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第五章 捜査会議 七美 arrange
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――後悔先に立たず。
吉野木はタバコをくわえ、換気扇の回る殺風景な壁を見つめている。
いつ自身が殺されるかと考えるたび、左胸が早鐘を打ち、大声で叫びたくなるほど怖い。
昨晩は、帰るや否や、ベッドに潜り込んだ。だが、意識が遠のいた瞬間、どこからともなく老婆の声が聞こえ、汗だくとなって目を覚まし、ついには起きていても動悸が治まらなくなっていた。
眠ろうにも眠れず、昼前になる時刻まで、まんじりともせず過ごしていた。
「玄関にある調度品で殴る。財布を奪い部屋を荒らす。ころ合いをみて逃げる――」
脳内へ刻み込むように、犯行の手順を復唱する。
あと数時間もすれば、縁も所縁もない女性を殺しに行かねばならず、徐々に震えが止まらなくなっていた。
「玄関にある調度品で殴る。そのあと財布を奪い部屋を荒らす。ころ合いをみて逃げる」
幾度となく、老婆からの指示をくり返していると、これは自身の見ている悪夢であり、目を覚ませば、普段と変わらない日常が始まりそうな感覚になっていく。
吉野木はベッドから立ち上がると、パソコンのスイッチを入れ、これから向かう井関宅を再確認する。
これは現実であり、今こそが正念場だと己に言い聞かせつつ。
「やっぱり電車にするか……」
車で出かけ、すぐに逃走しようと考えていたが、目標となる井関の家は、住宅街の入り口に面している。
交通量も多いうえ、ナンバーを覚えられる可能性もあり、ひと通りの少ない時間帯に侵入を済ませてしまい、その後は雑踏に紛れて帰宅するのが望ましいと、土壇場になって作戦を変更した。
「天気は……。よし、雨から変わってないな」
夕方の予報でも傘のマークが点灯している。
レインコートを着て、フードを被れば顔は隠せるし、さらに傘を差して歩けば誰もがみんな同じに見える。
老婆によれば、陰陽師の子孫とはいえ、普通の女性と変わりないとの話であり、不意打ちくらいは容易なはず。
しかし、どうしても見ず知らずの人間を殺めるという罪悪感は拭いきれず、何度も何度も逡巡してはいた。
「しかし、やらないと俺が死ぬ……」
自らが犠牲になる選択肢はなく、吉野木は力いっぱい自身の頬を張る。
準備してあったリュックを背負うと、周囲に目を配りながら、駅へと歩きはじめた。
吉野木はタバコをくわえ、換気扇の回る殺風景な壁を見つめている。
いつ自身が殺されるかと考えるたび、左胸が早鐘を打ち、大声で叫びたくなるほど怖い。
昨晩は、帰るや否や、ベッドに潜り込んだ。だが、意識が遠のいた瞬間、どこからともなく老婆の声が聞こえ、汗だくとなって目を覚まし、ついには起きていても動悸が治まらなくなっていた。
眠ろうにも眠れず、昼前になる時刻まで、まんじりともせず過ごしていた。
「玄関にある調度品で殴る。財布を奪い部屋を荒らす。ころ合いをみて逃げる――」
脳内へ刻み込むように、犯行の手順を復唱する。
あと数時間もすれば、縁も所縁もない女性を殺しに行かねばならず、徐々に震えが止まらなくなっていた。
「玄関にある調度品で殴る。そのあと財布を奪い部屋を荒らす。ころ合いをみて逃げる」
幾度となく、老婆からの指示をくり返していると、これは自身の見ている悪夢であり、目を覚ませば、普段と変わらない日常が始まりそうな感覚になっていく。
吉野木はベッドから立ち上がると、パソコンのスイッチを入れ、これから向かう井関宅を再確認する。
これは現実であり、今こそが正念場だと己に言い聞かせつつ。
「やっぱり電車にするか……」
車で出かけ、すぐに逃走しようと考えていたが、目標となる井関の家は、住宅街の入り口に面している。
交通量も多いうえ、ナンバーを覚えられる可能性もあり、ひと通りの少ない時間帯に侵入を済ませてしまい、その後は雑踏に紛れて帰宅するのが望ましいと、土壇場になって作戦を変更した。
「天気は……。よし、雨から変わってないな」
夕方の予報でも傘のマークが点灯している。
レインコートを着て、フードを被れば顔は隠せるし、さらに傘を差して歩けば誰もがみんな同じに見える。
老婆によれば、陰陽師の子孫とはいえ、普通の女性と変わりないとの話であり、不意打ちくらいは容易なはず。
しかし、どうしても見ず知らずの人間を殺めるという罪悪感は拭いきれず、何度も何度も逡巡してはいた。
「しかし、やらないと俺が死ぬ……」
自らが犠牲になる選択肢はなく、吉野木は力いっぱい自身の頬を張る。
準備してあったリュックを背負うと、周囲に目を配りながら、駅へと歩きはじめた。
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