の意見に納得したようで大きく頷いた。
 その反応を見て渚は満足そうに小さく笑みを浮かべていた。

 それから少しの間、穏やかに笑い合っていた渚と白崎の二人だったが、すぐに切り替えるとお互いに真剣な表情に戻して話し出す。

「それでは、これで私は失礼いたします」

「はい、本当に送ってもらいありがとうございました。また会いましょう!」

 渚が元気よく笑顔でそう言うと、それに白崎は笑顔で小さくお辞儀をして車を出した。
 その車が角を曲がるまで見送った渚はゆっくりと家へと入って行った。

 そしてようやく家へと帰って来た渚はとりあえずリビングに向かったが、学校を休んでしまい、更に特に家事などもやるほどの事は今のところなく完全に暇を持て余してしまっていた。

「あぁ…こんな時間に家にいるの久々だわ。と言うか、久々すぎて逆に暇だ……」

 渚は本気で暇そうにリビングのソファーに寝っ転がって、ぼーっと天井を眺めていた。
 それから30分程そうしていた渚だったが、何を思ったのか時計を見ると勢いよく起き上がった。

「やっば…もうこんな時間だったのかよ。とりあえず、晩御飯の準備をして…」

 その渚が眺めていた時計には2時21分と表示されていて、予想よりも時間が経っていたのかそれを見た渚は慌てたようにブツブツと独り言を言いながら考え始めた。
 それから少しして考えが纏まったのか渚は気合を入れるように小さく息を吐き出す。

「ふぅ…まずは、晩御飯の準備、自動掃除機の電源を入れて、その後は7時までのんびりとゲームだな‼」

 これからの行動を決めた渚の動きは早かった。すぐに調理場へと向かって晩御飯ようの米を炊いて、次に晩御飯に作る料理の下ごしらえをし。その次にはリビングや廊下など各部屋に設置されているロボット掃除機を起動させた。
 渚はそれらの作業を何と30分以内に全て終わらせたのだった。

 そしてやる事を終わらせてから渚の行動は更に早く、飲み物を持つとすぐに自分の部屋へと戻ってギアについている冷蔵庫に飲み物を入れて、部屋着へと着替えてギアへと座った。
 そこまでの行動を終わらせると小さく息を吐き出して、元気よくキーワードを言った。

「ふぅ…よし!準備完了‼それでは…『リンク・オン‼』」

 キーワードを言うと同時に渚の意識は途切れる。

 次にナギが見た場所はいつも通りの噴水広場だった。だが、ちょうど夜だったようで辺りは暗くなっていて、周りに住人はほとんど見かけず、見かける人間は全てプレーヤのみだった。
 しかし基本的に明るい時の町にしか来た事の無かったナギにとっては新鮮だったようで、少し驚いた後すぐに興味深く周囲を見回していた。

「おぉ~!夜はこんな感じなんだなっ‼」

 それからしばらくナギは興奮した様子で周囲を見回していたが、途中で何かに気が付いたのか急に動きを止めた。

「……もしかしなくても、こんな時間に修行に行くのはまずいよな…」

 最初ナギは鍛冶の修行に向かおうと考えていたようだったが、冷静になって夜空を見上げると考えるようにしてそう言った。
 それから少しの間考えていたナギだったが、ゆっくりと顔を下ろした。

「しかたないな。こんな時間じゃさすがに迷惑だろうし、とりあえずやる事もないしギルド行こう!」

 ナギは楽しそうにそう言うとウキウキした様子で跳ねるようにしてギルドへ向かって行った。

 そしてギルドに着いたナギはいいかげん慣れたようで、今回はすぐに中へと入った。
 すると中には夜だと言うのにかなりの人数が楽しそうに酒を飲んで騒いでいた。しかもそのほとんどが住人の冒険者だった。
 その冒険者達の姿を見てナギは一瞬驚いたようにしていたが、すぐに正気に戻るとあたりを一度見まわして確認した後、一番遠くで飲んでいる席へと近づいた。

「楽しんでいるところすみません。少しいいですか?」

「あぁん?」

 楽しく飲んでいたところに話しかけて来たナギに、冒険者達は全員が睨みつけるように見て来た。
 しかしその視線を受けてもナギは特に動揺した様子も無く、最初と同じようにニコニコと笑顔を浮かべたまま話し続ける。

