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第五章 捜査会議 七美 arrange
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「あんた……なにしたの?」
七美のいる病院に、最年長メンバーである水溜が運ばれてくる。
首にコルセットを巻き、三倉と同様、またしても二名の警察官を引き連れて。
「それが俺にもわかんなくて……」
「わからないってなによ」
「徹夜明けだったので、栄養剤でも買おうとドラッグストアに入ったんだ……」
「それで?」
「万引き犯たちとぶつかって、転倒した」
「万引き犯? しかも複数形?」
「五人くらいだったかな」
水溜は頸椎でも痛めているのか、くるしそうに喋っている。
ストレッチャーへと載せ替えられ、院内へと運ばれていくと、後ろにいた警察官が敬礼をした。
「つづきは本官からご説明させていただきます――」
なんでも水溜がぶつかった相手とは、化粧品を中心に商品を盗み、ネットで販売をしていた万引きグループだったとの話。
このたびも店内にて手持ちのバッグに商品を忍ばせていたところ、巡回中の私服警備員に見つかり、一斉に逃げだしたと述べた。
「ふーん。それから?」
「はい。たまたまそこのドラッグストアに入ろうとした、あのお方とぶつかってしまい、万引き犯は将棋倒れとなってしまいました」
「はぁ……」
「回復をいたしましたら、再度、事情を伺いに参ります」
同行してきた二名の警察官は、またしても去り際に敬礼をする。
ことの顛末を知った七美は、目が点になり、人差し指を顎に添えた。
「『よくわからない』ってホントだったのね……。まぁ、いっか」
昨日の三倉につづき、今日の水溜と、任務とは関係ないところで大活躍をしている。
とにもかくにも誇らしいと感じたので、今日こそは酒屋まで行き、ワインを買ってこようと心に誓った。
「よしっ、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズにしよう」
多少、値は張るけれど、おめでたい席にはもってこい。
ふたりとも金一封をもらうかも知れず、久しぶりに宴会をしてやろうと決めた矢先、不意に背後から声を掛けられた。
「あのー、お体の具合はいかがですか」
七美は、大きく伸びたままふり返る。
そこに立っていたのは、いつも行く洋食屋の少年店員で、手には薄紫色したベゴニアの花束を抱えていた。
「あれっ、ぼくちゃん。どうしたの?」
「昨晩、入院されているとお聞きしまして」
頬を染め、上目づかいで見てくる。
思春期の少年みたいに、ほのかな甘酸っぱさを残す男の子だった。
「わざわざ仕事を休んで見舞いに来てくれたんだ。どうもありがとう」
「えへへ、じつは、しばらくお休みをもらいました。やることがありまして」
「そっかー、元気になったら、また行かしてもらうわね。――ん? でもどうして、ここの病院だとわかったの?」
「いつも一緒に来られる女性の方が、こちらの病院名が書いた封筒をお持ちでしたので、見当がつきました」
店員は肩をすぼめ、頬に小さなえくぼを作る。
その姿が、少女みたいで愛らしく、思わず髪を撫でてしまった。
「細かいところを見ているわね」
七美は笑いながら関心していると、またも後ろから声が掛かる。
スーツをはだけ、両手をポケットに入れた古強者。鬼の高橋だった。
「おーい、一生のお願いぞい。もう一度、仕事を依頼したいんじゃ」
「『依頼』って、轢き逃げ事件は解決したのじゃないのかしら」
「また別件ぞい。今度は殺人事件じゃ」
ごそごそと懐を探り、今週、二度目の着手金を出してきた。
「あたしたちの仕事は護衛であって、相手が死んでしまったなら、どうしようもないわよ」
「わかっておる、わかっておる。守ってほしいのは、このわしじゃ。『高橋の人生』じゃ」
「どういうこと」
「この事件の担当主任になったんじゃ。無事に解決すれば、もう少し仕事ができる。つまりわしの生き甲斐を守ってほしいのじゃ」
むちゃくちゃな理屈をつけてくる高橋老刑事。七美は腕を組み、呆れた顔をした途端、どこからか爆音が轟き、大木場の駆るナナハンバイクが正面ロータリーに突っ込んできた。
「水溜さんの具合はいかがでございますかっ」
まだ止まっていないバイクの後部座席から、三倉が飛び降りてくる。
ドラマの主人公みたいでまぶしくなり、つい七美は目を細めた。
「あたしなら足首を骨折しているわね……。水溜なら心配はない(多分)それより酒屋さんでワインを買ってきてくれないか。シャトー・レオヴィル・ラス・カーズがいい」
「なんのために入院しているのですかっ、絶対にダメです」
いきなり怒られてしまい、その三倉の後ろからは、紙袋を頭上にかざした大木場が、手を振っている。
あまりにも場違いすぎる白い歯をこぼしながら。
「いやー、それにしても凄いっすね。やっぱり隊長を尊敬しちゃいますよ」
「なにが凄いの?」
「みんな隊長の所に集まってくるじゃないですか。これが『人徳』ってやつですね」
七美は闇夜を照らす誘蛾灯みたいに、あらゆるものを引き寄せる魅力を持っているらしい。
たとえそれが人間だけでなく、困難な任務であったとしても。
「それなら、もっと素敵な男性が集まってちょうだいよ」
苦笑いしつつも、全員に向け、大きく手招きをする。
守るのが『生き甲斐』なんて、詭弁も甚だしいが、自身の才能を買ってくれているのには違いなかった。
「さっそく会議を始めるわよ。事件の概要を教えてくれる」
「さんくすじゃ。ナナちゃん」
