COLD LIGHT ~七美と愉快なカプセル探偵たち~

つも谷たく樹

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第七章 人を呪わば穴二つ

 ‐2‐

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「現場主任の高橋です。あー、うー。このたびは、あー、うー。警察としましては、あー、うー」
 
 手の甲を重ね、井関の夫へと頭を下げる再雇用刑事。
 どこかふざけて見える風貌にもかかわらず、ひと一倍思いやりのある、このご老人は、必要以上に相手の心情を汲み取ってしまい、事前に用意していたセリフすら喋れていなかった。

「それで家内は……、家内はどうなったべ?」

 その巨体に反し、長椅子にへたり込んだ井関が、弱々しい口調で尋ねてくる。
 せめて高橋は元気づけようと、努めて明るい口調で、医者から聞いた経過を報告した。

「それに関しては安心してほしいぞい。発見が早かったおかげもあって容態は落ち着いているそうじゃ。しかし犯人は逃げる際に事故死したので、動機については解明しておらんじゃ」
「そうですか。……よかったぁ」

 深いため息をつく井関の夫、翔一朗。
 たまたまロビーを通りかかった三倉たちは、その光景を目にしていたらしく、唐突に翔一朗へと質問してきた。

「お取り込み中、たいへん申しわけありません。その『よかったぁ』は、奥さんが無事で安心をされたとの言葉ですよね」
「あんたは……どなたさんですじゃ?」

 なんの前触れもなく三倉が口を挟んできたので、高橋は慌てている。
 ちょうどナースウェアに似たワンピースを着ていたから、咄嗟とっさに病院関係者へとでっち上げた。

「えーと、か、か、看護師さんじゃ」
「そうですか、失礼した。もちろん家内が無事でよがったって意味だべ。おいからすりゃ犯人は死んで当然だ、さっぱり気持ちが晴れただ」

 井関は三倉を見て、やや口元を歪める。
 その態度はあきらかに不自然で、目は泳ぎ、貧乏ゆすりまで始めた。

「……そうでございますよね。いきなりお声掛けしてしまい失礼いたしました」

 三倉は売店で購入した衣料品を胸に抱きかかえ、深くお辞儀をする。
 しかしその仕草も少しぎこちなく、なにかを感じ取った様子だった。

「お伺いしたことがあるんじゃが、明日でよろしいです。とにかく奥さんにお会いなさってくださいな」

 高橋に促され、井関は医師の待つ病室へと消えていく。
 これまでのやり取りを眺めていた大木場は、不思議そうな顔で三倉に尋ねた。

「さっきの質問は意味があったんすか?」

 大量の雑誌を両手に下げたまま、太い小首を傾げる。
 今の会話の、どこに引っかかったのか疑問みたいであった。

「奥さまが無事で『よかった』ではなく、犯人の動機がわからなくて『よかった』――そんな顔をしているように見えました」

 ユタの家系で生まれ育ったせいもあり、三倉は幼いころから勘が鋭い。
 相手の表情から、わずかな心の揺らぎを捉え、それを違和感として察知していた。

「どうして動機がわからなくて、よかったんすかね?」
「はい。もしそうであったとしたら――」

 三倉はそこで止め、下唇を指で弾く。
 なにかを閃いた眼差しとなり、自身の持っている荷物を大木場に突き出した。 

「これも水溜さんの部屋にお願いできませんか」
「どうしたんすか?」
「大至急、隊長に提言したいことがあります」

 やや小走りとなり、エレベーター横の階段へと消えていく三倉。
 大木場は、彼女が押しつけた荷物を口にくわえているので、うまく喋れなかった。

「ほうひたんふかへ?」(どうしたんですかね?)
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