【R18】狂狼と出戻り公爵令嬢の不器用な日常。

沙也にいな

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◆ 3 ◆

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本来なら待ちに待った夜会であったが、ユゼフは参加者として出席しなかった。
クリスティーナはアンドリューのエスコートを受けることになったからだ。
代わりに警備と称して会場へ入り込んでいた。

社交シーズンに開かれる夜会でも大規模なものになる。
数百名の参加者に加え、給仕や警備の人間もいるので、目的の人物を探すのは難しい。
だがユゼフは迷わずクリスティーナの姿を見つけた。
ユゼフが贈った指輪を彼女は右手の薬指へ付けている。
琥珀が嵌ったあの指輪には、石の部分にユゼフの魔力を込めてあり、クリスティーナの居場所が分かるようになっていた。

遠目から見た彼女はユゼフが贈ったドレスを着ていなかった。
いつもより煽情的な、胸元が大きく開いた黒いドレスは、おそらくアンドリューが用意したものだ。

「……ちっ」

シグルドから殺気を出すな魔力を暴走させるな何もするな、と口を酸っぱくして言われているユゼフの隣にはラルフがいる。
ユゼフが暴走しない為のお目付け役だ。
シグルドとマリウスは事前の打ち合わせ通り、別行動をしている。

アンドリューの黒髪を見たユゼフは、ラルフが同じ色をしていることに気付いた。
母親がノーグ出身だとシグルドが話していたことを思い出す。

の国はああいう男が多いのか?」
「母伝手で聞いた話ですが、アンドリュー殿が特殊なようです。あちらで何人もの女性を食い物にして、女王からも見放されている状態だと。帝国でらもう言い訳できませんからね。あえて送り出したのではないでしょうか?」

クリスティーナがまるでアンドリューを破滅に追いやる為の餌みたいだ、という考えが浮かんたユゼフは軽く頭を振る。

「近ぇな」
「エスコートですからね」
「俺が隣だったのに」
「揺れてますよ、魔力。しっかり抑えていて下さい。ファーレンハイト少将から、魔力封じの魔道具を渡されてるんですよ。使われたくはないでしょう?」

ラルフはにこやかな笑顔で物騒な事をいう。

軍人になれば一度は魔力封じの魔道具がどんなものか経験させられる。
自分の魔力が吸い取られる時に痛みはない。
だが緩やかに脱力感と無力感を与えられ、まるでじわじわと空気がなくなっていくような感覚は、精神を削られる。
さすがのユゼフも苦手だった。

ラルフを睨むが、彼はにこやかな笑顔を崩さない。
見た目と言動がこれだけ掛け離れても嫌な男にならないのは、彼の持って生まれた才能だろう。

軍人にしては柔和な顔立ちと柔らかな口調で、ラルフは若い女性からの人気が高い。
子爵家出身で――貴族としての立ち位置は高くないが――彼自身が帝都に大きな商会を持っている。
好青年でありながら食えない所をユゼフは気に入っていた。
先日一緒に戦ったこともあり、彼の実力も知っている。

広間に音楽が流れ始める。
参加者は次々とパートナーの手を取って、踊り始めた。
くるくると回る色とりどりのドレスを見たユゼフは零れそうな愚痴を飲み込んだ。
クリスティーナの方を見たくて、でも魔力を抑え込める自信がなくて、どこでもない場所をぼんやりと眺める。

「例のもの、持ち込まれたのは確定したんです。少将が見つけてくれますよ」
「早く見つけて欲しいもんだ」

ファーレンハイトの影は優秀だった。
アンドリューが竜の卵を持ち込んだことを突き止め、招かれている城の客室へ隠しているところまで分かっている。
シグルドはマリウスを伴って、アンドリューが夜会へ出席している間にその客室へ潜り込む手筈となっていた。
国王の許可は取ってある。
客人とはいえ、物騒な物を持ち込んだアンドリューに非があるので、竜の卵が見つかれば言い逃れは出来ない。

