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第五章 決闘イベント

第二百五十九話 優勝者のいない打ち上げ!

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 そしてナギがログアウトした後もドラゴ達やツバキなど、他の参加者達はイベントの打ち上げもかねてトーナメントの上位者数人を招待して店舗を借り切って打ち上げをしていた。

「それでは上位入賞もできなかった俺が音頭を取るのは申し訳ない気もするが……決闘イベントお疲れさまでした!全力で楽しもう‼カンパーイッ」

「「「「カンパーイ‼」」」」

 大会ではたいした活躍もできなかったドラゴだったが他のプレイヤーからの信頼は一番強かったこともあって、打ち上げの音頭をすることになったのだ。
 それに合わせて集まっていたプレイヤー達も乾杯して打ち上げは始まった。

 最初こそほぼ初対面の相手しかいない状況に緊張していた様子だったが、戦ったこともある相手にいつまでも気なんて使えるはずもなく次第に打ち解けていた。

「にしても、やっぱりナギが優勝したな」

「そうですね。戦い方は予想外でしたけど…」

「あれはさすがになぁ…予想のしようがないだろ」

 会場の端の方で他の人達の邪魔にならないように今回のイベントで一番衝撃的だったことをドラゴと焔は話していた。
 2人としても優勝はナギだろうな…とは薄っすらと予想できていたので問題はなかったが、さすがに戦い方の事は予想外だった。なにせ武器が無尽蔵に思えるほど収納されている棺を使用した多彩な武器を用いた戦法など誰も予想などできなかった。

 それだけに2人は疲れたような表情を浮かべていた。

「はぁ…あの棺については後で問いただす必要があるな」

「運営からも、もう少しは詳しく説明されるでしょうけど本人から聞いておきたいですよね」

「あぁ絶対に面白そうだから隠していたのか…まぁ十中八九、普通に忘れていただけなんだろうけどな」

「はははは!確かにそうですね‼」

 ナギに関しては無駄に悩むだけ無駄だと知っているだけに深く悩むことはせず、最終的には笑い話としてドラゴと焔は楽しく笑い合うのだった。
 こうして空気の緩くなった2人に話すタイミングを見計らっていた数人が近寄ってきた。

「話は終わったようですが、挨拶させてもらってもいいですか?」

「え、はい!気を遣わせたようでこっちこそ悪いな」

「いえ、勝手に待っていただけなのでお気になさらず。私はツバキと言います」

「俺はドラゴだ」

「僕は焔です」

 話しかけてきたのはナギとも激戦をしていた女侍のツバキだった。
 そのことに気が付いた2人は少し驚いたように目を見開いていたがすぐに切り替えて自己紹介した。

「御二方はナギという方とお知り合いなのですよね?」

「そうだな知り合いだ。先に言っておくと、さすがに個人情報とかは教えないからな」

「ははは!そんなこと聞きませんよ。準決勝で再戦の約束をしたのですが、フレンド登録をし忘れていたので伝言を頼みたかったんです」

「あぁ~そういう事だったら了解だ。なんて伝えればいい?」

「では『現実で一週間後の夜11時に始まりの街の噴水』とだけ」

「わかった。ちゃんと伝えておく」

「ありがとうございます。それでは私はこれで…」

「打ち上げには参加していかないのか?」

「賑やかなのは嫌いではないのですが、苦手で…」

「そういう事なら仕方ないか」

「申し訳ない。それでは失礼させてもらう」

 そういうとツバキは他の人の迷惑にならないように静かに店を出て行った。
 一応出ていくまで見送っていたドラゴと焔だったが自然な動作で店を出たツバキの動きに親近感を覚えていた。

