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第一章
第8話
しおりを挟むワクワクしながら、昇降口でクラス分けの表を確認して、一年一組の下駄箱で上履きに履き替える。階段を上って一年の教室の階にたどりついた。
クラスに向かって歩いていると、女の子たちの声が聞こえた。
「見た見た? ちょーカッコいい!」
「ねー、ほんと」
オレを通り過ぎていく、小走りの女子たちが、オレの後ろをちらちらと楽しそうに振り返っている。
イケメンでもいるのかな?
ふと振り返った時、すぐ後ろを歩いてた人にぶつかってしまった。
「あ、ごめ――」
でっか……。何センチあんの。ぶつかったのは、肩、胸? 顔が当たる高さじゃないよね。思わず眉をひそめてしまう。脚が長い。胸から、喉元、それから最後に顔を、見上げた。
見つめ合って――ぽけ、と時間が止まった。息をするのも忘れる。
吸い込まれそうに、強い瞳。
騒がしい周りの声が、何秒か、完全に音を失っていた。たくさん居る周りの人たちが、見えなくて、ただただ、目の前の一人しか居ない世界。
目の前で、形のいい唇が、涼しげな声で、言った。
「オレ、自分が一目惚れなんてすると思ってなかったんだけど……どうしよ、オレ、お前が好きかもしれない」
それを言われた瞬間。周りの声が、戻ってきた。
ざわざわ騒がしくて――そんな中で言われた、そんな言葉。
っ……ありえないし!
そうだ、思い出した。昨日も今日も、めっちゃした決意を!
一目惚れなんか、絶対ありえない。
ゆっくり恋して、勉強も部活も全部、頑張るんだ!
決意してるオレの前で、ふ、と照れたように微笑みながら、前髪を掻き上げる仕草まで、絵みたいに、様になってる。
「なあ、名前、なに?」
その瞳が、オレを見つめて、優しく煌めいた気がした。どっきんと、胸が大きく音を立てた。
名前聞かれたくらいで、こんなにドキドキするとかっ。
「翠」って、呼んでもらいたい、なんて。一瞬思ったような。
わー! もう、意味分かんない! ここは危険だ。危険地帯だ。
「お」
「お?」
「おしえない!」
オレはそう叫ぶと、猛ダッシュでそこから逃げて、一番奥の一組の教室に逃げ込んだ。
まっすぐに奥に向かって辿り着くと、がらっと窓を開けて、校庭と青い空を目に映した。
「……っ」
顔、熱いし、胸がドキドキで死にそうだし。
は? ナニコレ? 意味分かんない。
男だった。しかも、あんまり柄のよくない感じの。
でも笑うと、優しい感じで。声が良くて、カッコよくて――かぁ、と顔が熱くなる。
え、この症状って、まさか。
まさか、ひとめぼ……。
わー!!!!
何言ってんのオレ。
そんな訳ないって、あいつ男だし!!
あまりに背が高くて、なんかいっぱいアクセサリーもついてて、ちょっと不良っぽかったから。
今までオレの周りにいた人たちとは、だいぶ違ったから。
びっくりのドキドキだ! そうだ。それだけだ。
――マジで、落ち着け、オレ。
オレは、顔とかじゃなくて――中身を見てくれる人がいい。
一緒にいて、笑い合える人と、ちゃんと向き合っていきたいし、ずっと仲良く、手をつないで生きていきたい。
あんなモテモテそうな、ちゃらそうな、あんな感じの男、なんて。いくらルックスがよくたって、ありえない。
今インプットした顔は、全部忘れるんだ。
自分にそう言い聞かせながらも、鼓動は、まるで言うことを聞いてくれなかった。
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