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◇出逢い編

◇理由*浩人

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 もうあの日から、一切、反応してくれなくなった。

 何だろう。
 ……類、何が、そんなに。


 今までの拒否とは明らかに違う。
 話しかけ続けたら、無表情の上に、更に分厚い殻に包まれていってしまいそうな気がして、話しかけられなくなってしまった。

 ――――……でも、気になって気になって。
 類の事しか、考えられなくなってたけど。

 類は、もうオレの声に反応するのをやめたみたいで。

 どうしていいか、分からないまま。
 部活の体験にも仕方なく参加して、本入部したら、毎日のように部活があって。

 類とは全然絡めなくなって、2週間位が経過した。
 その間に、席替えがあって、席も離れてしまったせいで、余計に話すきっかけがない。

 何で、あんなに、頑ななんだよ。
 ――――……なに、絡まない方が良いって。

 どんな理由があったって、類と絡まない方がいい、なんて結論になるとは思えないのに。

 悶々として過ごしていたのだけれど。


 ある日、急に、理由を知った。


◇ ◇ ◇ ◇


 桜木って、男が好きなんだって。


 あるクラスメートが、そういえばさー、とか言って、軽く話し出した言葉が、それだった。へーーー?と周りが面白そうな顔をする。

「まあ顔綺麗だし、そっち系っていわれてもべつ――――……」

 そんな軽口を叩き始めたクラスメートを、思わずヘッドロックして、黙らせる。

「……つか、何それ」

 自分の周りの空気が、凍ってるのが、自分でもわかる。
 多分、周りにも伝わってる。

「――――……それ.誰が言ったの?」

 ふざけて返事をしようとしてたであろう周りが、オレの声に、固まってるののも分かる。ヘッドロックで黙らせた奴を、そこで離した。

「……桜木と、同じ中学の奴」
「誰」

「……3組の、藤木」
「分かった」

「……え? 行くの?」
「確認してくる」

「藤木知ってんの?」
「知らないけど呼び出してもらう。つか。そんな確かじゃない噂、広めんなよな」

 振り返り、視線を強めてそう言うと。
 おお……悪い……と、頷いた。それを確認して、オレは教室を後にした。


 すぐに3組に行って、藤木とやらを呼び出した。
 女だった。

「……急に呼び出してごめん。あのさ、桜木の事なんだけど」
「――――……う、ん……」

 オレの顔が怖いのかも。
 ……強張ってる。

「……藤木って、何を知ってんの?」

「……中学の時……元々桜木君て、あんまり人と付き合わない人で。でも、1人の男の子だけは、すごく仲良くて、同じ陸上部でいつも一緒で……」
「――――……」

「……中3の時、その子が、桜木くんに告白されたって事を言いふらしたみたいで……学校に広まって……」
「――――……」

「……桜木くんを直接虐めたりからかったりする人はいなかったんだけど……皆が、遠巻きに、見てる感じで。その、仲良かった子とも、完全に縁を切っちゃったみたいで……」

「――――……知ってるのは、それだけ?」
「え。 あ、うん」

「――――……桜木が告白したっていうの、確かなの?」
「……噂だから……」
「確かでも、ないって事?」

「で、も――――……その友達とも絶縁してたし……あってるんじゃないかなって……」

「ふーん…… それ、何で、他の奴に話してんの?」
「――――……佐原君だよ」
「え?」

「遂に、佐原くんも話しかけなくなったって、1組の子が言ってて。その……話の流れで――――……つい……」

 ……は。オレかよ。
 オレのせいでこんな話が広まってんの? ……ふざけんな。


「――――……確かでもない噂、広めるの、やめてあげてくれる?」
「……ごめんなさい」

 もうこれ以上話す事もなくて、じゃ、と立ち去ろうとしたら。


「っ佐原くん」
「え?」

「……っごめんなさい、もう、言わないから。あと、話した人にも、確かじゃないって、いっとくから」
「――――……うん。頼むね」

 そう言ったら、少しほっとしたように、頷いた。
 多分、悪気があったんじゃないとは思うけど。

 でも、すげームカついてる。


 遠巻きに見てたって。
 それ、直接虐めてるのと、何も変わんねえから。

 ――――……唯一仲良かった、好きだった奴と、そんなになって。
 まわりからも離れて。

 ……それで類は、あんなになったのか?
 ――――……誰とも、仲良くしない、とでも、決めてんの?

 誰の事も、信用もしないし、好意も持たないで、生きてくのか?

 で、話しかけた奴に、迷惑かかるからって、絡まない方が良いって、言って、遠ざけて?


 ずっと1人でいるつもり?


 信じらんねえ。

 教室に帰る気がしなくて、トイレの鏡の前に立つ。
 ……すげー荒れた顔、してんな、オレ。

 自分で言うのも何だけど、大体いつもへらへらして、そんな強い感情も沸かずに、生きてきたのに。


 ムカムカと、イライラと、モヤモヤと……。
 とにかくもう、全ての負の感情に、吐き気がする。

 しばらくしてトイレから出て、教室のドアをがらっと開けると、もう授業が始まっていて、皆が一斉に振り返った。
 さっきまで話してた奴らが、あ、帰ってきた、とちょっとホッとしてるっぽいのが分かる。

「先生、すみません」
「何してたんだ、佐原」

「腹痛酷いんで、保健室行ってもいいですか」
「腹痛? あーいいぞ。保健委員誰だ?」

「トイレも行きたいんで、1人で行きます」
「おー? 大丈夫か?」
「大丈夫です」

 窓際の類が、ちら、とオレを見たのが分かる。
 一瞬、見つめあった。


 その一瞬で。
 胸が、震えた。

 久しぶりに――――……目が、あった。
 けれど、すぐ逸らされて。



 オレはすぐ、教室を出て、保健室に、向かった。



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