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◇そばに居る意味

「可愛いって」*優月

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「あ。お前らとこんな話してる暇はなかった。優月、行こうぜ。練習始まる」

「あ、うん。玲央、何でここに来てくれたの?」

「待ち合わせ場所に居たんだけど来ないから、ここに寄ってから来るかなと思って、逆走して迎えにきた感じ」
「あ、そっか。ごめんね、遅くて」

「良いよ。それにクロ居なかったし。また今度にしよ」
「うん」

 必要な事を話し終えて、智也と西野君に視線を戻すと。
 なんか、2人とも、さっきの天変地異の話のままの表情で、クスクス笑ってる。

「……じゃあな。天変地異の被害に遭わねー内にとっとと帰れよ」

 玲央が何だか嫌味たっぷりに、そう言うと。

「そーしまーす」

 と西野君。

「とりあえず、明日のライブがんばれよー」
「西野、来る?」
「明日は行けないんだなー。次行くから泣くなよ」
「泣くか」

 ……うん。なんだかんだ、すごく仲良さそう。
 ぷ、と笑ってしまうと、そんなオレを見てた智也と視線が合う。すると智也もふ、と微笑んだ。


「また来週な、優月」
「うん。またね」

「優月はそのライブって行くの?」
「遅れて、少し行くかも」

「気を付けろよ? 初の場所で、ぼーっとしてんなよ?」
「ん」

 いつまでも何だか「お兄ちゃん」な智也に笑いながら頷く。すると。

「…うんうん、なんか、玲央が可愛いとか言ってるの、分かってきたかも。てか、村澤もめっちゃ可愛がってるだろ」

 そんな風に西野君に突っ込まれ、智也が、うわー、という顔で嫌がった。

「神月の前でそーいう事言うなよ、誤解受けるだろ」
「ん? ……あ、そうか」

 智也と西野君が固まってるけど。

 玲央は、そんなので誤解もなにも……?
 と、ふと、玲央を見上げると。
 なんか面白くなさそうな玲央に、ぴた、と固まってしまう。

「ほらー……神月って結構ヤばそうだよな……」
「……やばいって、さっきの可愛い可愛い言ってる時の玲央って、もうほんと別人だから……クールな奴ほどこうなると怖いのかも……」

 こそこそと、2人が言ってるのを聞きつつ、誤解? 何か言うべき? どうしよう、なんて言おうと思っていると。玲央と仲が良いからなのか、メンタルが強いのか、西野君がすぐ復活して、普通に話しかけてくる。

「オレ、とにかく玲央がこんな甘やかしてるの初めて見た。今度会ったら優月に話しかけるから、オレの事、覚えといて? 優月って呼ばせて。オレ、稔で良いからね?」

 優月って呼ばれた。 ……稔で良いと言われた。
 こちらは何て返そうかと思っていたら、玲央がオレの腕を掴んで、少し自分の方に引き寄せる。

「覚えなくていいぞ、優月。 あ、飯も行かなくていいからな」
「それはオレが、楽しく勇紀達と優月と村澤と行くんだよ、邪魔すんな」

「はー? 何言ってんのお前」

 ……完全に優月って呼ばれてる。
 玲央と西野君は、仲良いと思うんだけど……。
 ……きっとずっとこんな感じで、喋ってるんだろうな。これはこれで、きとすごく仲いいんだと思うけど……。

 智也はクスクス笑って、「いいよ、オレはいつでも」なんて言ってる。
 玲央が、「村澤は勝手に行けば良いけど、優月は行くなよ?」と言うので、ん、と苦笑いでやり過ごす。


「じゃあね」

 何だか気分的に、「やっとのこと」で、2人と別れた。
 歩き出してすぐ、玲央がクスクス笑い出す。

「迎えに来たら、さっき優月の事話したばっかの稔としゃべってんだもんな……ちょっと驚いた」
「最初、ゆづきくん?て話しかけられたよ? 智也が同じ学部の奴って教えてくれたから、なんとか話せたけど……」
 そう言いながら、クスクス笑ってしまうと。

「まあ、村澤が居たからどーにかなると思って話しかけたんだろうけど」

 玲央がまだおかしそうに笑いながら、頬にまた触れてくる。

「にしても、真っ赤すぎだから、優月。オレ居ないとこで、赤くなんなよ」

 そんな風に言われて、ちょっと納得いかない。

「じゃあオレの居ないとこで、可愛いとか、名前がどうとかさ……オレ、知らない人から急に、玲央がそう言ってるってびっくりだし……」

「名前って?」
「……ぴったりとか、優しいとか、言った……?」
「ああ、それか。ん、言った。稔に、優月の漢字を説明してたら、なんか急にそう思って」
「……ていうか、玲央、可愛いとかさ……恥ずかしいんだけど……」
「そうか?」
「そうだよ……」

「可愛いからいーじゃん」
「…………っ」

 ほんとにもう。玲央、どうなってるんだろ。
 何でオレがそんなに可愛いの?
 玲央だから嬉しい気もしてしまうけど、謎すぎて、むー、としたまま俯いていたら。


「……なあ、優月?」

 なんか、声の調子が変った。

「え?」

 謎すぎて俯いてた事とかも忘れて、玲央を見上げると。
 何だか、ふ、と笑いながら視線を流されて、どきんとする。

「後ろ、平気?」

 少し口を耳の側に寄せられて、囁かれる。
 一瞬何か分からなくて。

「ん?」

 と言った直後。 意味が分かってしまった。
 ……また真っ赤になるしかない。

「――――…………っっっっ……」

 玲央は、ぷ、と笑って、オレの頭を撫でてくるけれど。


「……もうオレどこかの血管の負担が大きすぎて、倒れちゃうかもよっ?」

 もう無理……!
 叫んでたら、玲央が可笑しくてたまらないと言った風に笑い出して。

 もう知らないし。
 恥ずかしさを紛らわすために、怒っていたら。


「優月ー来たんだー」

 と、笑顔の勇紀が現れた。


「っつか、うわー、玲央がそんな風に楽しそうだと、ちょっと引くなあ……」
「……うるせーし」


 玲央が、鋭く低い声で返してる。

「なんか優月、顔赤いね。はは、可愛いー」

 ……っ……だから何でだろう。
 何でオレ最近、可愛い可愛い言われてるんだろうか。

 これまでの人生の分、全部足しても、他人にこんなには言われてないし。

 20才間近の男が、可愛い言われて、なんて返すのが正解なのかな……。
 うう……返せる訳ない。むりむり。


「優月行くよーこっちだよー」
「ぁ、うん」

 玲央と勇紀が少し先で振り返ってる。勇紀の声に返事をする。
 ――――……こっちを見て、ふ、と笑んでる、どこからどう見てもカッコいい人を目に映しつつ。

 ……何で、玲央は、可愛い可愛い連呼するんだろ。
 ――――……可愛い人、キレイな人、散々近くで見てきたと思うんだけど。

 とにかく、玲央の可愛いは、加減してもらおう、恥ずかしいから。
 ……せめて、友達に言うのはやめてもらおう、すごく死ぬほど恥ずかしいから。

 可愛いでハードル上げた後に、じっと見られるとか、もう絶対罰ゲームみたいだよう……。


 そんな風に思いながら、2人のもとに向かって、歩き出した。





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