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第二章 始まりの街防衛戦‼

第百十七話 試行錯誤・鉄のインゴット

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 ナギが鉄のインゴット製作に挑戦を始めて40分以上の時間が経った。
 その間にも温度を二回ほど変更したのだが、逆に温度を上げ過ぎて鉱石を一つドロドロに溶かしてダメにしてしまった。だがその後に調整して何とか加工できる温度に調整できるようになった。
 だが、それでもまだ一つたりとも鉄を使ったインゴットの製作に成功していなかった。

「ふぅ…なんとか形を変えられるようになった。うん、本当に変えられるだけ・・・・・・・なんだけどな…」

 自虐的な笑みを浮かべてそう言ったナギが横へと視線を移すと、そこには歪な形になった鉱石が合計5つも転がっていた。これは形を変えられるようになった物をナギが何とかインゴットに加工しようとして、失敗した物だった。
 最初は銅と一緒で軽く叩いたナギだが変化があまりにもなく、力を強めて叩いて今度は入れすぎてへこませてしまったのだ。その後にも何度か試したのだが途中までは上手くいったが、何故か最後には失敗してしまっていた。

 その結果にナギは腕を組んで真剣に原因について考えていた。

「…やっぱり、使っている鉱石の数に、鎚で打つ回数にも何かありそうだよな。後は温度を微調整してだけど、鉄の鉱石の数自体が少ないからな…」

 ナギは数度試した結果から打つ力と窯の温度。この二つに失敗の原因があると考えて調整しようと考えたのだが、鉄の鉱石がそもそも数自体が少なく無駄遣いできないのだ。
 だからナギは慎重に確実とは言えなくても自信の持てる解決方法を見つけようと考えていた。

「まずは打つ時の力は感覚的に分かってきた。でも炎の温度の調性にまだ甘いところがあるな。もっとこう…なんて言うんだろ?高温の中の低温って感じの、微妙な位置の温度なんだよな…」

 ナギが加工の工程で一番苦労していたのが窯の温度についてだった。このAOでは現実に近い法則も存在するが、やはりこの世界ならではの法則も存在していて、その象徴とも言うべき物が魔力になるだろう。
 そして今回の窯の温度にもかなり影響していた。なにせ魔導窯・・・と言う名前の通り、動力やメータなど細部まで含めて魔力が影響しているのだ。そのため繊細に操作するには魔力を上手く操る必要があるのだが、ナギはまだその事に気が付いておらず、先程も無意識に行っていたので感覚にずれが生じていた。

「感覚的にはもう少しだと思うんだけど、何がダメなんだろうか?まずは魔力を送って火を付けるだろ。次に、そこに触れながら魔力の調性をするんだが…たぶんここが肝心なところなんだよな。まずはこの感覚を掴んでからやらないと、何時までも鉱石を無駄に出来ないし…」

 1人で考えを漏らしながら、すでにゴミになってしまった失敗品を見てナギは真剣な表情を浮かべる。自分が未熟なために無駄にした素材を見て、いままで銅製品の製作に成功で緩んでいた気持ちを引き締めて窯へと向き直った。
 そこからは単純だった。窯の前に座り込んで炎を付け、そこに集中して魔力の操作を始めた。

 今までは良く考えず本当に感覚だけで調整していたが、これから先の製作では通用しないと思ったナギは何度も試して頭で覚え、それをさらに繰り返して体に覚えさせようと考えた。
 しかも今度は何も考えずにやるのではなく。しっかりと魔力の出力や流れなどを明確にイメージして、どう変化するのかもちゃんと考えて決めながら試し始める。

「このくらいの量で温度は590…次は…」


 感覚で送る魔力の量を判断して温度を確認。その後は送る魔力量を少し増やして変化のふり幅を確認する。その作業自体は地味だが必要な事だと割り切り、真剣に淡々と試した時の感覚を記憶して行く。
 ただ魔力を送るのは常時MPを消費すると言う事で、元々魔法系のステータスをそこまで強化していないナギは定期的にやすっみを挟む必要が生じてしまう。

「はぁ…はぁ…あれだな、今度からは魔法関係のステータスも強化しよう。魔法も使う事多いしな」

 MP切れ寸前まで続けた試し続けたナギは状態異常にはならなかったが、感じないはずの疲れのような感覚を感じて一度手を止めて、改めて今後のステータスの方向性を少し変更することを決めた。今後も細かい調整が必要になるのは間違いないのでそのためにもMPの増強に注意を無用と考えたのだ。

