一目惚れなんてしてないってば!

星井 悠里

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第一章

第9話

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 少し時間が経って、落ち着いてきた。ドキドキも収まって、もう一度、深呼吸をした。
 幸い、さっきの奴、クラスは違うみたい。人がだいぶ増えてきて、集合時間も近づいてきたけど、今になってもまだ入ってこないし。
 別のクラスってことは、そもそも接点は少ないだろう。

 よかった。さっきのは完全に忘れて、リセットしよう。
 入学式の日から、すべて狂っちゃうところだった。危ない危ない。

 教室を振り返って、くるりと見回す。出席番号順みたいで、番号のシールが机についている。リュックは机のフックに掛けるらしい。リュックしょったままずっと外を眺めてるとか、オレ、変だったかも。反省しながら、自分の番号の席に座った時、前の席の奴が振り返った。オレと目が合うと、ニコッと笑った。

「なあ、名前、何?」
 そう聞いてくる。短めの黒髪。人懐こそうで、人の好さそうな笑顔と明るい声。直感的に、仲良くなれそうと思った。
 
「久藤 翠だよ。翠でいいよ」
「翠ね。オレ、鎌田 陸かまたりく」
「陸って呼ぶね。よろしく」

 可愛い喋り方はしない。ちゃんと男っぽく。できてるよね? ていうか、元々オレ、中身は女の子っぽいってことはないはずだし。それに、陸はそういう心配はしなくて平気そう。……と言ってもなぁ。真意は分からないけど、亮介のこともあるしな。一瞬気持ちが落ちかけたけど、すぐに、陸が楽しそうに話し始めた。

「翠は何部に入るか、決めてる?」
「バスケに決めてる」
「え、オレも!」
「えー、ますますよろしく!」

 わー、マジで仲良くなれそう。と、喜んでいたところに先生が入ってきて、最初のホームルームが始まった。三十代くらいの男の先生だ。坂本先生と言うらしい。ちょっと丸っこいフォルムの、優しそうな人だ。良かった、怖そうじゃなくて、なんて思ったりする。

 クラスをくるっと見回すと、休みは居ないみたいで、全員座ってる。さっき廊下で会った奴は居ない。良かったよう。
 ……ってこんなの気にして、喜んでることがおかしい気もするけど、でも、なんか、とにかく、別のクラスで良かった! 

 先生の自己紹介、入学式のことについて、明日以降のことなど、いろいろ伝えられる。
 その間に、だんだん、気持ちが落ち着いていく。陸と普通に話せたのも良かったのかもしれない。

 よしよし。オッケー。
 しきり直しだ。

 見回した限り、すごい怖そうな人も居ないし、平和そう。
 偏差値高いし、不良とかは入れないしな。まあ話し出したら、頭がよすぎる故にちょっと変わってる人とかは居るかもしれないけど。いろいろ楽しみ!

 ……ってそういえば、さっきのあいつ、あの見た目で、頭もいいわけ? あの見た目でここに受かる頭を持ってるって、ずるい気がする。考えていたら自然に眉が寄ってきて、はっと気づいて、前髪を掻き上げながら、顔を元に戻す。
 絶対運動とかもできそうだったし、ちょっと、神様、不公平じゃないですかね。なんて。
 別に普段、神様を信じてもいないくせに、こんな時は、ちょっとそんなことも思ってしまう。
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