「あまり難しい顔をされては夜会に水を差します、中将」
「媚びを売る相手もいねぇよ」
「麗しいご婦人方から熱い視線を送られているのに?」
「ティナ以外には興味ねぇ。それに可愛いご令嬢はお前を見てるぞ」

ユゼフは仕事と称して夜会の会場にいるが、軍服の正装をしている。
飾緒や勲章を付け、踝まであるマントを纏っていた。
全身が――手袋まで――黒い上に身長もあるので会場の端に居ても目立つ。

隣に立つラルフも、階級が低いのでマントは羽織れないが飾り緒のついた軍服だ。

「私は特に想い人もいませんし。ご令嬢だと適当に遊べないので遠慮します」
「……その顔で言われると何とも、なぁ?」
「中将もそれなりに遊んでこられたでしょう」
「そうだが。ただお前の爽やかな顔で言われると男の俺でも怖ぇな」

清廉潔白みたいな顔をしているラルフには似合わない台詞である。
ユゼフは口元を引き攣らせた。

「中将にとってのクリスティーナ嬢が現れたら、私も落ち着きます。その相手がいないだけです」
「怖ぇって」
「ミュラー中将」

ラルフの口調が変わる。
魔道具を通じてシグルドの声が聞こえたからだ。
竜の卵を見つけたこと、その卵が割れかけているという内容だった。

「ラルフ、会場に結界張れるか?」
「出来ますが強度が足りるかどうか分かりません」
「念の為頼む。俺はシグと合流する。何かあれば避難指示は大将が出すはずだ。それに従え」
「承知しました」

不審がられない程度の早足でユゼフは会場を出る。
アンドリューが泊まっている客間は、会場から庭を挟んで向かい側の建物にあった。
照明はあるが薄暗い散歩道を抜けて彼らの元へ急いだ。
所々、帯剣している人間が気を失って転がっている。
アンドリューの手の者なのだろう。

シグルドたちと合流したユゼフは、豪奢な部屋に不釣り合いな、人の頭ほどの黒い卵を見て眉を顰めた。
卵からは良く知った魔力を感じた。

「シグ、ファーブニルの卵だったか」
「使役は難しいかもしれん」
「よく奴から盗めたなぁ。あちらには手練れがいるのか?」
「魔力を卵に使ったから寝ていた可能性が高い。運が良かったというべきか悪かったというべきか悩むがな」

竜種に性別はなく、自分の卵を自分の魔力で作る。
ユゼフたちが倒したファーブニルは、すでに魔力を卵へ託し、いずれ果てる予定だったのだろう。
ところが分身である卵を盗られてしまい、怒り狂って人間を襲ったという訳だ。
魔力を卵へ譲渡しておきながらあの強さだったというなら、全盛期のファーブニルはどれ程のものか想像したくもないとユゼフは思う。

今から産まれてくる竜はファーブニルだ。
竜の子など会ったこともないので、その強さや生態は分からない。

卵にはすでに幾つかの罅が見える。

「マリウス、お前に任せる。無理ならここで始末するぞ」
「はい」

そう話している間も、卵の罅が増えていく。
パキパキと中から割られていき、それは殻から出てきた。
黒い竜体に、瞼の奥から赤い瞳が現れる。
マリウスはそんな産まれたばかりの竜体の正面に立って視線を合わせていた。
逸らさないまま、ゆっくりと近付いていく。

「ぎゅい」

黒い子竜はまるで興味が無いとばかりにマリウスから視線を逸らす。
ひと鳴きするとふわりと飛びあがり、あっという間に窓を割って外へと出て行った。
三人も子竜の後を追って窓から庭へと向かった。

「遊びたい感じでしたね」
「マリウス、何でそんなに冷静なんだよ」
「殺気や悪意は感じなかったので。でも捕まえないと魔力注げないので困っています」
「困ってんの?その顔で?」

