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第二章 黒い呪術師
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吉野木が洋食屋に到着したのは、まだ陽も高い昼の二時を過ぎたころ。
どうしても老婆の言葉が気になってしまい、けっきょくは店の前へと来てしまっていた。
「金でも要求されるのかな……」
麦仲を呪い殺したのを依頼とみなし、高額な報酬を要求されるとも考えられる。
もし仮に百万円単位での請求をされようものなら、先月、購入したばかりの車を売り払うしかなく、何度もため息をこぼしていた。
「保険も解約しないといけないかな……」
泥沼にはまるみたいに、どんどんと悪いほうへ思考が引っぱられていく。
呼ばれた理由が判明するまで心配でたまらず、なにも手につかない状態だった。
「まだ六時間以上もあるのか……」
ひとつ向こうは繁華街になっており、平日にもかかわらず賑わう声が聞こえてくる。
路地裏にあたるここの通りは、昼間から開いている立ち飲み屋もあるが、今は酔う気になどなれなかった。
「やっぱり麦仲なんかに関わったのがいけなかった……」
悪評は口伝で聞いていたものの、実際に会うとエネルギッシュで、なにごとに対してもアクティブで頼もしいと感じてしまった。
もはや、どれだけ悔いても遅きに失したが、本当に近寄ってはならない男だと今さらながら思い知った。
「もしかして俺も殺されるのだろうか……」
吉野木は胸に手を当て、心臓が鼓動しているのを確認する。
いつ自分が呪われるかと不安になり、電柱へと体を預けた。
ふと見た店先では、ランチタイムが終わったのか、ショーウィンドウの灯りが落とされていく。
すると表の看板を片づける、ひとりの小柄な店員と目が合った。
「――あっ」
そんな声をあげたのが表情でわかる。
店員は作業を止め、小走りで近寄ってくると、丁寧に頭を下げた。
「昨晩はお越しいただき、ありがとうございます。あの……、なにかぼく、粗相をしましたでしょうか――」
ゆっくりと顔を上げる、なで肩の少年。
ふたりとも料理に手をつけなかったので、気になっていたと話した。
「そうじゃない、ほっといてくれ」
吉野木は首を横に振り、面倒くさそうに答える。
今は心に余裕などなく、こんな会話なんてしたくなかった。
「わかりました。またのお越しをお待ちしております」
ふたたび少年は頭を下げると、店のなかへと入っていった。
「――あとどれくらいだ」
幾度となく腕時計へと目をやるが、数分ずつしか経っていかない。
まさに永遠とも感じられる時間のなか、ただただ今は震えて待つしかなかった。
どうしても老婆の言葉が気になってしまい、けっきょくは店の前へと来てしまっていた。
「金でも要求されるのかな……」
麦仲を呪い殺したのを依頼とみなし、高額な報酬を要求されるとも考えられる。
もし仮に百万円単位での請求をされようものなら、先月、購入したばかりの車を売り払うしかなく、何度もため息をこぼしていた。
「保険も解約しないといけないかな……」
泥沼にはまるみたいに、どんどんと悪いほうへ思考が引っぱられていく。
呼ばれた理由が判明するまで心配でたまらず、なにも手につかない状態だった。
「まだ六時間以上もあるのか……」
ひとつ向こうは繁華街になっており、平日にもかかわらず賑わう声が聞こえてくる。
路地裏にあたるここの通りは、昼間から開いている立ち飲み屋もあるが、今は酔う気になどなれなかった。
「やっぱり麦仲なんかに関わったのがいけなかった……」
悪評は口伝で聞いていたものの、実際に会うとエネルギッシュで、なにごとに対してもアクティブで頼もしいと感じてしまった。
もはや、どれだけ悔いても遅きに失したが、本当に近寄ってはならない男だと今さらながら思い知った。
「もしかして俺も殺されるのだろうか……」
吉野木は胸に手を当て、心臓が鼓動しているのを確認する。
いつ自分が呪われるかと不安になり、電柱へと体を預けた。
ふと見た店先では、ランチタイムが終わったのか、ショーウィンドウの灯りが落とされていく。
すると表の看板を片づける、ひとりの小柄な店員と目が合った。
「――あっ」
そんな声をあげたのが表情でわかる。
店員は作業を止め、小走りで近寄ってくると、丁寧に頭を下げた。
「昨晩はお越しいただき、ありがとうございます。あの……、なにかぼく、粗相をしましたでしょうか――」
ゆっくりと顔を上げる、なで肩の少年。
ふたりとも料理に手をつけなかったので、気になっていたと話した。
「そうじゃない、ほっといてくれ」
吉野木は首を横に振り、面倒くさそうに答える。
今は心に余裕などなく、こんな会話なんてしたくなかった。
「わかりました。またのお越しをお待ちしております」
ふたたび少年は頭を下げると、店のなかへと入っていった。
「――あとどれくらいだ」
幾度となく腕時計へと目をやるが、数分ずつしか経っていかない。
まさに永遠とも感じられる時間のなか、ただただ今は震えて待つしかなかった。
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