「すみませんけど少しお話いいですか?」

「まぁ、聞くだけだったらかまわないぜ?ちゃんと答えるとは限らないけどな」

 丁寧に頼むナギの姿に話に答えていた冒険者は少しバカにするようにニヤリ!と、笑みを浮かべながらそう言った。
 だがそれに対してもナギは特に気にする事無く普通に話を続けた。

「それでは早速なんですが、夜に出て来る魔物で何か気を付けた方がいい事と、これだけは準備して行った方がいい物などの情報があれば教えてもらえませんか?」

 ナギが丁寧にしながらもはっきりとした口調で質問すると、それを聞いた冒険者達は先ほどまでのバカにした様子が一変した。
 冒険者達は先ほど以上に警戒した様子で椅子に座り直した。

「答えてやってもいいが、その前に一つ聞かせろ」

「はい、答えられる範囲だったら何でもどうぞ?」

「なら遠慮なく聞くが、どうして俺達の所に質問しに来た。態々一番遠いい俺達の所に…」

 冒険者はナギへと警戒した視線を向けながら試すようにそう言った。
 その質問にナギは少し不思議そうに首を傾げていたが、すぐに楽しそうに笑顔を浮かべて答える。

「それなら簡単ですよ。今ここに居る冒険者の中で、あなた達が一番強そうだったからです」

「ほぉ~?何故そう思った。ここには他にも強そうな奴はいくらでもいるだろ。あいつとかな」

 ナギの答えを聞いた冒険者は他の席で飲んでいる他の冒険者の男を指さした。
 そこにいた男は2mを超える身長、全身が盛り上がるほどの筋肉、更にその体を覆う鉄製の鎧と横に立てかけられている大剣。
 そのどれを見ても男が圧倒的強者に見えた。

 それとは反対にナギが話しかけた冒険者達は三人組で、男二人に女一人のパーティーだった。
 更にその装備は簡単は男二人は簡単な皮鎧にロングソードの戦士と短剣の盗賊、女の方はローブに小さい木で出来た杖が一本のみだった。その容姿もよく見かける平凡な物で、特にこれと言って強そうには全く見えなかった。

 そして戦士の男の言った鎧の男を確認したナギだったが、その上で特に気にした様子も無く笑みを浮かべていた。

「確かにあの人も外見だけは・・・・・強そうに見えます。でも、彼はダメです。動きに無駄が多いので」

「いや、動きって…あいつはあそこに座って酒飲んでるだけで、特に動いてなかったよな?」

 ナギの返答に戦士の男は少し困惑したように他の二人へと確認するようにそう言うと、盗賊と魔法使いの二人も同意するように小さく頷いた。
 その三人の反応にナギは楽しそうに笑顔を浮かべて話し出す。

「別に特別な動きではなく、私が見回した時の反応を見ただけです。私が見回した時、嫌そうに顔をしかめる人が半分、気が付かずに飲み続けるのが残り大半でした。あの鎧の人は気が付かなかった人です。でも、あなた達は一瞬こちらを警戒するように確認しながら料理を食べていただけ、私が入って来てからあなた達一度もお酒飲んでませんよ?」

「「「っ⁉」」」

 ナギがスラスラと理由を説明するとそれを聞いた三人は驚いたように目を見開いて固まった。他にも話しに興味を持って盗み聞きしていた他の冒険者達も、同じように固まってしまっていた。
 しかしナギは周囲の人たちが何に驚いているのか理解できないようで、不思議そうに首を傾げていた。

 だがすぐに正気に戻った戦士の男が急に笑い出した。

「あははははっ!そうかっそうか!確かに言われてみれば、お前が来てから酒を飲んでなかったな‼」

 急に笑い出した戦士の男にナギは驚いたようで少し目を見開いていた。
 だがすぐに正気に戻るとナギは小さく息を吐き出して気持ちを落ち着かせた。

「ふぅ…納得してもらえたようで良かったです。あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私、異邦人のナギです!よろしく‼」

「おぉ!そう言えばこっちもまだ名乗ってなかったな。俺はこのパーティーのリーダーで、ガラハットだよろしくな!」

 自己紹介し合うとナギとガラハットは握手を交わした。
 その時ガラハットの名前を聞いたナギが一瞬だけ、微妙な表情をしていたのだが誰も気が付く事は無かった。
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