ユゼフの突っ込みは無視して、マリウスは夜空を見上げる。
子竜は庭の上空を縦横無尽に飛び回っていた。

「疲れたら降りてくるでしょうか?」
「面倒がらずにさっさと捕まえてこい」

マリウスが言う様に、子竜が誰かに危害を加えるような気配はない。
ならば殺さず、使役してやった方が互いの為だ。
マリウスは魔法を使って空中で子竜の後を追うが、どうやら追いかけっこか何かと思ったらしい。
子竜は彼から楽しそうに逃げ回っている。

「……どうする?」
「あの様子なら大丈夫だろ」
「なんつーか、もっと危険なモノかと思った、っ!」

ユゼフはシグルドとの会話を中途半端に止めた。
クリスティーナがアンドリューと一緒に庭へ出てきたのが見えた。
薄暗い中でも彼女の困った表情は分かる。
庭を通って自分の部屋に連れ込もうとしているのだという下衆な魂胆に、ユゼフの魔力が揺れた。

「シグ、あの馬鹿に遠慮いらねぇよな」
「卵も見つかったし問題ない。地下牢行きだ。陛下から許可は取ってある」

ぐっと背筋を伸ばし、ユゼフは大股で二人へ歩み寄った。
アンドリューに手首を掴まれ、半ば引き摺るように歩かされていたクリスティーナの姿に唇を噛み締める。
殺気も、魔力も、もう隠すことはしなかった。
それでも最低限の礼儀は守る。

「彼女からその手を離して頂けませんか?」
「お前は誰だ?俺が王族だと分かってのことか?」
「先程、貴方の部屋で竜の卵を押収しました。帝国へ、しかも城内に危険物の持込は重罪です。貴方もならご存じでしょう」

アンドリューの目が泳ぐ。

「そして我が国の公爵令嬢への乱暴未遂も罪に加わる。彼女から手を離せ」

ユゼフはアンドリューへ見えるよう、わざと魔力を視覚化する。
立ち昇る炎のような魔力にようやく自分の立ち位置を理解したアンドリューは腰を抜かした。

「シグ、さっさと連れて行け。俺がそいつを殺す前に」
「ああ」

歩けないアンドリューを肩へ担いで、シグルドは闇へと消えて行った。
いつの間にかマリウスや子竜の姿も見えなくなっていた。
追いかけっこを楽しんで、城の外まで出てしまっているかもしれない。

ユゼフは立ち竦んでいるクリスティーナの、掴まれていた手首をそっと持ち上げる。
白い肌には微かに痕が残っていた。

「怖かったな。腕、痛くないか?」
「大丈夫です」

クリスティーナは強張った顔をしていた。

「ユゼ様からドレスを頂いたのに、一緒に夜会へ出席できませんでしたわ。ごめんなさい」
「バーレ公爵からは事前に断りを入れて貰っている。俺も仕事になっちまったし、お互い様だ」
「……ユゼ様」
「なぁ、ティナ。婚約なんぞすっ飛ばして、結婚しよう」
「え」
「これ以上、他の男に横槍を入れられるのは嫌だ。相手次第じゃ俺は敵わねぇ。今回みたいにな」

帝国内なら相手の身分が上であっても跳ね除ける事は出来る。
だが、他国になるとユゼフには使える人脈がない。
文官へ、いずれ宰相になると決めたのは、爵位のない自分でも人脈を広げられるからだ。
人脈が広がれば、それが力になる。
力を持てばクリスティーナを守れる。

武器を持って戦う力ではなく、自分の立ち位置で得られる力がユゼフには必要だった。

「もっとちゃんとした場所で申し込むつもりだった。でも、待てねぇんだ」
「待て、ない?」
「返事が欲しい、ティナ」

そう言われ、ユゼフの武骨な求婚に頷いたと思ったら、あっという間に彼の屋敷へ連れて行かれた。
何故か今、彼同様、飾り気のない寝室のベッドの上に押し倒されている。
クリスティーナは困惑していた。

