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第四章 鍛冶師の国
第二百十八話 製作本番《前編》
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そして試作で鉄を使用しての短剣と指環の二つを作ったナギは、残りの試作に使える期間で合計して短剣22本・指環48個を作り上げた。
正直なところ途中から確認はしていないが鍛冶スキル自体のレベルがかなり上がったようで、作業の効率が上がり速度だけで考えればもう少し大量に作れた。だがナギは早く大量に作る事よりも密度の高い練習を優先した。
だからこそ試作期間中に作った物の性能はばらつきが多く、中にはナギが説明を受けて作りたくないと言ったゴミに分類される物まで作っていた。
さすがのナギもこの時は本気で落ち込んだりもしたが立ち直って作業を再開していた。
そんあ事もあった試作期間を超えて最後の課題への提出する物を作る本番と定めた日、いつものようにゴド爺さんの窯の前に座ったナギとソルテは普段以上に真剣な表情を浮かべていた。
「今日は本番になる訳だけど…覚悟はいいな?」
『はい、もちろんですよ!』
最終確認をしたナギに一切の躊躇なくソルテは覚悟の決まった表情で大きく頷いて見せた。
その答えを見て満足そうに頷いたナギは改めて今回の作業についての話をする。
「まず簡単に流れだけ確認しておこう」
『そうですね。最後の最後で失敗したら最悪ですし…』
「本当にな。とりあえず今回はウルフの爪は短剣は加工せずに使用して、指環では粉末状にして使用する。他の窯に関しては何度も試して感覚は掴んだし出来ると思う」
『自信があるなら文句はないですよ』
最後に言ったナギの窯に関する話にソルテはよく分からない試みだけに、否定するだけの根拠も無いので不安に思いながらも遠慮がちに頷いた。
その反応を見ればナギも納得しきれていないのは理解できたが、自分でも完全に初めての挑戦なだけに安心させられるような根拠がある訳でもなかった。でも面白そうな事を思いついたからには試さずにはいられないがゆえに実行するのだ。
「なら一度本気でやって見せるから。それで続けるか判断してくれればいいさ」
『そう言う事なら納得です』
だからナギは説得ではなく結果で証明する事にしてソルテも提案を受け入れて頷いて答えた。
この他にも2人は使う素材を厳選したりと言う最後の準備段階を済ませて、改めて覚悟を決めた表情で窯の前に立った。
「さてっと、これだけ準備をすれば万全と言えるだろ」
『やり過ぎなくらいですし大丈夫だと思いますよ』
「なら安心だな。それじゃ始めようか」
ただでさえ普段以上に真剣な空気のあった作業場はナギがそう言った瞬間、その場の空気はより重く緊張感のあるものに支配された。
そこには先ほどまで会った小さな空気のゆるみすらなくナギは窯に火を入れた。
同時に温度を一定にすると以前もやっていた魔力操作のスキルで炎を操作し、周囲に散っていた炎を半球状に窯の中心に維持してみせた。
その形状が安定すると炎の真ん中へと使用するインゴットをそっと入れた。
炎は何かを入れられようと形を変えることはなく、メーターに表示された温度よりも高い熱を持っているようですぐにインゴットは赤く染まった。
変化を確認すると瞬時に取り出して鎚を振るった。
練習の期間に嫌になるほど繰り返したこの工程にナギはもちろん、サポートに徹しているソルテも本当の意味で慣れてきていて楽にこなしていった。
その作業速度は最初のころに比べれば圧倒的で30分もしないで第一の工程を終えた。
だが本番はこれからの工程にこそあった。
「よし、次はウルフの爪を加えるぞ」
『はい』
ひと段落したからこそ気が緩まないよう態々これからやる事を口に出して確認した。
これで改めて集中力を切らせる事なく気を引き締めたナギは熱した鉄に用意して置いたウルフの爪を丁寧に加えていった。
それを先ほどまでと同じように鎚で打った。
なにより今回は魔鎚『ヘクエイト』を使用している。
最初の鉄の鍛造工程では通常の鎚を使用したのだが、これからやるのは短剣としての仕上げの前段階なので魔鎚を取り出したのだ。
その効果を万全に使うためにナギは窯に入れている間は炎の操作に集中して、取り出して鎚を振るう時は魔鎚へと魔力を流して火の属性を付与した。普通の人間なら住人やプレイヤーなど関係なく神経を文字通りにすり減らすような内容で、ナギも複数の事を同時にやる事に慣れているからこそできているだけだった。
しかし魔力を微弱とは言え流し続けると言う事はとうぜん流した分は消費するわけで、何度も繰り返していればナギのMPは半分をすぐに切った。
それでもナギは十分に短剣製作の間はギリギリ問題ないと判断した。
合わせてソルテも常に補助魔法を使用しているのでMPの消耗は激しいのだが、妖精と言う種族の特性として魔力に極振りのステータスなので問題になっていない。
