COLD LIGHT ~七美と愉快なカプセル探偵たち~

つも谷たく樹

文字の大きさ
26 / 57
第五章 捜査会議 七美 arrange

 ‐4‐

しおりを挟む
「はああぁー?」

 取調官の報告を聞き、高橋の顎は外れそうなほど開く。
 いったん気持ちを落ち着けようと、ポケットからパルスオキシメーターを取り出した。

「うむ、まだ正常値ぞい。それでなんじゃと、犯人じゃなかったとな?」
「はい嘘ではないみたいです。奴は麦仲が死んでいると知らずに財布を抜いた模様です」
「待て待て、麦仲の服は真っ赤だったぞい。ひと目で死んどるのがわかるはずじゃ」
「街灯もなく、よく見えなかったみたいでして、泥酔して寝ていると勘違いしていたらしいです。それに麦仲はピンク色のサマージャケットを着ていましたし……」
「それでは窃盗だけかいのぉ?」
「はい。犯人を調べましたら前科まえもありまして、そっちでも窃盗です」
「おおおーっ、なんてことじゃ」

 麦仲の財布を売ろうとした男性は、殺害に関しては無実シロで、深夜、たまたま裏通りを歩いていた際、よもや死んでいるとも知らずに後ろポケットから抜いたとのこと。

 これにて一件落着とたかくくっていた高橋は、期間延長祝いでもやろうと、娘婿と一緒に、近所にあるイワシ料理専門店に予約を入れてしまっていた。

「ぐぬぬ……、しばしのあいだ宴会はおあずけにするか」

 ともあれ捜査は振り出しに戻ってしまい、またしても訓示室にて緊急会議が開かれようとしている。
 早くも片づけてしまったホワイトボードをふたたび出し、フライング気味に作成しかけた事件記録一式も白紙に戻した。

「はぁー……、本当に十二人だけかのぉ、ほかにも隠れてはおらんかのぉ」

 どれだけ地取じどりや鑑取かんどりを重ねても、有力な人物が捜査線上に挙がってはこず、このなかの誰かであるとの見方が強い。
 だが、ひとは誰しも、思いもよらない些末さまつなことで恨まれる場合もあり、どんな事柄でもいいので、『既存の容疑者以外』が浮上してほしかった。

「主任、もう一度、交友関係を洗いなおしましょうか」
「そうじゃのぉ、今はそれくらいしか方法が浮かばんしのぉ」

 防犯カメラの解析にあたっている科学捜査研究所からも、目ぼしい情報がなく、老刑事はパイプ椅子に寄りかかる。
 枯れ枝みたいな細い足を組むと、やはり全員が共犯者であり、口裏を合わせて真犯人をかくまっている線を再考し始めた。
 
 時刻はもうすぐ正午を迎えるころ。
 高橋は、容疑者とおぼしき資料をすべて読みなおすと、深いため息をついた。

「山並巡査長、すまぬがあとを頼む」
「いえ、あの、どちらに?」
「まずはコンビニで金を下ろしてくぞい。ほかに行く所もあるので、夕方まで席を外すからよろしくな」

 返事を待たず、部屋をあとにする老刑事。
 こうなったら奥の手である、坂之上アーケード警備隊の協力を仰ぐしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...