「あの、ユゼ様?」
「うん?」
「わたくしたち、まだ婚約もしておりませんが」
「明日の書類を出しに行けばいい」

ユゼフの上機嫌な顔に胸をときめかせつつも、クリスティーナは冷静だった。

「家の方に連絡をしなければ心配されると思うのです」
「バーレ家への連絡は頼んである」
「手際が宜しいのですね」
「待てない、と言っただろ」
「こういう意味だとは思ってもいませんでしたわ」

クリスティーナも初めてではない。
今から行われる事が何か分かっている。

ただ、もう少し雰囲気とか考えて欲しい、というのは我儘だろうか。

ユゼフにどう説明すれば分かって貰えるのかと悩んでいたら、寝室の扉からノックの音がした。

「ユゼ様」
「ん?」
「誰かいらっしゃってますけれど」
「……ちっ」

ユゼフは扉の方へ顔を向け舌打ちをした。
往生際が悪いのでわたくしが出ましょうかとクリスティーナが申し出たら、渋々ベッドから降りて、扉へ向かった。

「誰だ?」

家令だと分かったユゼフは扉を開ける。
そこへ立っていたのは家令と、お仕着せを着た侍女が後ろへ控えていた。
侍女は怖い顔をしてユゼフを睨むと、許可も得ず寝室へ押し入った。

「お嬢様っ!」
「あら、ライラじゃないの」

彼女はクリスティーナへ駆け寄った。
ライラはクリスティーナが幼い時から彼女の傍へ付いていた専属侍女である。

「城から出て行かれたと聞いて驚きました。こんな所にいらっしゃったとは」
「心配させてごめんなさい」
「旦那様から今日は屋敷へ戻るよう言付かっております。下へ馬車を待たせておりますから」

ライラはクリスティーナをベッドから立たせて手を引く。

「侍女殿」
「ミュラー様。きちんと手順を踏まなければ話をなかったことにすると、バーレ公爵様からの伝言ですわ」

引き留めようとしたユゼフを一瞥し、ライラは言い放った。
ユゼフは返す言葉もなく押し黙る。

去っていく馬車の背を見て肩を落とすユゼフに、家令はそっと書類を手渡した。

「これは?」
「ライラ殿から旦那様へお渡しするよう預かっております」
「婚約、の書類」
「あちらの署名は入っておりました。義父殿は良い方でいらっしゃいますね」

家令の言葉に頷きつつも、ユゼフは寒気がして身体を震わせた。
クリスティーナを攫って、なし崩しにさせる流れを読まれていたということだ。
今日の騒動――アンドリューの件――についてはある程度、事前に打ち合わせていたが、それでもライラが屋敷へ訪れた早さを考えれば、自分は掌で踊らされているのではないかと怖ろしくなった。

きちんと手順を踏もう、とユゼフが改めたのは言うまでもない。







ユゼフとクリスティーナの婚約が済み、初めて二人で夜会へ出席となった。
王家主催ではあるが小規模の夜会を選んだのは、彼らの婚約に不満を持つ者が多いからだった。
婚約後、ユゼフは軍を辞め宰相補佐官へ職場を変えた。
それについても色々と噂をされている。

クリスティーナの装いはユゼフが準備したものだ。
茶色から金茶色、そして金色への緩やかなグラデーションのドレスに、琥珀を使った大振りのピアスとネックレスは、ユゼフの独占欲を表したものだった。
ユゼフの方も翡翠のピアスにカフスボタンと、クリスティーナの色を身に付けている。

寄り添う姿は、付け入る隙がないと周りに思わせた。

「双剣の狂狼が文官へ転職するとはな。双剣から言葉に武器を変えたか。政においても魑魅魍魎を叩き切ってくれ」

国王はユゼフへそう声を掛けた。

「寛大なお言葉、痛み入ります。陛下のご期待に添えるよう力を尽くす所存です」
「お前には恐いものなどないのだろうな」
「いいえ。私はクリスティーナを失うことが何よりも怖いのです。陛下も同じでは?」
「確かに」