そんな小さな問題も抱えながらナギとソルテは鍛冶を続けた。
次第に打っている鉄は熱を失っても薄っすらと赤く色を持ち始め、その変化を確認しながらナギは手を止めずに鎚を振るい続ける。
この変化の原因に魔力を常に操作するようになって理解できるようになったのだ。
つまり『強い魔力を纏った物に接触し続けた物は、その魔力を吸収する』と言う事だった。
さらに吸収した魔力に属性があればその属性を付与された状態になるのだ。これは最初は仮説であってナギは窯の炎を集中させることで実験していたのだ。
発想の元は今も使っている魔鎚の効果だったが、結果的には半分成功と言った程度までだった。
だから本番の今は実験は諦めて魔鎚との併用することにしていた。
そんな事もありながらしばらく続けると魔力とウルフの爪が完全に馴染んで、なんとなく感覚的に理解したナギはなじませる工程から成型まで一気に移った。
「ふっ‼」
全力で息を吐き出しながら鎚で打って短剣の形へと整える。
普通の状態の金属でこんな乱暴に打つと耐久度が減ったりしてしまうがウルフの爪を使用し、更には魔力を馴染ませたことで通常よりも硬度を増している今の鉄は問題なかった。
むしろ全力でやらないと変化させることは現在のナギのステータスでは厳しいのだ。
ただ毎回かならず全力で打っていたら体に問題はないと言っても限界は感じるようになる。
それだけに大まかな形になるまでは全力で振るって、なんとなくの形が出来れば小さな歪みを直す時は全力ではない力で整えた。
最終的に成型を始めて1時間程経ってようやく終わった。
特に変わった形をしている訳ではないが通常よりも硬い鉄をその形にまでもっていくことが何よりも大変だった。
そしてここからは最終工程の研ぎが待っている。
とは言え硬く成る事が分かっていたナギは前日にゴド爺さんから紹介してもらって、なんとか硬い素材向けの中級の砥石を手に入れていた。所持金がかなり一気に減ってしまったが、おかげで今回は苦労せずに研ぐことが出来ていた。
新しい砥石を使用するのは今日がナギも初めてで一度軽く研いだ瞬間、今までとは違う感覚に驚いていた。
もっとも本当に驚いたのは一瞬ですぐに真剣な表情で慎重に研いで刃作りを済ませた。
それも終われば汚れを落として水分を取ってしまえば完成だ。
「あぁ~~」
『疲れました』
完成すると同時にナギとソルテの2人は気が抜けたのか横になった。それからじばらく2人は動く気力がないのか10分ほど休むことにした。
そんな2人の横には内包した火の魔力の影響で薄っすら火花を散らす、綺麗な赤い短剣が一本置かれていた。
正直なところ途中から確認はしていないが鍛冶スキル自体のレベルがかなり上がったようで、作業の効率が上がり速度だけで考えればもう少し大量に作れた。だがナギは早く大量に作る事よりも密度の高い練習を優先した。
だからこそ試作期間中に作った物の性能はばらつきが多く、中にはナギが説明を受けて作りたくないと言ったゴミに分類される物まで作っていた。
さすがのナギもこの時は本気で落ち込んだりもしたが立ち直って作業を再開していた。
そんあ事もあった試作期間を超えて最後の課題への提出する物を作る本番と定めた日、いつものようにゴド爺さんの窯の前に座ったナギとソルテは普段以上に真剣な表情を浮かべていた。
「今日は本番になる訳だけど…覚悟はいいな?」
『はい、もちろんですよ!』
最終確認をしたナギに一切の躊躇なくソルテは覚悟の決まった表情で大きく頷いて見せた。
その答えを見て満足そうに頷いたナギは改めて今回の作業についての話をする。
「まず簡単に流れだけ確認しておこう」
『そうですね。最後の最後で失敗したら最悪ですし…』
「本当にな。とりあえず今回はウルフの爪は短剣は加工せずに使用して、指環では粉末状にして使用する。他の窯に関しては何度も試して感覚は掴んだし出来ると思う」
『自信があるなら文句はないですよ』
最後に言ったナギの窯に関する話にソルテはよく分からない試みだけに、否定するだけの根拠も無いので不安に思いながらも遠慮がちに頷いた。
その反応を見ればナギも納得しきれていないのは理解できたが、自分でも完全に初めての挑戦なだけに安心させられるような根拠がある訳でもなかった。でも面白そうな事を思いついたからには試さずにはいられないがゆえに実行するのだ。
「なら一度本気でやって見せるから。それで続けるか判断してくれればいいさ」
『そう言う事なら納得です』
だからナギは説得ではなく結果で証明する事にしてソルテも提案を受け入れて頷いて答えた。
この他にも2人は使う素材を厳選したりと言う最後の準備段階を済ませて、改めて覚悟を決めた表情で窯の前に立った。
「さてっと、これだけ準備をすれば万全と言えるだろ」
『やり過ぎなくらいですし大丈夫だと思いますよ』
「なら安心だな。それじゃ始めようか」
