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17.「人助け」
しおりを挟む「んーと……やっぱり、オレ一人で平気だよ?」
ヒロくんが苦笑しつつ、小さめの声で、僕たちを振り返ってくる。
「でもこないだみたいに突き飛ばされたりしたら心配だし。ついてくだけにするから」
「三人も来なくても……」
と笑うヒロくん。あきくんが、「いーからいーから」と笑って押し切っている。
角を曲がって、少し歩いた時だった。
塀に寄りかかって座って俯いてる人が居た。
「え」
気づいたヒロくんはためらわず近づいて行って、「大丈夫?」と声をかけた。
「……大丈夫だよ、ありがとう」
年配の男性。ヒロくんに気づくと、ゆっくりとした動作で、顔を上げた。
「おじいさん、どうして座ってるの? 具合悪い?」
「少し具合が悪くなって休んでたんだ」
そうなんだ、とヒロくんがしゃがんだ。
「……救急車とか、呼ぶ?」
「救急車は、大丈夫かな……ちょっと胸が苦しかっただけだから」
「歩けるの?」
「少し休めば大丈夫だと思うんだけど…………君は、電話を持ってるかい?」
「持ってるよ。子供携帯だけど……」
「知り合いを呼びたかったんだが、充電が切れてしまってて」
「いいよ、かけてあげる。番号は?」
ヒロくんが言うと、そのおじいさんは、財布から一枚の名刺を取り出した。
「この番号にかけてくれる?」
「うん」
ヒロくんは、電話をかけてあげてる。その様子をすぐ近くで見守りながら。
「なんか……しっかりしてるよなー、ヒロって」
「そうだね」
「優しいしね」
「そうだね」
あきくんと姫ちゃんの言葉に、うんうん頷く。
なんだかちょっと、「僕のうちの子」と、誇らしい気がするのはどうしてかな? こんな気持ちも、初めて。
見守ってる僕たちの前で、電話を終えたおじいさんが、携帯をヒロくんに返した。
「ありがとう。二十分位で来れるみたいだよ。車で来てくれるって」
「そうなんだ。おうち遠いんだね」
「家じゃなくて、病院から来るんだよ」
「お医者さんを呼んだの?」
「二十分くらい先のところに、武田病院っていう大きな病院があること、知ってるかい?」
「うん、知ってる」
「そこにいる人が来てくれるんだよ」
「そうなんだね……二十分かぁ……」
ヒロくんは、きょろ、と周りを見回すと。
おじいさんの横に、すとん、と座った。
「その人が来るまで、一緒に居るよ」
「……いいの?」
「うん」
「遊びに行く用事があったんじゃないのかい?」
「うーん……いいや。もう、明日にする」
ヒロくんが携帯の時計を見ながらそう言った。
「武田病院ってね」
「うん?」
「オレ、こないだ入院してたんだよ。頭打っちゃって」
「――」
「……?」
おじいさんの返事がなくて、ヒロくんは、ん? とおじいさんに視線を向けた。
「……どしたの??」
ヒロくんの顔を見ていたおじいさんは、あ、いや、とつぶやいた。
それでも、じっと、ヒロくんを見つめていた。
「なんかついてる??」
ヒロくんは不思議そう。そのまま僕たちの方を見て、首を傾げて見せる。
僕が、何もついてないよ、と言うと、ヒロくんはまた、おじいさんを見た。
「……名前を聞いてもいいかな」
「ヒロだよ」
「……ひろってどんな漢字?」
「太陽の陽と、道路の路。明るい路って意味だって」
「――とても、いい名前だね」
おじいさんはようやくヒロくんから目をそらして、少し俯いた。
「……具合、悪い?」
ヒロくんが心配そうに聞くと、おじいさんは、大丈夫、と言った。
「……陽路くんのお父さんて、どんな人?」
「お父さん? 何で??」
ヒロくんはちょっと笑いながら。
「えーと……オレ、似てるって」
「顔が?」
「顔もだけど、性格? お母さんが、お父さんにそっくりって言って、笑うから」
「そうなんだね……いいね、幸せそうだね」
「あー……でも、お父さん、入院してて」
「入院?」
「うん。退院したり入院したり。……なんか難しい病気なんだって」
「――」
そんな個人的なことを、会ったばかりのおじいさんに話すのはどうなんだろうと少し思いながらも。
なんだかおじいさんのヒロくんを見る目が、優しいから。……今は大丈夫かなと、思いながら。僕とあきくんと姫ちゃんは、ヒロくんたちが寄りかかってる塀の上に並んで座って、二人を見下ろしていた。
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