そうして国王は豪快に笑う。

「バーレ公爵が認めただけはある。あの男を負かしたのはそなただけだぞ」
「お褒め頂き光栄です」

国王自らユゼフへ好意的な会話がされたことは、彼にとって嬉しい誤算だった。
クリスティーナも久しぶりの社交で強張っていた顔から緊張が消えていた。
想像でしかないが、バーレ公爵が娘の為に働きかけたのだとユゼフは思っていた。
妻の為に宰相を辞したバーレ公爵だが、未だ政に対しての影響力はある。

国王との会話で表立って悪意を見せる者のいない夜会は、二人にとって快適なものだった。

そして夜会からユゼフの屋敷へ帰った二人は、そのまま寝室へ雪崩れ込んだ。
公爵には外泊の許可を事前に貰っている。

ユゼフは寝室の扉に囲ったクリスティーナへ貪るように口付ける。
段々と深くなる口付けに、彼女の頭は朦朧としてきた。

「ゆ、ぜさま」
「愛してる」
「わたくしはユゼ様だけですわ。他の誰でもない、ユゼ様だけを愛しているのです」
「ティナ」

泣きそうになりながら、ユゼフはクリスティーナのドレスを立ったまま荒々しく脱がせていく。
細い首、豊満な胸、くびれた腰を撫で上げると、彼女の身体が震えた。

軽々とクリスティーナを抱き上げ、ユゼフはベッドへと移動した。
白いシーツの上に広がるブロンドの髪に、ユゼフは目を細めた。
触る事など出来ないと思っていた、羨望の眼差しを向けるだけだった黄金の髪。
そうっと一房持ち上げて口付ける。

「まるで儀式みたいですわ」
「儀式じゃねぇけど。ずっとお前の髪に憧れてた。太陽みたいに輝いていて」
「ふふっ、ではわたくしも」

上半身を起こしたクリスティーナは、同じようにユゼフのダークブロンドの髪――耳の上辺り――へ口付けた。
彼の冷たい雰囲気の顔立ちや切れ長の目は、大人の男らしい色気に溢れている。
元軍人だったこともあり、身体も引き締まっていた。

クリスティーナのお気に入りは、ユゼフの琥珀色の瞳であった。

「なぁ、ティナ。次はもっと大きな夜会へ参加しよう。今度はブラウンダイヤモンドのピアスを贈らせて欲しい。ドレスは琥珀色な」
「まぁ、独占欲を見せつけてるみたい。泣かれる女性も多いでしょうね」

少し嫌みを混ぜて、クリスティーナはユゼフの翡翠のピアスが嵌った耳朶を撫でる。

クリスティーナに出逢う前は、後腐れなく遊べる相手として未亡人や年上のご婦人方を選んでいた。
一度きりの関係ばかりだったが、それなりに楽しんだ。
クリスティーナへ出逢い、彼女を諦めていたユゼフは――自棄になって――娼館へ通った時期もある。
その事をクリスティーナに隠してはいない。

「妬いてくれるのか?」
「ええ」

拗ねたような声色に、ユゼフの口元が緩む。

「俺だってティナの初めての男に妬いてる。殺して跡形もなく消したいぐらいだ」
「あんな男のためにユゼ様が嫉妬することはありませんわ。お父様がもう手を回して、帝国にはおりませんもの」

報復を嫌悪しないで、当たり前のように受け入れる。
クリスティーナはそんな豪胆なところもあった。

デビュタントの時、クリスティーナを目で追っていたユゼフは見ていた。
苛められたご令嬢を叱咤する彼女を。

「貴女は何も悪いことをしていないわ。泣く必要はないの。やられたらやり返しなさい」

それはユゼフの知っている令嬢という生き物ではなかった。
言い方はきついが、間違ったことは言っていない。
いい女だな、と素直に思ったことを懐かしむ。

「はぁ、ほんとイイ女」

ユゼフは自分の服を脱ぎ捨てて、ベッドの上のクリスティーナへ圧し掛かった。
口付けを再開し、掌で柔肌を優しく撫でる。
時々擽ったそうにしながらも、クリスティーナの息は少しずつ上がっていった。