 そして休憩を挟みながら練習を続けること1時間弱。それだけの時間練習を続るとナギはコツを掴んだのか、途中からは軽く一度触れるだけで炎の調性を行えるようになっていた。

「うん、何となく感覚が理解できたぞ!これで鉄のインゴットも行けるはず‼」

 調整の感覚を掴んだナギは自信満々にそう言うと、早速とばかりに鉄の鉱石を取り出して窯の中へと放り込む。それと同時に炎の調性を始める。周りの気温と、炎の中の素材の様子を確認しながら最適な温度へと調整する。
 本来は別にそこまで細かく調整しなくてもいいのだが、ナギは異様なまでのこだわりを発揮して細々とした調整まで始めてしまっていたのだ。実を言うと鉄の加工が出来る程度の調性は30分程で出来ていたが、それだけでは満足できなかったナギが更に繊細な調整に挑んだ、結果が1時間も練習する事になった原因だったりする。

 今回の作業は普通なら1時間でどうこう出来る話ではない。しかしナギにとっては1時間で十分に足りる時間だった。証拠としてナギが操作すると一瞬で炎の様子が変化し、温度も急激に安定する。
 その様子を確認したナギは満足そうに頷くと、すぐに真剣な表情へと戻って窯の中の鉱石を注視した。

 炎の中の鉱石はじわじわと赤く染まり始め。それを確認したナギは専用の道具を使って取り出す。

「ふっ!」カン!カンッ‼カン!カンッ‼

 取り出した鉱石をしっかりと抑えながら一息に何度も鎚を打ち付ける。先ほどまでは例の意味もあって、気になるたびに少し躊躇してしまっていたのだ。
 それで失敗してしまったからこそ、今度は全力で息継ぎなしに一気に打ち付けて行ったのだ。
 しかし一息で完成できるはずもなく、数度打ち付けるとまた窯の中へと戻す。

 そして赤く染まれば取り出し打ち付ける。後は本当にただ同じ作業を繰り返しているように見えるが、その都度温度が変化しないように調整、上手く熱が通れば次は叩く場所や力加減を微調整しながら続ける。
 使う集中力は並大抵ではなく。鎚を振るうナギの表情は険しい物へと変わっていく。

 それから約50分もの間にわたって鎚を振るい続けたナギが手を止めた。

「ダメだな…」

 疲れを浮かべながらそう漏らしたナギの目の前には一応インゴットの形になった物体があった。それは先ほどまで打っていた鉱石の成れの果てで、見ただけで失敗しているのが理解させられた。
 だからナギは手を止めて項垂れていたのだ。

「ふぅ…さてっと、これで加工自体はできることが確定した。なら次は鉱石の数を増やしてみようか…」

 しかしナギは別に落ち込んでいたわけではなくて、単純に精神的な疲労を回復させながら次に試す事を一つずつ想像していた。今回の事で失敗こそしたが窯の温度自体は間違っていない事を確信できた。
 ならば次はそれ以外の失敗の要因を考える必要がある。

「まずは打つ時の力は問題ないように見えるけど、そこも少し気にかけて見た方がいいな。他にも打つ場所の判断も、より注意して確認してみるか!」

 ナギはこれから試す事を想像してかニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべていた。普通のプレイヤーならばここまで大変になってくると嫌気がさしてくるものだ。なにせ普通はゲームを楽しむために来ているのにこんな細かい本格的な作業したくないだろう。
 だがその地味な作業もナギにとっては新しい可能性が出てくると言う事に興味が絶えず。ただただ楽しく手しかったなかったのだ。

「さぁ~!今浮かんだことを試すとしますかね‼」

 そして十分に休んだナギは元気よくそう言うと立ち上がって、残り19個ほどの鉄の鉱石から2個取り出して窯へと入れる。同時にナギの雰囲気はガラリと変わって何処までも真剣に観察する。
 今まで通りに赤く染まると2つ共に取り出して混ざるように満遍なく鎚を振るった。すると徐々に2つの鉱石は不純物が取り除かれ、混ざり合うように一つに纏まっていく。

 だからと言ってもちろん手を緩める事はなく。逆に気を引き締めて窯へと戻して熱を加える。
 その後も決して油断することなく黙々と鎚を振り続けた。
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