――実業家刺殺事件。
もうひとつ起きた事件の解明に向け、七美七美率いる、坂之上アーケード警備隊は動きはじめた。
七美のいる病院に、最年長メンバーである水溜が運ばれてくる。
首にコルセットを巻き、三倉と同様、またしても二名の警察官を引き連れて。
「それが俺にもわかんなくて……」
「わからないってなによ」
「徹夜明けだったので、栄養剤でも買おうとドラッグストアに入ったんだ……」
「それで?」
「万引き犯たちとぶつかって、転倒した」
「万引き犯? しかも複数形?」
「五人くらいだったかな」
水溜は頸椎でも痛めているのか、くるしそうに喋っている。
ストレッチャーへと載せ替えられ、院内へと運ばれていくと、後ろにいた警察官が敬礼をした。
「つづきは本官からご説明させていただきます――」
なんでも水溜がぶつかった相手とは、化粧品を中心に商品を盗み、ネットで販売をしていた万引きグループだったとの話。
このたびも店内にて手持ちのバッグに商品を忍ばせていたところ、巡回中の私服警備員に見つかり、一斉に逃げだしたと述べた。
「ふーん。それから?」
「はい。たまたまそこのドラッグストアに入ろうとした、あのお方とぶつかってしまい、万引き犯は将棋倒れとなってしまいました」
「はぁ……」
「回復をいたしましたら、再度、事情を伺いに参ります」
同行してきた二名の警察官は、またしても去り際に敬礼をする。
ことの顛末を知った七美は、目が点になり、人差し指を顎に添えた。
「『よくわからない』ってホントだったのね……。まぁ、いっか」
昨日の三倉につづき、今日の水溜と、任務とは関係ないところで大活躍をしている。
とにもかくにも誇らしいと感じたので、今日こそは酒屋まで行き、ワインを買ってこようと心に誓った。
「よしっ、シャトー・レオヴィル・ラス・カーズにしよう」
多少、値は張るけれど、おめでたい席にはもってこい。
ふたりとも金一封をもらうかも知れず、久しぶりに宴会をしてやろうと決めた矢先、不意に背後から声を掛けられた。
「あのー、お体の具合はいかがですか」
七美は、大きく伸びたままふり返る。
そこに立っていたのは、いつも行く洋食屋の少年店員で、手には薄紫色したベゴニアの花束を抱えていた。
「あれっ、ぼくちゃん。どうしたの?」
「昨晩、入院されているとお聞きしまして」
頬を染め、上目づかいで見てくる。
思春期の少年みたいに、ほのかな甘酸っぱさを残す男の子だった。
「わざわざ仕事を休んで見舞いに来てくれたんだ。どうもありがとう」
「えへへ、じつは、しばらくお休みをもらいました。やることがありまして」
「そっかー、元気になったら、また行かしてもらうわね。――ん? でもどうして、ここの病院だとわかったの?」
「いつも一緒に来られる女性の方が、こちらの病院名が書いた封筒をお持ちでしたので、見当がつきました」
店員は肩をすぼめ、頬に小さなえくぼを作る。
その姿が、少女みたいで愛らしく、思わず髪を撫でてしまった。
「細かいところを見ているわね」
七美は笑いながら関心していると、またも後ろから声が掛かる。
スーツをはだけ、両手をポケットに入れた古強者。鬼の高橋だった。
「おーい、一生のお願いぞい。もう一度、仕事を依頼したいんじゃ」
「『依頼』って、轢き逃げ事件は解決したのじゃないのかしら」
「また別件ぞい。今度は殺人事件じゃ」
ごそごそと懐を探り、今週、二度目の着手金を出してきた。
「あたしたちの仕事は護衛であって、相手が死んでしまったなら、どうしようもないわよ」
「わかっておる、わかっておる。守ってほしいのは、このわしじゃ。『高橋の人生』じゃ」
「どういうこと」
「この事件の担当主任になったんじゃ。無事に解決すれば、もう少し仕事ができる。つまりわしの生き甲斐を守ってほしいのじゃ」
むちゃくちゃな理屈をつけてくる高橋老刑事。七美は腕を組み、呆れた顔をした途端、どこからか爆音が轟き、大木場の駆るナナハンバイクが正面ロータリーに突っ込んできた。
「水溜さんの具合はいかがでございますかっ」
まだ止まっていないバイクの後部座席から、三倉が飛び降りてくる。
ドラマの主人公みたいでまぶしくなり、つい七美は目を細めた。
「あたしなら足首を骨折しているわね……。水溜なら心配はない(多分)それより酒屋さんでワインを買ってきてくれないか。シャトー・レオヴィル・ラス・カーズがいい」
「なんのために入院しているのですかっ、絶対にダメです」
いきなり怒られてしまい、その三倉の後ろからは、紙袋を頭上にかざした大木場が、手を振っている。
あまりにも場違いすぎる白い歯をこぼしながら。
「いやー、それにしても凄いっすね。やっぱり隊長を尊敬しちゃいますよ」
「なにが凄いの?」
「みんな隊長の所に集まってくるじゃないですか。これが『人徳』ってやつですね」
七美は闇夜を照らす誘蛾灯みたいに、あらゆるものを引き寄せる魅力を持っているらしい。
たとえそれが人間だけでなく、困難な任務であったとしても。
「それなら、もっと素敵な男性が集まってちょうだいよ」
苦笑いしつつも、全員に向け、大きく手招きをする。
守るのが『生き甲斐』なんて、詭弁も甚だしいが、自身の才能を買ってくれているのには違いなかった。
「さっそく会議を始めるわよ。事件の概要を教えてくれる」
「さんくすじゃ。ナナちゃん」
――実業家刺殺事件。
もうひとつ起きた事件の解明に向け、七美七美率いる、坂之上アーケード警備隊は動きはじめた。
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