「なんとなく戦っている様子から思ってましたけど、やっぱりツバキさんは先輩にどこか似ていますね」

「本当にな。ナギが気に入るわけだよ…」

「先輩は強い人好きですからね~」

「その強いの基準が以上に異常なんだけどな」

「ははは…『全力で戦っても数分持つ相手』ですからね」

 この場にいないはずなのにナギの事を思い出すだけでも疲れた気分になったドラゴと焔は呆れたように笑みを浮かべ、先にドラゴの方が疲れたように溜息を吐いた。

「はぁ…今は考えるのやめておこう…疲れる」

「確かにそうですね。僕も戦った人に挨拶したいですし」

「おう、行ってこい!俺も適当に話してくるから」

「また後で」

 それだけ言って焔はトーナメント中に戦った相手を探しに向かった。
 完全に1人になったドラゴも他に話す相手を探して店の中をキョロキョロと見回しながら歩きだした。

「お、あんたは2回戦でナギと戦っていた」

「ん?…あぁ、俺はナギというプレイヤーに負けた大和だ。カタカナじゃなくて漢字の方だ」

「丁寧にありがとう。俺はドラゴだ!よろしく‼」

「こちらこそ」

 笑顔でドラゴに大和も小さく笑みを浮かべて握手した。
 軽く挨拶を済ませると2人は近くの空いている机で向かい合うような形で乾杯した。

「しかし、あの愉快なプレイヤーに親しい相手がいたのは意外だ」

「ははは!初対面の人はたいていそう言うな。あいつは性格的に一人を好むのは間違いではないしな」

「むしろあの正確だと人付き合いは難しいだろな」

「それが無駄に容量がいいので顔は広いんですよ」

「そうなのか?なら戦闘法も、その関係から習ったのか」

「そんなところですね。とは言え、俺もあんな複数の武器を使っての戦闘は初めて見たんだけどな」

 共通の話題としてナギが話の中心となってしまっていたが、今回はドラゴも疲れた様子もなく楽しそうにナギのすごさを語っていた。さすがにリアルでの個人の特定につながるような事はお互いに避けていたが、それでも話の流れ的に軽くリアルの事に触れてはいた。

「あいつは現実での技術をAOの身体能力で再現しているんで、単純に考えるとこっちの方が圧倒的に強いんだよ」

「なるほど技術か…」

「こればっかりは誰かに習うか、スキルのサポートでやっていることを自力でできるように鍛えるしかない」

「そんな方法で鍛えられるのか?」

 今までスキルの発動タイミングなどにばかり頭を使っていた大和にとっては思考の外にある事だったようで驚いていた。
 しかし現在のAOプレイヤーの中でも攻略組と呼ばれる者達は実際にやっている方法であった。彼らはイベントよりも攻略を優先しているので今回の決闘イベントに姿はなかったが、実際に参加していたらナギやツバキなどの実力者を抜いた何名かは彼らだけになっていたと断言できるほどだった。

 ただこの情報はまだ掲示板の端のほうなどで軽く語られる程度の話なので大和が知らないのも無理はなかった。
 だが、この方法での技術向上は簡単な道ではないのだ。

「鍛えることは可能ですけど、やっぱりプレイヤーのセンスなんかが高く影響する感じなんだよな。だから自力よりは他の人に教わる方が確実性は高く、なによりリアルと違いAOなら身体能力は上がっているので練習しやすい!疲れないしな‼」

「確かにな。疲れないで練習できるというのは利点だ…その発想はなかったな」

 AOを鍛える場として認識していなかった大和からは、まさに目から鱗と言った感じだった。それだけに真剣に今後どうするか考えていた
 ただ今は話している相手であるドラゴが居て話は終わっていないのだ。

「それとこっちからも質問があるんだけど大丈夫か?」

「っ!そうだな。こちらばかり質問していては不公平だし、いくらでも聞いてくれ」

「だったら聞きたかったんだけど!」

 と今まで話していた反動のようにドラゴは勢いよく前のめり気味に質問を開始した。内容としては『現在活動している国はどこか?』や『装備で一番重要視している事は?』など本当にいろいろ気になることを片っ端から質問していた。
 打ち上げが終わるころには質問されすぎて疲れ切った様子の大和が一人店に取り残されていた。
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