「ゆ、ぜさま」

白い肌が色付いていく。
ユゼフは鎖骨の辺りの肌を強く吸った。
赤い花が散る。

「あ、っ」
「悪ぃ、痛かったか?」
「少し驚いただけですわ。その、初めてだったので」
「初めて……そうか。これな、俺のモンって印。もっと付けてもいいか?」
「遠慮や手加減は必要ありませんわ、ユゼ様」
「ティナの全部、食い尽くしてやるよ」

にっと笑うユゼフに、クリスティーナも自然と微笑みを返した。
ユゼフは遠慮なく彼女の身体へ花を散らしていく。

「ん、わたくし、ばかり」
「俺がしてぇんだからいいだろ」
「でも、あんっ」

胸に喰らい付かれ、クリスティーナの身体が跳ねる。
厚い舌で頂きを舐められ、彼女は髪を乱れさせながら嬌声を上げた。
ユゼフは大きな胸の感触を確かめるように掌で弄ぶ。

「んんっ、はっ」

ユゼフが秘された場所へと顔を近づけると、クリスティーナの矯声が大きくなった。

「やっ、ゆぜさまっ!」
「ん、甘い」
「だめ、だ、めぇ、そんな、あぁんっ」

容赦なく攻め立てられてクリスティーナは息も絶え絶えだった。
その蕩けた顔を見て、ユゼフも限界だった。

「このまま突っ込んでいいか?」
「そんなこと、聞かないで下さいませ」

ドロドロに抜かるんだ彼女の胎へ一気に穿つ。
指で慣らさなくても、クリスティーナはユゼフの猛りを受け入れた。
涙を溜めて浅い息を吐く彼女へ、ユゼフは口付ける。

「夢みてぇ。ティナと一緒になれるなんてな」
「ゆぜ、さま、奥に」
「ティナは奥が好き?」
「はっ、ん、おく、がいいの。ゆぜさまぁ」

快楽に意識が霞んでくる。
そんなクリスティーナを愛おしく想いながら、彼女の要望通り最奥を攻めた。
搾り取られそうなところで、一度抜く。

「想像以上でやばい」
「え?あんっ」

うつ伏せに転がされ、腰だけ上げさせられたクリスティーナは、それでもされるがままだった。

「これ、恥ずかしい、ですわ」

彼女の抗議は聞き流され、ユゼフは後ろから密壺を抉った。
初めての快感に、クリスティーナは背中をしならせる。

「はっ、んーっ」
「獣の交尾みたいでいいだろ。ああ、ティナの綺麗な背中が良く見える」
「やぁっ、ゆぜ、さま。これ、おかしくなりそ」
「おかしくなれ、ティナ」

後ろから貪られ、クリスティーナは遠くから自分の喘ぎ声を聞いていた。
理性はとうになく、本能だけでユゼフを受け入れていた。
激しい動きに、クリスティーナの意識は所々飛んで、それでも快楽だけは拾っていた。

「最初の男にはなれなかったが、最後の男にしてくれよ」
「ゆぜさま、だけ、ああっ」
「ぐっ、あんまり絞めるな」
「もっと、欲しい、の。ゆぜさま、の、さいごの女にしてぇ」

