COLD LIGHT ~七美と愉快なカプセル探偵たち~

つも谷たく樹

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第七章 人を呪わば穴二つ

 ‐8‐

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 かつて平良みどり子が勤めていた学校へと足を運んだ強者つわもの刑事。
 もう閉門後であり、校舎には宿直担当の体育教師しかいなかったものの、このたびの件について、重要な情報を得ることができた。

「――はっ? 失踪した平良のご主人って、相撲部のコーチをしてたのかいな」

 夫婦で教師をやっていたとは資料にあったが、詳細については平良みどり子の分しかない。
 夫であった孝蔵については一辺倒いっぺんとうの記載しかなく、提出された失踪届にも、『不明』とあるだけで、具体的な経緯けいいは、署内のデータベースにもなかった。

「なんでも東北にある大学で臨時講師をしていた時期があって、学生たちの稽古指導にあたっていたと言っておられましたよ」
「教え子の名前なんかはわかりますかいのぉ」
「さぁ、そこまでは……。けれど、ひとりだけ部屋に入門した教え子がいたと話していましたね」

 高橋は手帳を取り出すと、井関翔一郎の経歴を読み上げる。
 彼が学生時代に優勝をしたのが十年ほど前で、平良の夫が指導をしていたころを重ねてみると、あらかたの時期は合っている模様だった。

「うーん。たしかに十年くらいむかしと言っておりましたから、おそらくはその子ですかねぇ……」

 年配の体育教師は、お盆へとお茶を乗せ、高橋に勧めてきた。

「平良のご主人について、どこで調べたらわかりますかいの?」
「それは平良の奥さんに聞いてみるのが一番かと思われますが……。なにかあったのですか?」

 体育教師の言うことはもっともで、妻であるみどり子に直接、聞いてみるほうが早い。
 だがまだ憶測の範疇はんちゅうを出ておらず、仮に七美の推理した通りであったとしても、なにかの拍子に井関へと伝わってしまう恐れがある。

 もしも警戒をされた場合、隠蔽いんぺい工作をはかるかも知れず、ただただ今は怪しまれないよう、水面下で情報を収集するしかなかった。

「いやいや、そこまで重要な質問ではないんじゃ。どうも、ありがとさん」

 高橋は手刀しゅとうを切り、礼を述べると、湯呑へ手を伸ばす。
 どうやって孝蔵の足取りを掴もうかと思案をしていると、正面で腰を下ろしている体育教師が、膝を叩いた。

「あっ、そうだ。今もときおり、その教え子が家に訪ねてくると言っていたかな? いなくなったコーチがひょっこり帰ってないかと尋ねるため」
「……なるほどのぉ」

 老刑事は瞼を閉じ、静かにお茶をすすっている。
 しかし、次に目を開けたときには、現役時代の鋭い眼光になっていた。

「平良みどり子はんと親しかった先生なんて、おられないじゃろうか」
「以前の教頭は女性の方でして、お互い色んな話をしていたみたいですね」
「その教頭はんとは連絡を取れんじゃろか?」
「すぐに調べますから、ちょっと待っていてください」

 高橋は湯呑みを置くと、これまでの会話をメモ帳に書き留める。
 真相の究明に向け、また一歩、前進した。
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