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第五章 決闘イベント

第二百三十八話 新たなイベントの知らせ

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 そして新たな国やレシピなどでせわしなく動いていた渚もどうしようもない現実の問題によって数日もの間AOを自粛していた。正式サービス開始から数か月がたてば季節が巡るわけで学生にとっては避けようもない定例イベント…期末テストである。

 別に渚は頭は悪くないのだが興味ないことが無意識に記憶から消えることが多々あるため、期末テストの2週間前から念のために勉強に集中する期間を設けるようにしていた。
 なのでAOにはログインできない日々が続いていたわけだが、それも今日までだった。

「ふぅ…無事終了っと」

 テストも終わって渚はほかの生徒達が帰ったり部活に向かう中、教室に残って少し休憩していた。
 ただ教室には他にも1人だけ人の姿があった。

「………」

 そのもう1人は渚の幼馴染で親友ともいえる間柄の園崎 竜悟だった。
 今日の竜悟はいつものような少しうざいハイテンションはなりを潜めて燃え尽きたように動きすらしなかった。
 しばらくは黙って様子を見ていた渚だったがいい加減に面倒くさくなってきたのか呆れたように口を開いた。

「…いい加減元気出せよ。というか…毎回毎回テストのたびに落ち込んでるんだし、いい加減にこりてまじめに勉強したらどうだ竜悟」

 恒例行事となっているテスト後の竜悟の反応に渚は直すように注意した。
 もっとも注意されることも含めていつものことなので竜悟も気にした様子はなく、顔を上げるとむしろ泣きつくように話し出した。

「そうは言うけどさぁ~~問題の段階で意味不明なんだぞ?」

「勉強しろ」

「答えを聞いても理解できないんだぜ?」

「勉強しろ」

「もう、どうしようもないだろ。むしろ諦めて俺みたいにできない奴はテストを免除に「勉・強・し・ろ」…はい」

 言い訳を重ねた竜悟だったが表情を一切変えることなく同じ言葉を繰り返す渚の圧に負け小さく頷いた。何度も経験しているからこそこうなった渚は譲らないことを理解していたのだ。
 それでも勉強するのは嫌なようで憂鬱そうにため息を漏らした。

「はぁ…でもイベントが近いから補習とかになると困るんだよ…」

「イベント?というか補習になるほど悪かったのか」

「いや、たぶん赤点は回避している。でも万が一を考えると不安で…」

「…最初からギリギリじゃない点数を取るように努力すれば解決する問題だな」

「ぐふっ…」

 不安に思っていたことを渚に容赦なく切り捨てられて竜悟は苦しそうに胸を押さえた。
 そんな過剰なまでの反応に渚は白けた目を向けて話を別の気になっていたことへ切り替えることにした。

「言っても無駄だろうからもういいか。それよりもイベントって何の話だ?」

「え、ほら3日前にAOで放送してたやつだよ」

「テスト前にゲームするわけないだろ」

「あ…」

 聞かれたことに答えただけだが竜悟はテスト期間にもゲームをプレイしていたことを自白してしまったことに気が付き、気まずそうに視線をそらしながら誤魔化すように説明を再開するのだった。

「ちょうど3日前の日に朝昼晩と三回。予定なんかでログインできていない人なんかのためとかで放送されたんだよ。内容としてはプレイヤーのレベルも上がってそれぞれの国へとも散らばったので【第一回プレイヤー決闘大会】っていうのを開催するらしい」

「へぇ~つまりはプレイヤー同士での戦闘で順位付けをするってことか…なるほど」

「えっと…詳しいルールとしては『アイテムは戦闘中は回復系を合計10個まで使用可能』『勝敗はどちらかのHPが0になるか、相手が降伏で決定』『テイマーや召喚士などの魔物などを仲間とする職業はパーティー部門での参加とする』とかだな。細かいルールは確認してないプレイヤーがログインした時に表示されるから自分で確認してみてくれ」

「了解。でも、そうか…プレイヤーと戦えるのか~」

「っ」

 ある程度説明を聞いた渚は次のイベントの内容『ほかのプレイヤーとの戦い』と言うことに心躍っていた。
 ただ浮かべている表情が問題で、笑っているのだがなにか闘争心のようなものがにじみ出ている戦闘狂のそれだった。そんな表情を間近で見てしまった竜悟は伝えるの早まったかな?と不安になったが、すでに手遅れなので黙って渚が戻るのを待った。
 そして笑みを浮かべながら何かを考えていた渚は少し経つと小さく頷いた。

「…よし、イベントの正確な開催日時ってわかるか?」

「え、確か学生とか社会人も参加しやすいように夏休み中の7月28・29日って2日かけて予選と本戦を分けてやるらしい。時間は予選が朝昼晩と三回に分けて行い、本戦は29日の夜にAOの時間を短時間加速率を上げて6倍にして行うらしい」

「ほとんど『らしい』で確証に欠けるけど、余裕を持っても3週間程度ってことだな…」

 竜悟の説明の仕方に少し不安そうだったが渚は開催期間から考えられる準備期間を考えていた。
 考えている渚の姿を見て本気で決闘イベントに渚が出ようとしていると今更ながらに理解した竜悟は盛大に表情をひきつらせた。
 なにせ現実での渚は竜悟の祖父に武芸を習っていて、修行のつらさに挫折している竜悟はその渚の異常なまでに高まっている戦闘技術をよく理解していた。しかもゴブリンたちとの戦いの段階でかなり人間離れした動きをしているのを目撃していて、あれからかなりの時間が経過しているので今はどれだけの事ができるようになっているのか道井数だ。

「えっと、渚は非戦闘職だけど参加するのか?」

「え?生産職は参加できないとかルールあるの?」

「いや、ないけどな。ほかの純粋な戦闘職と比べるとやっぱり補正がないから分不利だろ」

「別に不便に感じたことはないけれど?」

「武器とかは現実の感覚で行けるかもしれないけど魔法とか…」

「別に感覚さえ理解できれば問題ないし困ったことはないな。むしろ素材集めの時は足止めるの面倒だからな、たいていは魔法で倒して進んでいるくらいだ!」

 万が一にも参加を考え直してくれないかと望みをかけて竜悟はいろいろと言葉を並べたが、何を言っても、越智前のポテンシャルの高さでカバーしている渚には効果はなかった。
 むしろサポートなどなくても問題ない!と自信満々に胸を張って答えられてしまった。

 こうなってしまえば竜悟もほかに方法が思い浮かばず項垂れて諦めた。ちなみに竜悟が参加を考え直してほしかった理由は単純に『もし予選で当たれば、確実に自分が負ける』と確信していて、少しでも優勝できる確率を上げたかっただけだった。

「それじゃ俺は今日から急いでイベントに向けて準備するから帰るわ」

「おう、なら俺もそうしようかな~」

「お前はその前に今日のテストの反省して、範囲だったところの勉強をし直したりすることあるだろ。こういうことを怠るから成績よくならないんだぞ」

「あぁ~~~~!聞こえないっ‼」

 最後に渚から改めて勉強に関してくぎを刺された竜悟は両手で耳をふさいで逃げるように走って帰っていった。
 そんな竜悟を見送って渚も自分の荷物を持って買い物などをしながら家へと変えるのだった。

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