叫ぶようなクリスティーナの願いに、ユゼフの欲望は爆ぜた。
荒い息を吐いて、彼女の奥へ放つ。
そして搾り取ってなお、クリスティーナは強請った。

「ゆぜさま、して」
「煽るな、止められなくなる」

何度か自分でしごいたユゼフは、仰向けのクリスティーナの片足を肩へかけて、ゆっくりと埋めていく。

「んっ、まだおっきい」
「それも男を煽る台詞」
「ゆぜさま、だけぇ。ゆぜさまじゃなきゃ嫌なの」
「俺もティナだけだ。愛してる」

甘い言葉を吐くなど、自分自身が信じられない。
性行為は欲望を満たすためで、それ以上でもそれ以下でもなかったユゼフだ。

「俺だって、ティナじゃなきゃダメなんだ。離れるなんて絶対許さねぇ」

本気で惚れた相手には、恥ずかしい台詞も恥ずかしくない。
束縛されるのも嫌だったが、クリスティーナならむしろ嬉しい。
ユゼフは腰を打ち付けながら、睦言を紡ぐ。

その晩、クリスティーナの希望どおり明け方まで絡み合った二人は、日が昇ってくる時間にようやく微睡んだ。







クリスティーナが目覚めた時、ユゼフの腕の中へいた。
それだけでも驚いたが、何より未だ自分の胎にユゼフがいたことに驚愕した。
気持ちよくされて意識を飛ばしていたので、どれだけ中へ出されたか覚えていない。
一回、二回という回数ではなかったと思う。
ユゼフは絶倫という部類なのだとクリスティーナは確信した。

ユゼフの寝顔を眺めるのは初めてで、クリスティーナはそっと彼の前髪を耳へ掛ける。
穏やかな寝顔は彼を少し幼く見せた。

「んんっ、てぃな」
「おはようございます、ユゼ様」
「おはよ」

舌足らずなユゼフにクリスティーナは胸をときめかせる。
それがダイレクトに彼女の下腹へ影響し、ユゼフを覚醒させた。

「俺の婚約者は朝から積極的だな。まだ搾り取る気か?」
「あ、ユゼさま、その……何で大きくなって」

クリスティーナの内を圧迫していくものに、彼女の身体が震える。

「朝起きて、可愛い婚約者が全裸で目の前にいたら男は皆こうなる」
「あん、や、ゆぜさま」

背中をしならせ、無防備に晒された白い喉をユゼフは舐めた。
本当は噛み付きたかったが、さすがにライラに怒られると理性が働いた。
横向きだった身体を仰向けにし、クリスティーナの身体を自分の上へ乗せる。
そうして、腕の力だけで彼女の上半身を持ち上げた。

「ゆ、ぜさま?」
「やってみたかったんだ」

ユゼフは繋がったままクリスティーナの腰を持ち上げて一気に落とす。

「ひ、ああーっ」

カーテンの隙間から入り込んでいる光で、彼女の姿は良く見えた。
何度か腰を上下させれば、金色の髪を煌めかせながら、彼女はあっという間に気をやった。
ぐったりとした彼女はそのままユゼフの鍛え上げられた身体へ身を寄せる。

「今日はお仕事ではないのですか?」
「公爵に外泊の許可貰ってたからな。今日は休むと宰相には言ってある」
「宜しいのですか?」
「ああ、補佐官は俺だけじゃねぇし」

宰相補佐官になって分かったことがある。
かなり忙しく、軍人でいる時よりも仕事量が多い。
新人が口を挟むことではないが、いずれ宰相になるつもりのユゼフは早めに組織改革をするつもりだった。

ユゼフは仕事の事を頭から追いやる。
せっかくの休日に考えることではない。

「ティナ、今日はゆっくり過ごそう」
「はい。中庭で一緒にお茶をしたいですわ」
「うーん、俺もしてぇがティナは歩けないんじぇねぇの?」
「え?」
「腰と太腿は動かねぇと思うぞ」

目を瞬かせる彼女をベッドの上へ立たせてみる。
クリスティーナの身体は、そのままベッドへ逆戻りになった。
ぺたんと座り込んだ彼女にユゼフは苦笑する。

「俺が手加減しねぇとティナはこうなっちまうってことだよ」
「せっかくユゼ様がお休みですのに」

クリスティーナは大きな瞳を潤ませる。
焦ったユゼフは、その日一日、クリスティーナを抱えて屋敷を移動することとなった。
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