COLD LIGHT ~七美と愉快なカプセル探偵たち~

つも谷たく樹

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第三章 呪いのルール

 ‐1‐

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 ――芸名・七美七美

 北陸を中心に企業を展開する、SAKASHIMAさかしまグループの家庭で育った彼女は、幼いころから経営者一族としての教育を受け、礼儀作法や国際的な感覚を身につける機会に恵まれていた。
 
 やがて人前に立つことや社交の場で振る舞いに慣れていくうち、役者になることを志すようになり、高校を卒業すると同時に家を飛び出し、芸能事務所の主催するオーディションを受けた。

 淡いブラウンの髪に褐色の肌。眉目秀麗びもくしゅうれいな顔立ちにグリーンの瞳は、どこかオリエンタルな雰囲気を放ち、怪獣特撮系のヒロイン役でデビューするや否や人気をはくし、一躍時の人となった。

 青年誌の表紙を水着で飾り、製薬会社のCMにも抜擢ばってきされたある日のこと。
 なんの前ぶれもなく事務所の社長がロケ現場に現れると、物語の演出上、バニーガール姿となっていた彼女の胸元に一枚のメモをねじ込んできた。

『今晩、その衣装を持っておいで』

 そんな一文とともに、ホテルのルームナンバーが記してあったが、行く気なんてサラサラない。まったくない。毛頭ない。
 隣で怪獣の着ぐるみを着たスーツアクターのおじさんに渡すと、いつものようにヒロイン役を演じはじめた。
 
 その後、おじさんがメモを頼りに、社長の待つホテルに行ったかは定かではないが、決まっていた仕事はすべて下ろされてゆき、事務所の契約も更新されないまま引退。

 しばらくのあいだ両親のもとに身を寄せようと考えたが、おそらく政略的な目的であろう。  
 まるで駅名みたいな苗字の男性との縁談が組まれており、帰るに帰れなくなってしまった。

 仕事もなく、日々の生活に困るようになった彼女は、特撮番組のノリをそのままに、このような特殊な警備会社を立ち上げた次第だった。


「もしもし、大木場ですっ。三倉さん。落ちついて聞いてください――」

 早急に救急車を呼んだ彼は、同僚のもとへと連絡を入れる。
『はい』と答える向こうでは、ロードノイズが聞こえており、運転中なのがうかがえた。

「隊長が倒れました。今は僕が付き添っています」
『ひゅぃ――』

 謎の呼吸音のあと、凄まじい衝突音が聞こえ、男性とおぼしき悲鳴まであがった。

『た、た、隊長が倒れた? ど、ど、ど、どこでですの?』

 いつも物静かな彼女から、びっくりするくらいの動揺が伝わってくる。
 しかし大木場としては『ギャー』という、叫び声のほうが気になった。

「だいじょうぶっすか。三倉さん。もしかして事故ですか」
『ええ、事故です。それより隊長は』
「いや、こっちより、そっちをどうにかしてください」
『いえ、こっちより、そっちの状況を教えてください』

 お互い最優先事項がことなり、らちがあかない。
 けっきょくは大木場が折れ、現在、向かっている病院名を教えると通話が切れた。

「――ねぇ……今の……三倉……?」

 七美の弱々しい声が、酸素マスク越しにもれる。
 大木場はこくこくうなずくと、七美はそっと瞼を閉じた。

「あの子……動揺すると……運転を誤るかも知れないから……心配ないと伝えて……ね」
「さーせん。もう遅いっす」
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