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第四章

12.「分からない」*真奈

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「真奈……」

 静かな声で呼ばれて目が覚める。
 声のした方を見ると、俊輔がもうすっかり身支度を整えて、ベッドの端に腰かけていた。

「起きれるか?」
「うん……おはよ」

 朝、俊輔に起こされるのが、初めてかもしれない。
 いつも、目が覚めると、俊輔は居なかったから。

「真奈」
「……うん?」

 体を起こして、俊輔を見つめる。
 ……昨日、オレだけイかせて、何もしないで寝ちゃったんだよね。
 何がしたいんだろう……ほんとに。

「起きてるか?」
 ぼうっとしたオレに、ふ、と少しだけ笑った俊輔に、なんだか焦って、「ぁ、うん」と頷くと。また額に手が置かれる。

「……熱は、無いな」
 何だかホッとしたように息を吐く。

「真奈、今日、和義と一緒に自分のマンションに行って必要なもの、全部持ってこい」
「……必要なもの?」

「大学に通うのに必要なもの、全部。服とかも、着なれてるものとか、とにかく全部、持って来いよ?」
「――――……大学……?」

 俊輔の顔をマジマジと見つめてしまう。

「診てもらってる医者に、診断書作って貰った。それを持って、和義に大学に行かせて……まあ、色々とさせたから。各教授、レポートの提出とか色々条件つきのもあったが、それをすれば、今度の学期末の試験さえ受かれば、休んでた分はチャラにできる」
「……そんなこと、出来るの……?」
「詳しいことは言わねえけど。できる、とだけ言っとく。初授業の時、その条件は、自分で教授に聞きに行けよ」
「……うん……」
「通うのは体調戻り次第で良いけど、車で和義と行って、荷物をこっちに運び込んどけ。オレの部屋の本棚、空けるように和義に言ってあるから、持ってきた量に応じて自由に入れていい」
「――――……ん」

 何だかついていけなくて、ただ頷いていると、俊輔がオレの顎に触れて、上向かせた。

「聞いてるか?」
「うん……聞いてる」

 見つめ合って頷くと、触れた俊輔の手が離れる。

「体調良くなかったら荷物行くのも、別の日にしろよ」
「……うん」

 立ち上がった俊輔が「じゃあな」と言って歩き去ろうとした時、咄嗟に。

「いってらっしゃい」

 そう言ったら、俊輔が、ふ、と振り返って、何とも言えない顔をして。

「……あぁ」

 そう一言だけ。頷いて、部屋を出て行った。

 …………いってらっしゃいって。
 ……変、だった??
 
 何だかびっくりした顔を見ていたら、そう思って。
 もう一度、ベッドに転がった。

 ……えっと……。
 ――――……大学、行って良いって。

 ……色々したって言ってたけど……何したんだろう……。
 あど西条さんに聞いてみよう……。


 ……大学、行って良いんだ。
 …………それって、自由に外に行って良いってことだよね?

 あ。そうか。……自分で戻ってきたからかな。
 逃げないって……思ったってことなのかな??

 何だか色々良く分かんないけど……。 
 学校行けるのは、嬉しいけど……。


 ……昨夜のことも合わさって、なんだか全然。何がしたくて、オレにどうさせたくて、ここにいさせたいのか。
 よく分かんない……。
 




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