ただでさえ普段以上に真剣な空気のあった作業場はナギがそう言った瞬間、その場の空気はより重く緊張感のあるものに支配された。
そこには先ほどまで会った小さな空気のゆるみすらなくナギは窯に火を入れた。
同時に温度を一定にすると以前もやっていた魔力操作のスキルで炎を操作し、周囲に散っていた炎を半球状に窯の中心に維持してみせた。
その形状が安定すると炎の真ん中へと使用するインゴットをそっと入れた。
炎は何かを入れられようと形を変えることはなく、メーターに表示された温度よりも高い熱を持っているようですぐにインゴットは赤く染まった。
変化を確認すると瞬時に取り出して鎚を振るった。
練習の期間に嫌になるほど繰り返したこの工程にナギはもちろん、サポートに徹しているソルテも本当の意味で慣れてきていて楽にこなしていった。
その作業速度は最初のころに比べれば圧倒的で30分もしないで第一の工程を終えた。
だが本番はこれからの工程にこそあった。
「よし、次はウルフの爪を加えるぞ」
『はい』
ひと段落したからこそ気が緩まないよう態々これからやる事を口に出して確認した。
これで改めて集中力を切らせる事なく気を引き締めたナギは熱した鉄に用意して置いたウルフの爪を丁寧に加えていった。
それを先ほどまでと同じように鎚で打った。
なにより今回は魔鎚『ヘクエイト』を使用している。
最初の鉄の鍛造工程では通常の鎚を使用したのだが、これからやるのは短剣としての仕上げの前段階なので魔鎚を取り出したのだ。
その効果を万全に使うためにナギは窯に入れている間は炎の操作に集中して、取り出して鎚を振るう時は魔鎚へと魔力を流して火の属性を付与した。普通の人間なら住人やプレイヤーなど関係なく神経を文字通りにすり減らすような内容で、ナギも複数の事を同時にやる事に慣れているからこそできているだけだった。
しかし魔力を微弱とは言え流し続けると言う事はとうぜん流した分は消費するわけで、何度も繰り返していればナギのMPは半分をすぐに切った。
それでもナギは十分に短剣製作の間はギリギリ問題ないと判断した。
合わせてソルテも常に補助魔法を使用しているのでMPの消耗は激しいのだが、妖精と言う種族の特性として魔力に極振りのステータスなので問題になっていない。
そんな小さな問題も抱えながらナギとソルテは鍛冶を続けた。
次第に打っている鉄は熱を失っても薄っすらと赤く色を持ち始め、その変化を確認しながらナギは手を止めずに鎚を振るい続ける。
この変化の原因に魔力を常に操作するようになって理解できるようになったのだ。
つまり『強い魔力を纏った物に接触し続けた物は、その魔力を吸収する』と言う事だった。
さらに吸収した魔力に属性があればその属性を付与された状態になるのだ。これは最初は仮説であってナギは窯の炎を集中させることで実験していたのだ。
発想の元は今も使っている魔鎚の効果だったが、結果的には半分成功と言った程度までだった。
だから本番の今は実験は諦めて魔鎚との併用することにしていた。
そんな事もありながらしばらく続けると魔力とウルフの爪が完全に馴染んで、なんとなく感覚的に理解したナギはなじませる工程から成型まで一気に移った。
「ふっ‼」
全力で息を吐き出しながら鎚で打って短剣の形へと整える。
普通の状態の金属でこんな乱暴に打つと耐久度が減ったりしてしまうがウルフの爪を使用し、更には魔力を馴染ませたことで通常よりも硬度を増している今の鉄は問題なかった。
むしろ全力でやらないと変化させることは現在のナギのステータスでは厳しいのだ。
ただ毎回かならず全力で打っていたら体に問題はないと言っても限界は感じるようになる。
それだけに大まかな形になるまでは全力で振るって、なんとなくの形が出来れば小さな歪みを直す時は全力ではない力で整えた。
最終的に成型を始めて1時間程経ってようやく終わった。
特に変わった形をしている訳ではないが通常よりも硬い鉄をその形にまでもっていくことが何よりも大変だった。
そしてここからは最終工程の研ぎが待っている。
とは言え硬く成る事が分かっていたナギは前日にゴド爺さんから紹介してもらって、なんとか硬い素材向けの中級の砥石を手に入れていた。所持金がかなり一気に減ってしまったが、おかげで今回は苦労せずに研ぐことが出来ていた。
新しい砥石を使用するのは今日がナギも初めてで一度軽く研いだ瞬間、今までとは違う感覚に驚いていた。
もっとも本当に驚いたのは一瞬ですぐに真剣な表情で慎重に研いで刃作りを済ませた。
それも終われば汚れを落として水分を取ってしまえば完成だ。
「あぁ~~」
『疲れました』
完成すると同時にナギとソルテの2人は気が抜けたのか横になった。それからじばらく2人は動く気力がないのか10分ほど休むことにした。
そんな2人の横には内包した火の魔力の影響で薄っすら火花を散らす、綺麗な赤い短剣が一本置かれていた。
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