一目惚れなんてしてないってば!

星井 悠里

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第一章

第7話

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 家から河原に出て、遊歩道を歩いていけば、二十分くらいで高校に、たどりつく。
 よく遊んでた河原の道を毎日歩いて通えるのも、なんか楽しい。

「いい天気で良かったね、翠」
「うん。ほんと」
「お父さん、昨日もずっと入学式出たかったって言ってたよ」

 クスッと笑う母さんにちょっと視線を向ける。

「父さんは多分、スーツの母さんと写真撮りたかっただけじゃない?」
 オレの言葉に、母さんは苦笑してる。

「でも、翠の晴れ姿も見たかったと思うよ? ずっとこの高校に入るって言ってたけど、偏差値七十だから、難しいなあって思ってたから。ほんと、よく頑張ったよね」

 ん、とオレは頷いた。

 確かに。去年はほんと、勉強死ぬほど頑張った。
 いろんな意味で、神陵が良かったんだよね。進学校で校則自由っていうのとか、進学先も良いとか、行事が全部全力投球ですごく楽しそうとか、そういうのもあったけど。
 歩いて通えるっていうのが、ほんと良かった。電車に乗ると、変な奴が寄ってくることが多かったから。中学の部活の試合とかで混む電車に乗る時は、仲間が周りをガードしてくれてた。マジで大げさじゃなく、オレの顔はいろいろな奴を引き寄せてしまうらしい。
 今って、性別関係なく好きならいいとか、とにかく差別無く寛容であろうみたいな感じではあるし、それは別に否定はしない。でも、自分を入れて考えると、いろいろそうじゃないって思うとこもある。顔が可愛いからとか、男にしては小さいからとか。そんなので好きになられるのは違うと思う。

 一目惚れしそうとか、顔、超可愛くて好き、とか。同年代だけじゃなくて先輩とかにもよくからかわれたけど。ありえないっつの。やっぱり、人間、大事なのは外見とか性別とかより、中身だよね。

 中身も鍛えないと。とりあえず、オレの悪いとこは、すぐ涙が出ちゃうとこだな。人前では泣かないように頑張ってるけど。感動ものとかも弱いし。……って、これは絶対父さんに似た。くそー、似てほしいところが完全に、逆なんだよな。

「あ、お父さん、翠にちゃんと言った?」
「ん? なにを?」
 そう聞くと、母さんは、ふふ、と苦笑を浮かべた。

「言ってないのね。昨日考えてたのに――あのね、高校生活で出会う人は一生の関係になることも多いから。楽しんでね、って言ってたよ」
 その言葉を聞いて考えてから、オレはクスクス笑ってしまった。

「それ、中学ん時も聞いたし。父さんは、そもそも母さんとの出会いのこと、言ってるんでしょ?」
「んー、それもあるかもだけど、でも、高校の友達は、今も仲良い人多いからね」

 そうは言うけど――父さんの一番の「一生の関係」は、やっぱり母さんなんだろうし。

「父さん、高校の時に、母さんに一目惚れしたとか、たまに言ってるじゃん」
「んー、まあ、そうね」
「父さんには言ってないけど。オレ、一目惚れって信じられないんだよね。顔ってことでしょ?」
「まあ、そうね、一目惚れって言ったらそうかも」

 母さんはクスクス笑ってる。

「でも、それからずーっと居たから。一目惚れだけじゃないって分かるでしょ?」
「父さんのは分かってるよ。でもオレは男だし。やっぱり一目惚れとかは、無理かな……」
「まあ、言ってることは分かるけど」

 母さんが、苦笑いしつつ、オレを見つめる。

「翠、可愛いからなぁ。テレビに出てるアイドルより、よっぽど可愛いもんね」
「それって、もしや自分を可愛いって言ってる……?」
 思わず聞くと、母さんは笑いながら首を横に振った。

「違うのよ、なんか、翠はほんと、素直でピュアで可愛いから。余計に可愛く見えちゃうのよね」
「――ピュアとか言われるの、かなりやだけど」
「ほら、母さんは、全然ピュアな訳じゃないから、お父さんはきっとすぐ、顔と性格の違いには気付いたはずよ? お父さんの方がよっぽどピュアだからね」

 クスクス笑う母さんに、苦笑してしまう。確かに母さんは、かなりさばさばしている。顔に反して、結構男らしいし。うちで強いのは、父さんよりも、母さんだ。見た目で言ったら、カッコいい父さんが、可愛い母さんを守ってるって思われてるんだろうけど、実際は逆だもんな。

「父さんの一目惚れは、正直異次元だよ。何十年続いてんの」

 ちょっと呆れながら言うと、母さんは苦笑してる。

 そんな話をしていたら、高校の入り口が見えてきた。正門前、入学式と書かれた看板の前に、皆が並んでいる。オレたちも並んで、母さんと一緒に写真を撮った。
 その後は、生徒は下駄箱から教室に行くことになり、保護者は体育館で待つことになった。別れ際、母さんが笑う。

「翠。良い友達、出来るといいね。あと、私は式が終わったら先に帰ってるから」
「ん、分かった」
「いっぱい楽しんでね。大事な三年間。いろんなこと、精一杯頑張って」
「うん」
 頷くと、母さんは、ふ、と笑った。

「一目惚れもね。ありかもしれないよ? お父さんと母さんたちみたいに、一生居ようって人に会うかもしれないし」

 綺麗ににっこり微笑まれて、一応頷きながら母さんと別れた。

 でも心の中では。再確認。
 絶対、一目惚れなんてありえない!
 オレは、もっとゆっくり恋したい。って、別に、恋だけじゃない。

 部活も勉強も、全部、納得いくように、頑張るんだ。




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