【恋なんかじゃない】~恋をしらなかった超モテの攻めくんが、受けくんを溺愛して可愛がるお話。

星井 悠里

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◇2人の関係

「逃げンな」*玲央

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【side*玲央】


 何で、逃げるんだ。

 皆の前で居辛くなったのは分かるけど。
 食堂の外で、オレが名前を呼んで振り返った時は、そこで止まるもんだと思ったのに。

 猛ダッシュで消え去るって……。
 しかも、意外な程に速い。

 クロの所に行ってくる。さっきそう言ってたから、行き先は分かってるけれど。
 優月に逃げられたという事実が、ムカつく……というか。ショック、というのか。

 辿り着くと、優月がベンチに座って、頭を抱えていた。息を整えようとしているらしい。近づいて、その手首を掴んだ。

「優月」

 名を呼ぶと、優月が、驚いたような顔で、見上げてきた。

「れお……」
「――――……っ……お前、何、その全力の脱走……」


 とりあえず、手首を取って、もう逃げられないようにして。
 ――――……はあ、と息をついた。


「……つか――――……お前、何で逃げンの」
「……っ」


 何で、オレから逃げたりするんだ。
 じっと見つめて、そう言うと。

 すごく、必死な顔で、じっと、見つめ返してくる。


「優月……?」


 返事をしないその頬に触れると。
 ほっとしたように顔が緩んで。心なしか、ほんの少しだけ、オレの手に、すり、と触れてきた。
 手に触れた頬の感触が――――……何とも、言えなくて。


「逃げたくせに――――……なんでそんな、見ンの?」
「……嫌で……逃げたんじゃ……ない、から……」


 答えを考えながら言葉を紡ぐ、優月。


「――――……」


 優月の頭の後ろに手を回して、引き寄せて、キスした。 
 唇を重ねたら。すぐに、唇が、ふ、と開いた。

 優月と過ごす間に、口開けて、と何度も言って。
 何度もキスした。

 ちゃんと、覚えてて、ちゃんと自然と、受け入れた優月が。

 ――――……なんでだか……すごく、可愛い。


「……っ……っ……ふ……」

 優月の声が漏れて。少し、唇を離した。


「――――……何で、逃げた?」


 頬に触れて、親指で、唇に触れると。

「……っ……なんか恥ずかしくて……」

 言いながら、かあ、と赤くなる。


「んな事だろうと思ったけど……も、逃げンなよ」


 ちゅ、と唇を押しつけて、もう一度キスする。


 ……逃げるな、なんて言葉。
 ――――……人に、初めて言ったかも……。

 つか…それよりも。


「――――……オレ、こんな風に人追いかけたの、初めてかも」



 こんなに、必死な気持ちで。
 逃げた奴を追いかけるなんて。

 我ながら、らしくなくて、思わず笑ってしまう。
 なのに優月は何を思ったのか、少し俯く。

「……ごめんね?」
「別に。謝れって言ってるんじゃない」

 ぽん、と頭を撫でると。

 ふっと気づいたように、優月が見上げてきた。

「あ……玲央、食事は?」
「ん? ああ……今はいい。3限が休みだから、そこで食うから」


 そう言うと、優月はそっかと頷いてる。

 ――――……もうすぐ昼休み終わるか……。


「……優月、今日予定は?」
「4限までで、そこから絵の先生のとこに行く」
「絵?」
「うん。オレ、絵、描くの好きで」
「習ってんの?」
「うん」

 絵、か。
 ――――……なんか、似合うな。描いた絵、見てみたい気がする。


「……何時まで?」
「分かんない。先生次第ていうか、キリのいいとこまで……」

「ふーん……」


 その後、会えるかと思ったけど――――……。
 今日は無理か……。
 そう、思ったのだけれど――――……。

 3限の予鈴が鳴った。

「あ。……行かないと」
「ああ」

「また、ね?」と、離れようとした優月に。


「今度会った時は逃げんなよ」


 思わずそう言ってしまってから、苦笑いが浮かんでしまう。

 ――――……どんだけ、優月に逃げられたくねーんだ、オレ。


 離れようとしてる優月に、なんだか名残惜しくなって、キスすると。
 すると。何でだか、また、優月がかあっと、赤くなる。

「何で、この位のキスで、また赤くなンだよ?」

 オレがそう言うと。


「なんか、別れ際にするとか……恥ずかしいなって思って」
「――――……」

 そう言われると。

 ――――……確かに名残惜しくて、したんだけど。
 名残惜しいから、それをしたというのは、なんだかすこし照れくさい。
 つか……柄にもない、としか言えない。

 何も言わないでいると。

 
「……行くね」

 優月が、そう言って、オレから離れた。

 その後ろ姿を、見ていたら。自然と、名を呼んでいて。
 振り返った優月に。


「――――……絵、終わったら、電話して」


 オレは、そう言った。


 ――――……何言ってんだ、オレ。
 咄嗟に、そう思ったけれど。


「え。でも……遅いかも……」
「別にいい」


 優月と、昨日から今朝まで、一緒だった。

 ――――……続けて誰かと会うなんて、最近は無い。

 あまり会うと、勘違いさせるってのもあるし、面倒だし……。

 なのに。


「うん、分かった」


 嬉しそうに笑って頷いた優月の後ろ姿を見送って。
 なんだか気持ちが上向いてる。


 優月の姿が見えなくなってから、いつもの学食に向かい、昼を済ませた。

 今日、午前中は一度もスマホを見ていなかった事に気付いて、何となくスマホを見ると、色んな誘いが並んでいた。



「――――……」


 ――――……しばらく眺めて、ふと息をついて。
 テーブルにスマホを、置いた。


 なんか。
 ……今。

 ――――……オレが、触りたいのは、優月かも……。


 ……何でこんなに?
 ……最後まで、してねえから……??


 つか、そもそも、最後までしてないっていうのが、意味が分かんねえし。



「――――……」


 頬杖をついて、並んだメッセージを、スクロールして。
 画面を閉じて、何となく、裏面にして机に伏せて。



 何だか良く分からない感情に。
 ――――……ふ、と、息を、ついた。





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